海洋プラスチックの物理学的理解

- どこから来て、どのように壊れ、散らばって行くのか-

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この分布を説明できますか?

マイクロプラスチック(長径が5mm以下のサイズ)は、その軽さのため、海洋のごく表層を漂います。採集されたマイクロプラスチックのサイズ分布(大きさ別の個数)は、サイズが小さくなるほど数が増え、あるところで最大を迎えた後、急激に数が減少します。最大となるサイズの違いはあれど、この傾向は採集された場所によらず普遍的です。小さな破片の数の急激な減少は、浮力を失うことによる沈降や、生物による取り込みによると推測されてきました。この「小さな破片の消失問題」は、海洋プラスチックの流入量と観測量の不一致「消えたプラスチックの謎 (Missing plastics problem)」とも関わってきます。しかし、この推測は、「小さいサイズの破片ほど数が指数関数的に増大する」との前提に基づきます。それは正しいのでしょうか?私たちはそこから考えていかなければなりません。


未解決問題

私たちは海洋プラスチックのことをどれだけ理解しているでしょうか?多くの人々の関心事は、海洋プラスチックが細かく砕けたマイクロプラスチックの海洋全体への広がりと生態系への侵入です。これまでの広範囲かつ詳細な観測や数値シミュレーション研究により、海洋のマイクロプラスチック濃度の現状やその将来の状態がある程度把握できるようになってきました。しかし、海洋プラスチックがどのように破壊されてマイクロプラスチックになるかについては、あまりよく分かっていません。一般的には、紫外線による劣化と波などの物理作用による破壊を経てマイクロプラスチックが生じると説明されますが、具体的な描像はまだ明らかになっていないのです。

破壊についての3つの視点

マイクロプラスチックのサイズ分布には普遍性があります。
それを物理的に説明するには詳細によらないマクロな視点が必要です。
なぜなら、マイクロプラスチックは、様々な種類のプラスチックの破片であり、
起源や砕けた場所、タイミング、破壊が起きたときの状況も様々だからです。
ここでの主な課題は、破壊をもたらす波などの環境場と
サイズ分布を結びつける統計則を発見することです。

マクロな視点で得られる統計則は、
個々のプロセスと関連づけられるものでなければなりません。
統計則の裏には必ず力学プロセスが働いています。
環境場の中でプラスチックがどのように破壊されるか?
破壊プロセスの“総体”が統計則と整合するか?
数値シミュレーションや実験によって
メソの視点で調べる必要があります。

破壊の数値シミュレーションや実験は、
破壊前のプラスチックの状態(劣化の程度)に依存します。
その状態はプラスチック内部の分子構造が
熱や紫外線などでどのように変化するかで決まります。
ミクロな視点での分析が必要です。

破壊を組み込んだ分散シミュレーション


マクロな視点で得られる破壊の統計則は、マイクロプラスチックが海でどのように広がるかの分散シミュレーションの発展につながります。従来の分散シミュレーションは、観測されたマイクロプラスチックの濃度データに基づいて行われています。しかし、実際には、海洋プラスチックは、流入地付近や立ち寄った先の浜での破壊を経てマイクロプラスチックになります。破壊の統計則を利用すれば、破壊が起きる場所の波の強さなどの気象条件に応じて、どのサイズのマイクロプラスチックがどの程度生じるかを予測することができます。

このプロジェクトが目指すもの

海洋プラスチック問題は、社会課題というだけでなく、これまでの科学的知識が及ばない難しくも興味深い科学的問いを含んでいます。このプロジェクトでは、海洋プラスチック問題について、その基礎となる破壊プロセスを解明し、それを軸に、海洋プラスチックの海への流入から生態系への取り込みに至る過程を論理的に体系化し、科学そのものの発展に寄与することを目指します。 研究成果は随時更新していきます。