気候変動予測とアフリカ南部における応用

Ⅰ.季節予報

 South Africa Risk and Vulnerability Atlas (http://rava.qsens.net/themes/climate_template)

 SINTEX-F1を用いた全球での予報
 (http://www.jamstec.go.jp/frcgc/research/d1/iod/seasonal/outlook.html )

 

Ⅱ.最新のトピック:亜熱帯ダイポール、結合モデルの開発、等

観測データと海洋大循環モデルを用いて、東京大学の森岡優志さんと共同研究者らは南大西洋の亜熱帯ダイポールモードの発達と減衰を研究しました。亜熱帯ダイポールモードは南大西洋の南西と北東にそれぞれ正と負の海面水温偏差を持つダイポール構造で特徴づけられ、南大西洋の海面水温に支配的な年々変動現象です。亜熱帯ダイポールモードの発生は亜熱帯高気圧の強化と南下によって引き起こされます。亜熱帯高気圧の強さと位置の変化は海面での蒸発量の変化を引き起こし、海洋混合層が南大西洋の北部で深く南部で浅くなります。これによって日射による加熱の効果が北部では弱く南部では強くなり、北部と南部にそれぞれ負と正の海面水温偏差が生じます(図中の上の四つのパネル)。亜熱帯ダイポールモードの減衰期には南大西洋北部(南部)で混合層とその下の水温の差が大きく(小さく)なるため、エントレインメントによる冷却の効果が大きく(小さく)なり、水温偏差が次第に減衰します(上から三段目の二つのパネル)。また、北部(南部)では深い(浅い)混合層が原因で蒸発による冷却が弱く(強く)なることも水温偏差の減衰に貢献します(一番下の二つのパネル)。本研究では混合層の深さの変化を考慮することが亜熱帯ダイポールモードのメカニズムを考える上で非常に重要であることを示しています。

南大西洋の亜熱帯ダイポールモードの (a) 成長期および (b) 減衰期の模式図。
赤色と青色がそれぞれ正と負の海面水温偏差をあらわす。その他の記号については下記参照。

Morioka, Y., T. Tozuka and T. Yamagata: On the growth and decay of the subtropical dipole mode in the South Atlantic, Journal of Climate, in press.

 

東京大学の東塚知己博士と共同研究者らは東京大学で開発された大気海洋結合モデル (University of Tokyo Coupled general circulation Model, UTCM) に三種類の積雲対流スキームを導入し、従来の結合モデルが再現できなかった赤道大西洋の海面水温の東西勾配に関して研究を行いました。その結果、三種類のうちの一つの積雲対流スキームを使用した場合に結合モデルが水温勾配を再現できることが分かりました。モデルの出力を解析した結果、熱帯収束帯の南北位置、南米北部の降雨域、北半球春季の西アフリカモンスーンに伴ってアフリカ大陸西岸に吹く南風の再現が鍵となっていることが分かりました。また、太平洋にモデルバイアスがあった場合、その影響を受けて南米北部の降雨量が減少することが分かりました。大気モデルのみを用いた実験からも他の海盆の諸現象を再現することが赤道大西洋のシミュレーション精度の向上に重要であることが確認されました。

↑赤道太平洋の海面水温の年平均値。ピンクの陰影は結合モデル比較プロジェクト phase 3 (CMIP3) の22個の結合モデルのばらつきを表す。UTCM_Kuo は本研究の結合モデル UTCMにKuo の積雲対流スキームを導入したモデルから得られた結果を表す。UTCM_Emanuel と UTCM_Tiedtke は Emanuelおよび Tiedtke の積雲対流スキームを導入したモデルの結果をそれぞれ示す。UTCMにKuoスキームを導入した結果だけが赤道大西洋の海面水温の東西勾配を再現できている。

Tozuka, T., T. Doi, T. Miyasaka, N. Keenlyside, and T. Yamagata (2011), Key factors in simulating the equatorial Atlantic zonal sea surface temperature gradient in a coupled general circulation model, J. Geophys. Res., 116, C06010, doi:10.1029/2010JC006717.

 

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東京大学の森岡優志さんと共同研究者はインド洋の亜熱帯ダイポールモードの発達メカニズムを研究しました。彼らはまず自己組織化マップと呼ばれる手法を用いて海面水温の経年変動を九つのタイプに分類し、海洋大循環モデルを用いたシミュレーションによって海面水温の発達過程を調べました。彼らの結果によると、この海域では日射による加熱を受け止める海洋混合層の厚さが海面水温の変動に本質的な役割を果たしています。混合層が平年よりも薄い(厚い)場合、日射による加熱の効果が強まり(弱まり)、海面水温が上昇(下降)した結果、亜熱帯ダイポールモード現象が発生することが分かりました。

 

←1996-97年の亜熱帯ダイポール現象期間中の海面水温偏差(JJA: 6-9月、SON: 9-11月、DJF: 12-2月、MAM: 3-5月)。 左側のパネルがHADISSTから得た観測値、右側のパネルが海洋大循環モデルの結果を表す。等値線間隔は0.2 ºC。黒のボックスが海面水温偏差の極を表す。

 

Morioka, Y., T. Tozuka, and T. Yamagata, 2010: Climate variability in the southern Indian Ocean as revealed by self-organizing maps. Climate Dynamics, 35, 1075-1088.

 

Ⅲ.力学的ダウンスケーリング:リンポポ州とケープタウン西部

 

Ⅳ.統計的ダウンスケーリング:農業と水資源管理に関する応用研究、

   携帯電話を通じた農家への情報の配布

 

Ⅴ.講義を通じた研究者の育成

 
講義風景   講義風景

 

 

記念写真    

 

 

池田元美教授、名倉元樹博士、佐々木亘博士、Satyaban Ratna博士が南アフリカの四つの大学(プレトリア大学、西ケープ大学、ケープタウン大学、ローズ大学)と一つの政府系機関(南アフリカ気象局)を訪れ集中講義を行いました。池田教授は気候変動と海洋の役割に関する講義を、名倉博士、佐々木博士、Ratna博士は講義ならびに研究成果の発表を行いました。

 
プレトリア大学での講義風景  

南アフリカ気象局での会議風景

( メンバー一覧  )

     
 
西ケープ大学の方々との記念写真   ローズ大学の方々との記念写真