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深層循環というと、グリーンランド沖で沈み込み世界中の海洋の深層を巡る「海洋ベルトコンベア」が有名ですが、実際には、世界の深層海水の半分以上は、南極周辺の海域で大規模に沈み込んだものです。また、「海洋ベルトコンベア」そのものも、南極周辺で大きく変成を受けて世界の海洋に広がります。南極周辺の海水の沈み込みと変成を「南極オーバーターン」と呼んでいます(下図)が、こうした高緯度海洋での大規模な海水の沈み込みと変成は、大気への熱の放出、大気中の溶存ガス成分の深層貯蔵、海洋の成層構造の維持等を通 じて、短期から超長期にわたる気候の変化と深く関連しています。



ところが、1990年代前半に実施された世界海洋循環実験計画(WOCE)の観測結果から、少なくともこの50年の間に、。南極周辺海域では、表層だけではなく中層でも水温上昇が検出されると同時に、南極オーバーターンそのものが弱くなっているという示唆がなされました。これらのことが、現在社会問題となっている地球温暖化を含む気候の変化と関連している可能性は非常に高いものの、その実態を定量的に評価し、気候変動の予測に結びつけるために、南極オーバーターンを取り巻くような空間的に密な測点上で、海面から海底まで、高い精度で水温や溶存物質を早急に計測することが望まれています。

海洋科学技術センターでは、創立30周年事業の一つとして、2003年8月から2004年1月にかけて、下図に示すように、南半球の南緯30度付近に沿って地球を周航し、上で述べた観測を実施する予定です。

この研究航海は、科学的に重要であるのはもちろんのこと、南半球での海洋研究の振興を目的として2001年に「全球海洋観測に関するパートナーシップ」(POGO)で採択されたサンパウロ宣言のフォロー、さらには2002年にヨハネスブルグで開催された持続的発展へ向けての国際サミット(WSSD)で紹介された南半球での日本の科学活動のひとつとしても意義の深いもので、アフリカ、南アメリカの8カ国から、若手研究者と技術者が乗船する予定です。観測は、約500の点で海面から海底までの水温・塩分・溶存酸素・栄養塩類・二酸化炭素量・炭素同位体比を高精度に測定・分析するという、人的な面でもハードウェアの面からも、これまでに例を見ない大がかりなものですが、海洋科学技術センターでは、全所をあげてその実現に向かって準備を進めています。また、過去の気候再現を目指したチリ沖でのピストンコア採泥観測と南大洋での物質循環解明を目指したケルゲレン海台付近での化学観測、観測船の通過がほとんど無いことから、データの空白域となっていた南東太平洋を中心に、Argoフロートの放流も行われる予定です。

この航海から得られたデータは、気候変動研究を進める上で極めて貴重であることから、2年以内の早急かつ詳細なデータの品質管理の後に、全世界の研究者に公開されることになっています。データの解析からは、地球温暖化等の気候変動にともなう、熱的、密度的な海洋の変化と、二酸化炭素・栄養塩等の物質輸送の変化を明らかにすることが期待できますし、また、地球シミュレータをはじめとする精密な気候変動モデルにとっては、海洋構造の長期変動再現性を検証するための数少ない組織的なデータセットの一つとなるものです。これらの研究を通じ、2003年の南半球周航航海は、地球温暖化を含む気候変動研究に大きく貢献することが期待されます。



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