第147回(2019年3月5日)

熊本雄一郎 (RCGC)
福島第一原発事故から8年:海洋において放射性セシウムはどこまで広がったのか?

2011年3月の福島第一原発事故から、ちょうど8年が経過した。事故によって海洋、主に北太平洋に放出された放射性セシウム(セシウム137)は約20ペタベクレル(PBq)と推定されているが、過去8年間にthermocline circulationに沿って広く北太平洋に拡がった。これまでの観測結果から明らかになったその空間的な広がり及びその時間スケールについてレビューするとともに、それらが海洋循環研究に与えたimplicationを議論したい。

日時:2019年3月5日(火) 14:00 から 15:00(終了時間厳守)
場所:横須賀本部海洋研究棟三階セミナー室

第146回(2019年1月15日)

杉浦望実 (RCGC)
プロファイル形状の特徴に基づく機械学習

ARGO フロートによる海洋観測プロファイルデータは, 圧力, 塩分, 温度からなる 3 次元ベクトルのシークエンスである. これを 3 次元空間内の「一筆書き」とみなして, その形状を反復積分という一連の量で特徴付けることができる. 各プロファイルにおいて, 反復積分どうしの積を和に置き換えることができるため, プロファイル形状に関する任意の非線形関数を反復積分の線形結合として表現することができる. この性質を利用して, ARGOプロファイルの品質管理フラグという非線形関数を機械学習により覚えさせ, 未学習のプロファイルに対して自動的にフラグをつけることを試みた. この技術は, ARGO データの品質管理を自動化する一助となると考えられる. なお, このような数理的構造は, 一般のプロファイルデータが持つものなので, 多くの分野への応用が期待できる.

日時:2018年1月15日(火) 14:00 から 15:00(終了時間厳守)
場所:横須賀本部海洋研究棟三階セミナー室

第145回(2018年12月13日)

細田滋毅 (RCGC)
海洋観測データへの機械学習の応用

国際Argo計画などによる近年の海洋観測の自動化により,観測データがこれまでになく膨大な量が蓄積されつつある。これらのデータ処理や品質管理方法はArgoデータ管理チームによって国際的に決められており,気候変動に伴う海洋の内部変動の定量的評価のために,これらの手法に基づく均一かつ高品質なデータの提供が重要となる。しかし,現実には各国各機関が個別に品質管理を実施しているため,なかなか均一に揃えることが難しいことが大きな課題となっている。そこで,情報系研究者と連携して,機械学習によるArgoデータ中心とした品質管理手法の開発を行ってきた。それは,水温・塩分の鉛直プロファイルを系列ラベリングによる学習によって判定する方法であり,特に鉛直方向の密度逆転エラーの検出については,既存の品質管理手法と同等以上の成績を上げることができた。一方で,実際に検出されるエラーの種類は多岐にわたり,かつエラー事例が必ずしも多くないため,効率よい十分な学習効果が得られにくいことも課題の1つである。

日時:2018年12月13日(木) 14:00 から 15:30(終了時間厳守)
場所:横須賀本部食堂

第144回(2018年11月30日)

伊藤大樹 et al. (中央水研)
渦および黒潮周辺におけるメソスケール以下の現象の観測

水平の長さスケールO(100) kmで特徴づけられるメソスケール現象の理解は、数値モデリング技術の向上や観測システムの発達などにより、ここ二十年で飛躍的に進展した。一方で、近年のさらなるモデリング技術の向上によって、メソスケール現象よりもさらに小さなスケールの現象を比較的現実に近い条件下で取り扱うことができるようになった。水平の長さスケールO(1–10) kmの現象はサブメソスケール現象といわれ、メソ–マイクロスケールのエネルギー輸送や物質の鉛直輸送において重要な役割を担うと考えられることから、理想化したモデル実験やシミュレーション等を用いた数値研究が活発である。
その一方で、現象の小さな時空間スケールの特徴から、現象の現場観測は非常に限定されている。そこで発表者らは、サブメソスケール現象の生成・発達過程に現場観測からアプローチすることを目的として、黒潮親潮混合水域のメソスケール渦付近および大蛇行中である黒潮の旋回部周辺において高解像度集中観測を複数回行った。メソスケール渦の観測は学術研究船白鳳丸KH-16-3次航海(2016年5月–6月)において、黒潮の観測は漁業調査船蒼鷹丸SY1708次航海(2017年8月–9月)、SY1804次航海(2014年4月)、SY1808次航海(2018年8月–9月)においてそれぞれ実施した。観測にはXCTD(水温・塩分)と船底ADCP(流速)を用いた。
中規模渦周辺の観測では、渦の周囲に巻きつく低温・低塩分水が複数断面においてみられ、その水温・塩分勾配が水平流速の鉛直シアの強制により増大する様子が観察された。また、渦の内部と外部で勾配の大きさに違いがみられ、発達中のフィラメントとその痕跡をトレーサーの勾配で区別できる可能性が示唆された。黒潮域の観測では、暖水が黒潮内側域へとメソスケール以下で波及する様子や、波及が起こりやすい海域の物理場、波及後の水塊の混合などが捉えられた。また、観測された浮力勾配と流速シアを用いて、波及に付随する大きな鉛直流速が見積もられた。

日時:2018年11月30日(金) 15:00 から 16:00(終了時間厳守)
場所:横須賀本部海洋研究棟三階セミナー室

第143回(2018年11月27日)

勝又 勝郎 (RCGC)
WOCE・GO-SHIP 観測で分かるインド洋の乱流 / 日米文化と応用科学

前半は CTD・LADCP のデータから推定されたインド洋の乱流混合について議論する。乱流混合は風・潮汐・海流と海底地形の相互作用などの原因で生じる。観測される乱流混合の強度は時間的にも空間的にも変動する。海洋上層(2000 m 以浅ていど)ではその変動がある程度説明できるようになってきたが、下層(海底から 2000 m 程度)はよく知られていない。過去のWOCE・GO-SHIP 観測の結果から推定したインド洋下層の乱流混合は北東に弱く南西に強いという空間分布を持つ。何がこのような分布を決めているのか。

後半は 6 か月の米国滞在から感じた文化の違いとその応用科学における発露を議論する。関連して今後 5 年程度の海洋現場観測の考え方の一例を提示する。WOCE 以前には存在しなかった「過去のデータ」と Ocean State Estimate で何ができるか。

日時:2018年11月27日(火) 14:00 から 15:00(終了時間厳守)
場所:横須賀本部海洋研究棟三階セミナー室

第141回(2018年10月26日)

杉浦望実 (RCGC)
エネルギー散逸率の鉛直平均を見積もる方法について

エネルギー散逸率は、乱流を特徴づける重要な量であるが、観測プロファイルがあまりにも不規則な挙動を示すので、その大きさを見定めにくい。発表では,海洋乱流に対して観測されたデータを分析することによって、深さ平均エネルギー散逸率の鉛直方向のシークエンスがあるスケーリング特性を持つことを示し、その特性を利用して鉛直平均値を適切に推定する方法を提案する。観測プロファイルのスケーリングに関しては、隣接する点の平均をとると、平均する区間長の対数に比例してその対数の期待値が増加することがわかった。さらに、各深度点での観測値をスケール変換することによって、それぞれをプロファイル全体を測定したものとみなすことができるため、たったひとつの観測プロファイルから鉛直平均エネルギー散逸率の対数の母平均を見積もることができる。このような推定方法を用いれば、観測プロファイルが間欠性によってたまたま大きな値を示しているのか、それとも平均的に高いエネルギー散逸を示しているのかを区別することができる。

日時:2018年10月26日(金) 14:00 から 15:00(終了時間厳守)
場所:横須賀本部海洋研究棟三階セミナー室

第140回(2018年10月9日)

梅田 振一郎 (RCGC)
NOAA調査船によるインド洋IO7N測線再観測航海乗船記

アメリカ海洋大気庁(NOAA)の調査船「Ronald H. Brown」号は、2018年にGO-SHIP IO7N測線の観測航海を実施した。IO7N測線はインド洋の北西部に位置しており、今回の航海は1995年に実施されたWOCE航海以来23年ぶりの再観測となった。また、IO7N測線は我々が近年中の観測を計画しているIO7S測線と接続することにより、大陸間で閉じる観測を成立させている。 今回、IO7N測線の再観測航海に参加する機会を得たので、参加中に見聞した他機関におけるGO-SHIP航海の様子を紹介する。

日時:2018年10月9日(火) 14:00 から 15:00(終了時間厳守)
場所:横須賀本部海洋研究棟三階セミナー室

第139回(2017年12月12日)

杉浦 望実 (地球環境観測研究開発センター)
経路の分布の最頻値を見つけるためのコスト関数について

シミュレーションで得られる経路を最適化する問題設定に関しては,勘違いが生じやすい.最小二乗法によって最も生起確率の高い経路を見つけることはできる.しかし,それが起こりうる経路が最も密集するルートを示しているとは限らない.この発表においては,どのように経路の分布の最頻値を最適化法で見つけることができるかを説明する.この考え方は,弱拘束四次元変分法のコスト関数の設定根拠となる.

日時:2017年12月12日(火) 14:00 から 15:00(終了時間厳守)
場所:横須賀本部海洋研究棟三階セミナー室

第138回(2017年11月16日)

牛島 悠介 (京都大学大学院理学研究科)
海面熱フラックスの日変化が海面加熱期の混合層深度と海面水温変化に与える影響に関する研究

海洋の混合層深度は海面水温の変化に大きな役割を果たす。海面加熱期には混合層が浅く、海面熱フラックスに対する海面水温の応答が大きいため、大気海洋相互作用において海面加熱期の混合層深度は重要であると考えられる。本研究では、従来の研究で無視されることが多かった海面熱フラックスの日変化が海面加熱期の混合層深度に与える影響を調べた。乱流を精度良く再現可能なLarge-eddy simulationを用いて数値実験を行った結果、熱フラックス日変化によって混合層深度は低緯度で深く、高緯度で浅くなり、日変化の有無によって緯度に対する依存性が異なることが明らかとなった。この日変化による混合層深度の違いは海面水温の変化をもたらす。6月の北太平洋では日変化の有無によって、中高緯度で0.3-0.5K程度の差が生じることが示唆された。これらの結果は、中長期の気候変動に関する多くの研究で無視されてきた日変化の変動がより長周期の変動に影響を与える可能性を示している。日変化による緯度依存性のメカニズムについては講演時に述べる。

日時:2017年11月16日(木) 14:00 から 15:00(終了時間厳守)
場所:横須賀本部海洋研究棟三階セミナー室

第137回(2017年10月20日)

John Philip Matthews (Environmental Satellite Application, Kyoto Univ.)
Floating debris evolution within a complex ocean mixing regime

The effects of locally perturbed wind and wave fields, active Langmuir circulation and current-induced attrition within complex ocean mixing regimes determine a poorly understood morphology for large floating arrays of debris. I discuss how the early post-tsunami evolution of marine-debris plumes near Fukushima Daiichi was also shaped by near-surface wind modifications that took place above relatively calm (lower surface roughness) waters covered by surface films derived from oil and other contaminants. More generally, such wind restructuring probably stimulates the dispersion of flotsam from both biological and anthropogenic sources throughout a global ocean of highly variable surface roughness.

日時:2017年10月20日(金) 14:00 から 15:00(終了時間厳守)
場所:横須賀本部海洋研究棟三階セミナー室

第136回(2017年7月4日)

名倉 元樹 (RCGC)
The Shallow Overturning Circulation in the Indian Ocean

The number of in-situ observations in the Indian Ocean has dramatically increased over the past 15 years thanks to the implementation of the Argo profiling float program. This study estimates the mean circulation in the Indian Ocean using hydrographic observations obtained from both Argo and Conductivity-Temperature-Depth (CTD) observations. We use absolute velocity at the Argo float parking depth so we do not need to assume a level of no motion. Results reveal previously unknown features in addition to well-known currents and water masses. Some newly identified features include the lack of an interior pathway to the equator from the Southern Indian Ocean, indicating that water parcels must transit through the western boundary to reach the equator. High potential vorticity (PV) intrudes from the western coast of Australia in the depth range of the Subantarctic Mode Water, which leads to a structure similar PV barrier. The subtropical anti-cyclonic gyre circulation retreats poleward with depth, as happens in the subtropical Atlantic and Pacific. Meridional mass transport indicates about 10 Sv southward flow at 6°S and 17 Sv northward flow at 20°S, which results in meridional convergence of currents and thermocline depression at about 15°S. Our estimated absolute velocities agree well with those of an ocean reanalysis, which lends credibility to both the model based and our strictly data based analysis.

日時:2017年7月4日(火) 14:00 から 15:00(終了時間厳守)
場所:横須賀本部海洋研究棟三階セミナー室

第135回(2017年6月20日)

重光 雅仁 (地球環境観測研究開発センター)
One possible uncertainty in CMIP5 projections of low-oxygen water volume in the Eastern Tropical Pacific

地球温暖化によって海洋中の溶存酸素濃度が低下することは、水温上昇および酸性化とともに海洋生態系に影響を及ぼす。溶存酸素濃度の将来予測で注視すべき場所は、現在すでに溶存酸素濃度が低く貧酸素水塊が広がっている海域であろう。これまでの研究によると、全球の貧酸素水塊体積の将来予測は不確実性が高い。本研究では、第5期結合モデル相互比較計画(CMIP5)に提出されているモデルの結果を用いて、貧酸素水塊体積の将来予測が最も不確かである海域を調べ、それが東部赤道太平洋であることをまず示す。その要因を探るため、単一モデルを用いて東部赤道太平洋における溶存酸素の収支解析を行った。その結果、赤道潜流によって供給される酸素量が温暖化に伴い減少し、その減少が貧酸素水塊体積の増加に最も影響していることを明らかにした。単一モデルで確認された機構がCMIP5モデルの結果にも適用可能かどうかを検討したところ、温暖化に対する赤道潜流のモデル間の応答の違いが、貧酸素水塊体積の将来予測の不確かさの一因になっていることが示された。

日時:2017年6月20日(火) 14:00 から 15:00(終了時間厳守)
場所:横須賀本部海洋研究棟三階セミナー室

第134回(2017年6月13日)

井上 龍一郎 et al. (地球環境観測研究開発センター)
Wind-induce mixing in the North Pacific

海洋深層の成層構造を決める物理過程の一つである鉛直乱流拡散は、大気擾乱や潮汐から励起される海洋内部波によって主に引き起こされると考えられているが、その時空間変動については不明な点も多い。本研究では、冬季北太平洋において大気擾乱が海洋に励起する近慣性周期運動の時空間変動特性を、大気再解析データを用いて調べ、近慣性周期運動の長期変動は、アリューシャン低気圧の長期変動と関係することを示唆した。さらに、海洋内部(700-1000dbar)の鉛直混合強度の時空間変動を、アルゴフロートデータを用いて考察した結果、北太平洋広範にわたる鉛直混合強度の季節変動を見いだした。また、混合が強まる冬季の鉛直混合強度の大気外力への依存性には、経年変動よりも空間構造を反映する傾向が見受けられた。

日時:2017年6月13日(火) 14:00 から 15:00(終了時間厳守)
場所:横須賀本部海洋研究棟三階セミナー室

第133回(2017年5月2日)

勝又 勝郎 (地球環境観測研究開発センター)
南極環海流の蛇行(定常渦)

世界最大の流量をほこる南極環海流 (ACC) は、地形に強く補足された蛇行部と比較的南北に変動しやすい部分で力学的な構造がかなり異なることが分かってきた。東西平均のような空間大規模平均からのずれを「渦」と考えると、蛇行部は ACC という平均流が海底地形という「山岳」の風下側に渦を作る山岳波に類似した定常渦と理解出来る。平均流である ACC が変動したときにこの「渦」はどう応答するか、という問題を Argo フロートから観測した 1000 dbar 深の流速と温度塩分プロファイルを用いて考察した。表層から 1000 dbar 深の地衡流量を求めその流線の曲率を計算する。曲率の絵から大きな定常渦を七つ同定した。渦による曲率の変動を計算すると領域平均で曲率は減少した。すなわち流線を長くするように変動した。この変化はとくに南北にのびる海底地形(海嶺)の東側斜面で大きい。東側斜面では表層の風による運動量の鉛直伝播も生じており、ACC と海嶺の相互作用における東側斜面の重要性が明らかになった。

日時:2017年5月2日(火) 14:00 から 15:00(終了時間厳守)
場所:横須賀本部海洋研究棟三階セミナー室

第132回(2017年4月18日)

村田 昌彦 (地球環境観測研究開発センター)
南大洋インド洋セクターの南極底層水における人為起源CO2蓄積量の増加

海洋が吸収する人為起源CO2の約40%は南大洋が引き受けていると推定されていることから、全球規模のCO2収支において、南大洋は最も重要な吸収源の一つとみなされている。南大洋では、ここを起源とする水塊である亜南極海モード水と南極中層水が、人為起源CO2を吸収し北方に輸送するうえで大きな役割を果たしていることが知られている。しかしながら、南極底層水(Antarctic Bottom Water; AABW)が人為起源CO2を吸収し蓄積する役割については、以前として議論が続いている。1980年代の研究では、海氷が存在することで大気海洋間でのCO2交換が抑えられることや、人為起源CO2を全くもしくはほとんど含んでいない水塊(例えば周極深層水)との混合の結果、人為起源CO2のシグナルが薄められることにより、AABWに吸収され蓄積される人為起源CO2は少ない(Chen, 1982; Poisson and Chen, 1988)といわれていた。最近の研究では、その値はそれほど大きくはないが、AABWでも有意に人為起源CO2が含まれていることが示されている(Ríos et al., 2012; Pardo et al., 2014)。これに加え、温暖化や、淡水化、酸性化などの海洋変動が、人為起源CO2の吸収と蓄積に及ぼす影響については、不明確なままである。
AABW(中立密度γn が28.27 kg m-3以上の水塊)がどれほど人為起源CO2を取り入れているかを明らかにするために、南大洋のインド洋セクターのおおよそ62°Sにおける東西断面の30°Eから160°Eの範囲で、10年規模での人為起源CO2の増加を調べた。この目的のために、1994年/1995年と2012年/2013年の約17年の間をおいて観測された炭酸系項目と関連する項目の高精度データを使用した。これらの高精度データは、World Ocean Circulation ExperimentとGlobal Ship-based Hydrographic Investigations Programといった国際観測プログラムの下で取得された。人為起源CO2増加の深度-経度の断面図から、ケルゲレン台地の東側と西側で、AABWの人為起源CO2増加にははっきりとした違いがあることが分った。すなわち、東側では5 μmol kg-1を超す人為起源CO2の増加が認められたが、西側では増加は小さいかもしくは減少傾向を示していた。東側では、従来の研究とは異なり、人為起源CO2の増加は底層水、すなわちAABWで最も大きく(>9.0 μmol kg-1)なっていた。高い増加傾向は、110°Eの東側でより顕著であった。深層水と底層水での人為起源CO2の有意な増加傾向は、東西断面を通してみられたが、その大きさと深度の範囲は110°Eから西に向かうにつれて、徐々に小さくなっていた。人為起源CO2増加の鉛直分布は、フロン12の10年スケールでの変化と六フッ化硫黄の分布と有意な正の相関がみられた。フロン12と六フッ化硫黄は両者とも海洋循環とヴェンチレーションの指標として用いることができることから、有意な相関があるということは、人為起源CO2増加の分布は、もっぱら物理過程によって支配されていたことを意味している。人為起源CO2増加の計算に全アルカリ度を入れた場合と入れない場合で比較したところ、50°Eより西の海域で人為起源CO2増加の計算結果に差があり、後者の計算結果が前者より小さかった。この違いは、南大洋で粒子状無機炭酸の生産が減少していること(Freeman and Lovenduski, 2005)に関係している可能性がある。人為起源CO2の蓄積率は130°E-160°Eで最も高く1.1 ± 0.6 mol m-2< a-1であった。この値は、統計的に有意な人為起源CO2増加分のみを海底から海面までを積分したものであることから、控えめな値であると判断している。ケルゲレン台地の西側では、蓄積率は0.2 ± 0.1 mol m-2 a-1程度であった。この人為起源CO2蓄積率の違いは、AABWの形成海域が違うことによるものと思われる。すなわち、80°E(ケルゲレン台地)より西では、そのAABWは主としてウエッデル海起源の水から成り、80°Eの東側ではアデリー沿岸とロス海起源の水で構成されている。
 本研究では、南大洋のインド洋セクターの少なくともその東部においては、底層水による人為起源CO2を吸収し蓄積するプロセスが有効に働いていることが明らかとなった。

日時:2017年4月18日(火) 14:00 から 15:00(終了時間厳守)
場所:横須賀本部海洋研究棟三階セミナー室

第131回(2016年11月29日)

Susana Flecha Saura (RCGC)
Carbon fluxes in coastal systems in the South-Atlantic Iberian Basin: CO2 exchange with the atmosphere and quantification of the anthropogenic footprint

The work that will describe in the seminar was focus on improving the understanding of the processes that regulate the carbon cycle in the unique aquatic systems present in the South-Atlantic Iberian Basin, including oceanic areas, represented by the Gulf of Cadiz and the Strait Gibraltar, as continental areas whose exponents are the estuary of the Guadalquivir and the Doñana wetlands. Thus, aspects such as the role of these regions in the capture or emission of atmospheric CO2, the anthropogenic carbon fraction, the control elements of the gas transfer and the main consequence of increased dissolved CO2 in seawater, i.e. ocean acidification, were evaluated. The results obtained involved the contribution of new quantitative specific carbon stocks in this region.

日時:2016年11月29日(火) 14:00 から 15:00(終了時間厳守)
場所:横須賀本部海洋研究棟三階セミナー室

第130回(2016年6月14日)

安中 さやか (地球環境観測研究開発センター)
北太平洋表層栄養塩濃度の長期変動特性

1961年1月〜2012年12月,北緯10度以北の北太平洋における,表層主要栄養塩濃度の長期変動特性を明らかにした。国環研と加IOSによる定期貨物船を利用した観測結果を中心に,これまでにない多くの観測値を集めた。統計的な品質管理をした後,最適内挿法により,月1度×1度格子の推定値を計算した。PDO指数に対する回帰は,3成分とも,亜寒帯西部と亜熱帯亜寒帯境界付近で正,亜寒帯東部で負となっていた。NPGO指数に対する回帰は,3成分とも,亜寒帯全体で正となっていた。トレンド時系列に対する回帰は,リン酸塩とケイ酸塩では,北太平洋の広い領域で負値を示すのに対し,硝酸塩では,正負入り乱れていた。

日時:2016年6月14日(火) 14:00 から 15:00(終了時間厳守)
場所:横須賀本部海洋研究棟三階セミナー室

第129回(2016年5月31日)

杉浦 望実 (地球環境観測研究開発センター)
マルチスケールのデータ同化に用いる粗視化感度について
Coarse -grained sensitivity for multiscale data assimilation

データ同化に現れる最適化問題は,モデルの非線形性とマルチスケール性に起因して,勾配を使った方法では解きにくい場合がある.しかし,制御変数の場を粗視化して扱うことにより,コスト曲面を平滑化することが原理的に可能である.本発表では,くりこみ群の手法を用いて,速いスケールを消去したコスト関数を導出するとともに,その勾配を評価する方法を議論する.また,ローレンツモデルを例にとって,その効果をみる.

日時:2016年5月31日(火) 14:00 から 15:00(終了時間厳守)
場所:横須賀本部海洋研究棟三階セミナー室

第128回(2016年4月12日)

増田 周平 (地球環境観測研究開発センター)
異なる時間スケールの変動現象を考慮に入れたエルニーニョ予測

熱帯太平洋域の変動現象の一つであるエルニーニョ現象は、いったん発達すると猛暑や旱魃、豪雨など社会的に影響の大きな異常気象を世界各地で引き起こすことが知られている。そのため、各国の気象機関などで数値モデルや海洋、大気観測データを用いて精力的な予測研究が行われており、いくつかの公的機関からはエルニーニョ予報が公開されている。しかしながら、予報の精度にはいまだ改善の余地がある。本研究では最新の気候データセットを用いて、太平洋域におけるさまざまな時間スケールの熱帯気候変動がここ数十年でどのように変遷していたかに焦点を当てた力学解析を実施し、それらがエルニーニョの時間発展にどのような役割を担っているかを考察しつつ、Spring persistence barrierに起因する北半 球の春を越えた予測精度の低下を解消しうる予測スキームを提案する。

日時:2016年4月12日(火) 14:00 から 15:00(終了時間厳守)
場所:横須賀本部海洋研究棟二階セミナー室

第127回(2016年3月1日)

纐纈慎也 (RCGC)
2000年以降の北太平洋中深層変動の広がり

1990 年代に実施された WOCE Hydrographic Programme (WHP) では,大洋を横断する複数の船舶観測ラインが設定され,表層から底層まで採水多項目観測を行うことで海洋の広域の熱・物質分布を明らかにした. 2000 年代以降, CLIVAR-CARBON, GO-SHIP のもとで 10 年程度の一定期間をあけて同ラインを実施することで,海洋の大域的な変化について最も基礎的な情報を与える観測が行われている.この観測は,中深層における微細な変化を捉えられる精度を多項目で可能にすべく技術的な検討も同時に行い,実際にそれら観測・データ校正技術を通した高精度データの提供を行っている. 一方で,近年,海洋内部を比較的広範に把握する現場観測として, Argo プロジェクトによる自動昇降型海洋観測フロート観測網が整備・維持されており,2000 年代以降,2000dbar までは3次元的な変動検出が可能となっている.Argo データは,各機関による即時の品質管理,及び,より高精度な遅延品質管理を通じ,特に海洋表層の変動を捉えるのに十分な精度の観測となっている.しかしながら,より深層の微小変化をどの程度把握できるかは,十分に明らかとは言えない.そこで,本研究では,前述の高品質船舶観測により捉えられた変化を起点に,Argo 観測網でその変化の時空間分布を把握する試みを北太平洋で行ったのでその成果について報告する.

日時:2016年3月1日(火) 14:00 から 15:00(終了時間厳守)
場所:横須賀本部海洋研究棟三階セミナー室

第126回(2016年2月18日)

Fadli Syamsudin (BPPT)
Water masses crossroads observed during MR15-05 and a revisit of 8 Baruna Jaya hydrographic Cruises in the Southern Jawa-Bali waters

Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology (JAMSTEC) and Agency for the Assessment and Application of Technology (BPPT), Indonesia have conducted hydrographic CTD and XCTD measurements across near the coast to the southern off central Jawa water during MR15-05 cruise from 23 December 2015 to 11 January 2016 using R/V Mirai. In this study our research interest focuses on the XCTD crossed transect from southern off central Java to the near coast Java water and XCTD along transect from coast of east Java to Bali water. The recent measurement from Mirai cruise showed a crossroad region in the study area of intense mixing among the water masses coming from the Southern Indian ocean subtropical and central waters; the northern Indian ocean, and fresher Indonesian sea waters along the southern coast of Indonesian archipelago. The northern Indian ocean water (NIW) was found trapped at the depth around 300 – 500 db with relatively high salinity > 34.75. The temperature profiles from 3 transects exhibited deeper mixed layer down to 90 – 100 db which was in contrast with the expected much colder water due to strong El Nino episode during January 2016. The Sea Surface Temperature images of Himawari-8 satellite confirmed this warmer anomaly condition along the ship track R/V Mirai during the 7 – 10 January 2016 when XCTD measurements were taken. Instead of the warmer hydrological condition along the conducted R/V Mirai cruise, the surrounding eastern Indian ocean was occupied by colder water in coincidence with strong El Nino event at the present study. The salinity profiles revealed warmer water distribute along the southern coast of Jawa – Bali with less saline water from the west meet with more saline Indonesian Throughflow (ITF) water from the eatern part of the section near Lombok Strait. Both temperature and salinity profiles prevailed strong baroclinity from the surface down to 200 – 300 db. Geostropihc velocity computation and LADCP analysis will be performed to see its profiles. Further analysis were carried out to see the water masses variability in the study area, especially to understand how the ITF affects the water mass distribution in the region of research interest, by utilizing 7 CTD hydrographic measurements using R/V Baruna Jaya cruises in the coverage research areas. A revisit of those CTD data taken during 7 – 21 March and 15 – 24 August 1990, August 1998, 12 – 14 May 1999, 29 – February – 2 March and 8 – 11 August 2000, 2 – 7 December 2001, and 23 September – 18 October 2015. The water mass variability and how its relationship with ITF will be futher talked and discussed during the seminar presentation.

日時:2016年2月18日(木) 14:00 から 15:00(終了時間厳守)
場所:横須賀本部海洋研究棟二階セミナー室

第125回(2015年12月1日)

熊本 雄一郎 (地球環境観測研究開発センター)
南大洋における海水中放射性セシウム濃度の鉛直分布と南極底層水の形成について

全球規模の海洋大循環は、南大洋および北大西洋における底層水形成によって駆動されている。近年の多くの研究によって南極底層水の沈み込みの弱化が指摘されているが、その形成量についての定量的な議論は限られている。人為的に大気に放出されたフロンは、海洋循環研究のための有力な化学トレーサであり、それを用いて南極底層水の形成量が推定されている。一方、核実験起源の放射性物質については、その起源が北半球に偏在していたため、南半球、特に南大洋ではその濃度が低く、南大洋における観測研究例は多くない。我々は海水試料の大量採水と極低バックグランドガンマ線測定によって、南大洋における核実験起源Cs-137濃度の鉛直分布をはじめて明らかにした。フロンガスと同様に、Cs-137濃度は表層水で最も高く、深層水(1000-2000 m)で極小を示し、底層水(4000 m以深)で相対的に高くなっていた。これは、核実験起源Cs-137が南極底層水の形成によって海底付近に運ばれたことを示している。フロンガス濃度から求められた南極底層水の形成速度(3 Sv)を用いた場合、新たに形成される底層水中のCs-137濃度は、表面海水中で観測された濃度の10%程度まで希釈された仮定すると、観測された底層水中の濃度と矛盾しないことがわかった。Cs-137はフロンガスとは異なり気体交換による供給がないため、両者を比較することで南極底層水形成時における大気・海洋間気体交換量を定量的に評価できる可能性がある。

日時:2015年12月1日(火) 14:00 から 15:00(終了時間厳守)
場所:横須賀本部海洋研究棟三階セミナー室

第124回(2015年11月24日)

細田 滋毅 (地球環境観測研究開発センター)
Impact of downward heat penetration below the shallow seasonal thermocline on the sea surface temperature

海洋表層での大気海洋間の熱交換過程や貯熱量変化を理解することは、大気海洋相互作用と直結する海面水温(SST)とその変動のメカニズムを把握するために必要不可欠である。これまで、中・高緯度における熱交換や貯熱量、SST 変動の研究の多くは、深い混合層が形成され、海洋から大気への熱の放出が活発化する冬季に焦点が当てられていた。一方、暖候期(春〜夏)は、日射強化の加熱に伴う季節躍層の形成によって混合層が浅くなり、混合層と下層の水温差が明確になる。このため、暖候期の海洋は、大気に直接コンタクトしている混合層が一方的に温められるだけの受動的な役割を果たすと考えられてきた。本研究では、季節サイクルにおいて、暖候期の季節躍層より下層まで含む海洋上層が SST や表層貯熱量の変化にとって重要な役割を果たしていることを、Argoフロートや衛星海面熱フラックスデータ(J-OFURO2)を用いて示した。
本研究では、暖候期における正味の下向き海面熱フラックス(Qnet)による貯熱量を見積もるために、密度変化からQnetの影響が明確に季節躍層下に浸透しているとわかる深度を熱浸透深度(heat penetration depth: HPD)と定義した。HPDの導入により、海面からHPDまでの貯熱量変化とQnetが、北太平洋中高緯度の大部分の海域で良くバランスしていたため、簡単のためにQnetと貯熱量変動との間で鉛直1次元過程が成り立つと仮定し、北太平洋での貯熱量変化とSSTとの関係を調べた。
その結果、北太平洋の広範囲で暖候期に季節躍層より下層にQnetによる熱が浸透していることが示された。試みに、Qnetの影響による熱が、浅い混合層とそれより下層にどの程度蓄えられるか比較すると、Qnetの約3分の2が季節躍層をすり抜け下層に蓄えられたと見積もられた。また、浅い混合層のみにQnetによる熱が蓄えられたと仮定した場合、SST上昇が観測値の2倍以上になるという見積もりも得られ、季節躍層より下方への熱浸透の効果がSST変化の緩和に貢献していることが示された。なお、診断的な解析により、この熱浸透は鉛直渦拡散過程の結果生じている可能性が示唆された。以上の結果は、海洋上層での熱交換過程において季節躍層下への熱浸透の重要性を示すとともに、混合層深度が浅い海域での SST 再現性があまり良くないとされる気候モデルの表層熱交換過程の改善にも役立つ可能性がある。

日時:2015年11月24日(火) 14:00 から 15:00(終了時間厳守)
場所:横須賀本部海洋研究棟三階セミナー室

第123回(2015年11月10日)

土居 知将 (地球環境観測研究開発センター)
海洋環境再現データセット(ESTOC)による溶存無機炭素の変動

四次元変分データ同化システムを使って評価した全球の物理・生物地球化学変量のデータセットを用いて、海洋溶存無機炭素(DIC)の十年スケールの変動を調べた。このシステムは海洋大循環モデルと低次生態系モデルで構成されており、物理場に対しては四次元変分データ同化手法を、生態系モデルに対してはGreen関数法を用いて、多様な観測ツールによって得られた海洋観測データを統合するものである。得られたDICの分布は過去の報告と概して一致したものだった。WOCE観測ラインに沿った鉛直断面上のDICの変化について、WOCEと再観測の差のパターンをモデルと観測で比較したところ、相関係数は太平洋で0.25~0.51、大西洋で0.36~0.62、インド洋で0.23~0.57であり、海盆スケールでの長期変動の再現性はどの海盆も同程度だった。各海盆で見積もったDICの鉛直フラックスは10年スケールで変動している様子を示した。これらの変動は恐らく海面からのCO2吸収と海洋循環の変動によるものと思われる。ここで使用した海洋のデータセットは、観測値とモデルを統合して得た力学的に矛盾のないものであり、海洋炭素循環の長期変化の調査に有望なツールである。

日時:2015年11月10日(火) 14:00 から 15:00(終了時間厳守)
場所:横須賀本部海洋研究棟三階セミナー室

第122回(2015年10月27日)

内田 裕 (地球環境観測研究開発センター)
北太平洋底層の循環の減衰

過去30年間に北太平洋で繰り返し実施された高精度大陸間横断船舶観測データを基に、北太平洋底層の水温、塩分、溶存酸素の長期変化を調べた。北太平洋底層の昇温、および低酸素化が見られた。これらの結果は、北太平洋底層の循環が弱化していることを示している。

日時:2015年10月27日(火) 14:00 から 15:00(終了時間厳守)
場所:横須賀本部海洋研究棟三階セミナー室

第121回(2045年10月13日)

勝又 勝郎 (地球環境観測研究開発センター)
アルゴフロートで計る南北渦輸送と東西運動量

2000 年代に入って着実に台数を増やしたアルゴフロートを用いて海流の力学における渦の定量化を試みた。半径 300 km の「円」で空間平均、1 年という期間で時間平均をとった場を平均場とするとそこからのずれとして渦場が定義される。簡単な線形補間で 1000 m における流速と温度・塩分を知ることが出来る。これらを用いていろいろな渦の量が計算できる。とくに興味深いのが上層 1000 m の南北渦輸送(いわゆる数値モデルにおける Gent-McWilliams 速度)と渦による東西運動量の鉛直輸送量である。両方とも南大洋で大きな値を示し、前者は傾圧不安定による等密度面を平らにする働き(Eddy compensation)、後者は海底地形に局在した南極環海流強制メカニズム(Intermittent ACC)を示す。

日時:2015年10月13日(火) 14:00 から 15:00(終了時間厳守)
場所:横須賀本部海洋研究棟三階セミナー室

第120回(2015年5月12日)

重光 雅仁 (地球環境観測研究開発センター)
海洋の窒素栄養塩収支を見積もるための窒素ガス利用可能性について

海洋の窒素栄養塩は多くの海域で一次生産を制限し、ひいては大気中二酸化炭素の生物による隔離を制限する。したがって現海洋における窒素栄養塩収支を明らかにすることは、過去、現在、未来における炭素循環を解明するために重要であろう。これまで、窒素栄養塩収支の見積もりについて様々な方法が提案・適用されてきたものの、窒素栄養塩収支に関わるそれぞれの生物過程の速度について一致した見解はなく、新たな手法の導入が待たれているところである。そこで本研究では、窒素栄養塩の除去源である「脱窒(ここではアナモックスも含む)」により供給され、供給源である「窒素固定」により消費される窒素ガスを用いることにより、それぞれの過程の速度を見積もることができないかを検討することにした。当該検討には、観測データ及び海洋物質循環モデルを用いた。一連のパラメータスタディの結果、窒素ガスを用いることにより「水柱で起こる脱窒」及び「中深層の堆積物中で起こる脱窒」を見積もれることが分かった。「窒素固定」及び「浅層の堆積物で起こる脱窒」については、気体交換の影響によりそのシグナルが消されてしまうため、別のトレーサーが必要となることも分かった。このように窒素ガスは、これまで最も見積もりの不確さが大きかった「中深層の堆積物中で起こる脱窒」について有望なトレーサーとなることから、今後高精度なデータを蓄積していく価値がありそうである。

日時:2015年5月12日(火) 14:00 から 15:00(終了時間厳守)
場所:横須賀本部海洋研究棟三階セミナー室

第119回(2015年4月28日)

細田 滋毅 (地球環境観測研究開発センター)
SeaGliderで観測された黒潮続流南側の小水塊と1/30°超高解像度モデル(OFES)の解析

水中グライダー(Seaglider)は、内部の錘を移動させてグライダーのように海中を移動でき、陸上から指令を与えつつ海面から1000mまでを約4〜5時間間隔という時空間的に高密度な観測が可能である。機構で所有するCTDと酸素センサー付Seagliderを用いて、黒潮続流の南側(KEOブイとS1係留系付近)の海洋内部の細かい変動を2014年2月〜6月の約4か月間観測した。
冬季混合層の上層に季節躍層が徐々に発達する中、4月下旬〜5月中旬にかけて主温度躍層に相当する26.0〜27.0σθにおいて、相対的に低温、低塩分、高酸素特性を持つ厚さ数m〜数十m、水平数km〜数十k程度の小水塊が複数観測された。これらの小水塊は、亜寒帯域が起源であると考えられるが、衛星の海面高度データで示される低気圧性渦の位置とは離れた海域で現れていた。また、低塩分、高酸素の特性は同じ小水塊に同時に現れたわけではなく、位置や深度が異なる場合もあり、起源が異なることが示唆された。
水平解像度1/30°OFESによる2003年のHindcastデータを用いた解析でも、ほぼ同様の小水塊が現れていた。この小水塊の起源を等密度面上の低塩分、高酸素水に着目して調べると、それぞれの形成位置が異なることが示唆され、どちらも混乱水域から中規模渦に引っ張りこまれる形で南方へ移動し、約1,2か月という短い時間で黒潮続流を横切り南側に到達していた。OFESでは、この小水塊は比較的広範囲かつ高頻度で現れており、南北の熱・淡水・物質輸送と水塊変質に重要な役割を果たす可能性を示唆している。

日時:2015年4月28日(火) 14:00 から 15:00(終了時間厳守)
場所:横須賀本部海洋研究棟三階セミナー室

第118回(2015年2月24日)

中野渡 拓也 (地球環境観測研究開発センター)
北太平洋西部の塩分極小層に見られる数十年スケールの淡水化:亜熱帯循環の境界を横切る亜寒帯水の重要性

Wong et al. (1999, 2001)によれば、1930-1980年とそれ以降のWOCEの観測データの解析から、北太平洋中層水(NPIW)や南大洋中層水(AAIW)が低塩化していることを指摘している。このような低塩化は水柱全体に及んでいることから、海面の淡水フラックスの増加に伴う水塊変質が生じていることが示唆されている。しかし、AAIWと異なりNPIWの形成域である北太平洋では塩分極小層の密度26.8sigma_thetaは海面に露出しないため、彼らの指摘する熱塩プロセスでは水塊の低塩化は起こらないと考えられる。

本研究では、NPIWの低塩化の他の原因としてPDOに伴う風成循環の変化の影響に着目して、NPIWの低塩化メカニズムを調べた。観測によって得られた塩分データ(1955-2004年)の解析を北太平洋全域に広げて行った結果、26.8sigma_thetaの等密度面における低塩化は亜熱帯域にまで広く及んでいることが分かった。中層水の低塩化はこれまでにも指摘されているものの、その空間分布を北太平洋全域で示したのは初めての試みである。NPIWの低塩化は三陸沖の混合水域(MWR)において特に顕著であり、ポテンシャル渦度の低下を伴うことから、オホーツク海起源の低渦位水が亜熱帯循環に輸送されていることを示唆する。

このような中層水の低温化に対する循環境界を横切る水塊の輸送量の影響を評価する為、「気象研究所共用海洋モデル」(MRI Community Ocean Model)の渦解像バージョンによる歴史実験データを解析することによって調べた。その結果、風応力の変化によって主に駆動されたモデルによって、観測に類似したNPIWの低塩化が再現された。親潮流量やEKEの解析より、亜熱帯循環域への亜寒帯水の輸送量が増加していることをサポートする結果が得られた。このような循環境界を横切る輸送量の変化は、海盆全体の淡水量には影響しないが、長期的な水塊変質を考える上で重要な役割を担うことが示唆される。

日時:2015年2月24日(火) 14:00 から 15:00(終了時間厳守)
場所:横須賀本部海洋研究棟三階セミナー室

第117回(2015年2月3日)

小林 大洋 (地球環境観測研究開発センター)
「In situ calibration of salinity measurements with fresher-ward pressure dependence of deep profiling floats (深海用フロートにみられた圧力依存性のある塩分偏差とその補正)」

Important rolls of the deep ocean on the climate change have been increasingly recognized and a deep float is one of the most suitable devices to collect a lot of deep ocean data. Recently, a deep float, Deep NINJA, began to observe temperature/salinity up to 4,000 dbar depth. However, data-quality of the deep float measurements was not evaluated yet, especially in the deeper ocean than 2,000 dbar, where the variability is much smaller than the upper ocean. This study investigated the data-quality of Deep NINJA floats’ measurements, as an example of deep float observations, in comparison with nearby shipboard observations. The salinity measured by deep floats was biased with fresher-ward pressure dependence: salinity at 4,000 dbar was fresher by about 0.005 in average. The pressure dependency seems stable for long time generally, but it was apt to moderate rapidly within the first few observations as it was severe initially. The fresher-ward pressure dependence could be explained well by unsuitable setting of a parameter to cancel compressibility of the CTD sensor measuring cell; however, more investigations are required to identify the causes. The salinity bias can be corrected with sufficient accuracy with a shipboard observation at float deployment; change of the sensor parameter could improve in data-quality largely even without the reference. The CTD sensor on Deep NINJA was basically the same as one for Argo floats; the pressure dependency was not detected in the salinity measurements by the examination on more than 160 Argo floats, fortunately.

日時:2015年2月3日(火) 14:00 から 15:00(終了時間厳守)
場所:横須賀本部海洋研究棟三階セミナー室

第116回(2015年1月20日)

安中 さやか (地球環境観測研究開発センター)
「北太平洋表層栄養塩マッピングとその季節・経年変動」

国立環境研究所とカナダ海洋科学研究所による定期貨物船を利用した栄養塩データおよび PACIFICA に含まれる表層データと、海面水温、海面塩 分、クロロフィルa濃度、混合層深度から、2001年1月から2010年12月の北太平洋表層栄養塩濃度の推定を行った。平均的な季節変動とし て、混合層深度の深くなる晩冬に、亜寒帯域で栄養塩濃度が高くなり、その後夏に向かって低下していく様子が見られた。また、10年間で平均した季節変動成分を差し引いた偏差場に対する主成分分析の結果、最も卓越する変動として、北太平洋10年規模に伴う変動が得られた。

日時:2015/01/20 の 14:00 から 15:00(終了時間厳守)
場所:横須賀本部海洋研究棟三階セミナー室