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HPCI戦略プログラム分野3

東北大学ダウンスケールシステムDS3を用いた京コンピュータによる世界初の観測された海風前線三次元構造の超高解像度再現実験

  研究概要
 海風は沿岸域の気温や風、大気汚染などさまざま気象に影響を与え、局地的な豪雨のトリガーとなることもありますが、海風前線の詳細構造や侵入を正確に予測・再現することは大変難しい課題とされてきました。  海風前線などの現実的な超高解像度のシミュレーションを可能にするため、東北大学では、個々のビルを表現できる超高解像度の数値流体(CFD)モデルを並列化し気象庁非静力学モデルに基づく局所アンサンブル変換カルマンフィルタ(NHM-LETKF)と呼ばれるデータ同化システムと結合させたダウンスケーリングシミュレーションシステム(DS3)を開発しました。京コンピュータを用いることにより、数mの格子間隔で個々のビルを解像しながら数十km四方の領域を対象にする実験が可能になりました。ここでは、実験で再現された仙台空港周辺の海風をドップラーライダーの観測と比較しました。

 図1は、2007年6月15日16時の仙台空港での2台のドップラーライダーによって観測された海風前線三次元構造です。エアロゾルが前線面に集中しフロントヘッドで不規則な形状を示しています。フロントヘッドでは強い上昇流が生じる一方、東側の後方には下降流が見られます。海風前線の通過後、風の急変と気温の低下が仙台空港で観測されました。  図2は、水平格子間隔10mのDS3による仙台空港での気温と風の場を示します。この実験では、NHM-LETKFによる気象場にDS3をネストするとともに、海上に小さな気温摂動(-1°C)を人工的に加えて重力流としての海風のフロントヘッドを強化しました。ライダーの観測と比較して海風前線の内陸への侵入とその詳細構造が良く再現されています。再現された場は、数百mスケールでの不規則な多数の凹凸を伴う海風前線面の特徴を良く表しています。陸上の暖かい空気は、前線面が到達すると上昇し、上空に運ばれます。海側からの冷たい気塊も前線面で上昇しますがすぐに下降し、前線面での大気汚染物質が高濃度となる領域を形成します。前線面の膨らんだ場所で強い反流が生じやすくなっています。

 この研究では、海風前線の3次元構造を前例のない超高解像度で現実的に再現しました。これまでも高解像度のLESシミュレーションやビルを解像するモデルによる局地的な風のシミュレーションは行われた例はありますが、領域データ同化システムにネストしたビルを解像するモデルで、実際に観測された海風前線の詳細構造をこのような高解像度で再現したのは世界でも初めてのケースと言えます。このモデリングの結果は、海風前線の力学とその局地的な気象場への影響について新しい知見をもたらすもので、沿岸域や空港周辺などの精度の高い気象予報につながるものです。
 この技術では、個々のビルを解像することにより高層ビルが立ち並ぶ大都市での風の予測を改善する技術となることが期待されます。図3は、海風がある典型的な状況での別事例における仙台駅周辺の気温分布の予測について、解像度を3mにしてビルを解像するモデルで計算を行った例を示します。今後は、京コンピュータの能力をフルに発揮させた大規模計算を行うとともに、より多くの事例についてさらに研究を進め、超高解像度数値モデルによる予測の精度を調べていく予定です。

 この研究についての詳細は、米国気象学会の専門誌Monthly Weather Reviewに以下の2つの科学論文として掲載されているほか、神戸国際会議場で平成26年3月7日に開催された第4回超高精度メソスケール気象予測研究会で紹介されました。

Chen, G., X. Zhu, W. Sha, T. Iwasaki, H. Seko, K. Saito, H. Iwai, and S. Ishii, 2015: Toward Improved Forecasts of Sea-Br eeze Horizontal Convective Rolls at Super High Resolutions. Part I: Configur ation and Verification of a Down-Scaling Simulation System (DS3). Mon. Wea. Rev., 143, 1849-1872.

Chen, G., X. Zhu, W. Sha, T. Iwasaki, H. Seko, K. Saito, H. Iwai, and S. Ishii, 2015: Toward Improved Forecasts of Sea-Br eeze Horizontal Convective Rolls at Super High Resolutions. Part II: The Im pacts of Land Use and Buildings. Mon. Wea. Rev., 143, 1873-1894.


図1. (a) 仙台空港で観測された2007年7月15日16時のエアロゾル濃度(ライダースキャンによるSN比)。
(b)2台のドップラーライダー観測から求めた高度200mの水平風(矢印)と鉛直風(カラー)。実線は海風前線、破線は仙台空港敷地の東縁の場所を示す。


図2. 2007年7月15日16時を初期値とするDS3によりシミュレートされた16時10分の気温と空気の流れ。地表面の色は温度分布を示す。294K(約21°C)の等温度面を水色で示す。流線の色は赤が上昇、青が下降を示す。


図3. DS3によりシミュレートされた海風侵入時(2007年6月19日13時)の仙台駅周辺の気温の分布。




本件問い合わせ先
東北大学理学研究科
 陳桂興()
 佘偉明()
気象研究所/海洋研究開発機構
 斉藤和雄()