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HPCI戦略プログラム分野3

チェジュ島風下に生ずるカルマン渦のシミュレーション

  研究概要
 冬季、衛星画像を見ていると、チェジュ(済州)島の風下には、流体力学で円柱などの後流に起きる「カルマン渦列」に似た雲パターンがしばしば現れる(図1)。本研究では2013年2月16日と20日に観測された渦列の事例について、「京」をはじめとするスーパーコンピューターを用い、水平解像度2kmの領域数値気象モデル(気象庁非静力学モデルJMA-NHM)による現実的な再現に成功し(動画1、2、図2)、渦列生成時の環境や、渦の構造について調べた。

 ユーラシア大陸よりチェジュ島に到達する冬季季節風は、比較的暖かい黄海上を吹走するため、海面から熱と水蒸気の供給を受け、対流により良く混合された「対流混合層」が1200m近くの高さまで発達している。チェジュ島の中央には、標高1950mのハラ山があり、孤立峰の背後に渦対を生じる力学的条件(フルード数と呼ばれる無次元数が小さいこと)を満たしている。互い違いに並んだ時計回りと反時計周りの渦の中心付近には、局所的に強い上昇流があり、大気下層の湿った空気が持ち上げて雲を生ずる(図3)ため、衛星画像で可視化される。

 流体力学でみられる、一様流中の円柱などの物体の背後に生じるカルマン渦列は、物体表面での摩擦で生じた粘性境界層の渦度に起因することが知られている。しかし、本研究でチェジュ島の地表面の摩擦を無くした実験を行っても、ほぼ同様の渦列が発生する。すなわち、大気中の孤立峰背後に生ずる「カルマン渦列」に似た渦列は、摩擦の存在を必要としておらず、成層流体に特有な現象であることがわかる。

 このような渦列そのものは災害をもたらす程の強風を伴わないが、地形の影響を受けた局地的な現象が、数値気象モデルによる現実的な再現ができたことは、防災上の視点からも重要である。寒気の吹き出しに伴う筋状雲が卓越する現実場において、島の風下に生ずる「カルマン渦」に似た渦列を再現し、その構造を明らかにしたのは本研究が初めてである。

本研究の結果は、米国気象学会の専門誌 Monthly Weather Review に科学論文として掲載されています。

Atmospheric Karman vortex shedding from Jeju Island, East China Sea: A numerical study by Junshi Ito* and Hiroshi Niino, http://dx.doi.org/10.1175/MWR-D-14-00406.1


図1. (a) 極軌道衛星Terraによる2013年2月16日事例のMODIS画像(提供:JAXA・東海大学)と(b)ひまわり7号による2013年2月20日事例の可視光画像(提供:気象庁・高知大学)


動画1. 水平解像度2kmの領域数値気象モデル(気象庁非静力学モデルJMA-NHM)による再現(2013年2月16日)。シェードは雲水量をあらわす。


動画2. 水平解像度2kmの領域数値気象モデル(気象庁非静力学モデルJMA-NHM)による再現(2013年2月20日)。シェードは雲水量をあらわす。


図2. 2月16日事例の3次元可視化結果。
JAMSTECで開発されたGoogle Earth用可視化ソフトウェアVDVGE を使用


図3. (a)温位、(b)水平風速、(c)水蒸気混合比、(d)相対湿度のチェジュ島風上における鉛直分布(赤線は2月16日、緑線は2月20日)




本件問い合わせ先:
気象研究所/東京大学大気海洋研究所      伊藤 純至(/)
東京大学大気海洋研究所      新野 宏()
気象研究所/海洋研究開発機構      斉藤 和雄()