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平成15年度海洋科学技術センター委託
海洋調査観測活動に伴う海洋環境に対する影響調査報告書
―海中音響の海産哺乳動物への影響に関する研究動向―

調査結果の要旨

  1. 海中音には「自然音」と「人工音」がある。前者には、海底地震・風浪・海面への落雷や降雨・海底火山の噴火などのほか海洋生物(海産哺乳動物の鳴き声など)といった音源があるのに対して、後者では、船舶航行・漁業操業・資源開発・海洋工事・海洋調査観測・軍事用船舶活動などの音源が含まれる。
  2. 海中音は、周波数、波長、振幅の三つの要素で把握されるが、大気中の音と海中の音は同じではない。海中で150dbの音は、大気中では150dbではない。大気中で1dbは20μPaであるが、海中では1μPaである。スーパータンカーの発する音は、水中では190dbであるが、大気中では164dbである。
  3. 海中音に関する調査研究は、ここ10年前後で急速に進んできている。その理由は、冷戦終了による潜水艦関連技術の産業利用の促進、クジラ類の発する海中音(鳴き声)に関する研究の進展、海中音響技術の発達、軍事用ソナーによるクジラ類への影響調査の進展、などである。
  4. アメリカにおける海洋調査観測活動とりわけソナーによる海産哺乳動物(クジラ類)への影響に関しての包括的な研究が、「海産哺乳動物保護法(MMPA:Marine Mammal Protection Act)1972」および「絶滅の危機に瀕する種に関する法律(ESA:Endangered Species Act)1973」等にもとづき、1990年代から活発に取り組まれている。米海軍とNOAAによる共同調査が主軸となっており、特に低周波ソナーによるクジラへの影響を重点的に調査研究している。
  5. その結果、科学的な海洋調査観測活動による海中音(air gun/sonarなど)が海産哺乳動物に与える影響はきわめて少ないと明言されている。ただ、これらの海中音響機器の使用に当たっては、周辺海域に海産哺乳動物がいないことを使用前に確認することや、スタートアップ段階での海中音発振予告活動などにより海産哺乳動物が必要に応じて回避行動をとるだけの余裕を与えるような使用手順を整備、遵守する、などの対策が講じられている。
  6. バハカリフォルニアにおける海産哺乳動物の集団座礁は、軍事用ソナーの集中的使用、閉鎖性の海岸地形、比較的音響に弱いアカボウクジラ類の存在などの多数の要因が不幸にも重なったためのものであって、海洋調査観測活動などにおける音響調査が、クジラ類にとって非常なストレスにまで発展するような影響を与えるということは、よほど長期間にわたって強い音圧に曝され続けるという通常考えにくい条件でしか想定できない、すなわちそうしたことは考えにくい、との知見が一般的である。
  7. Lamont-Doherty Earth Observatory(LDEO)が、2003年の3-4月に東部熱帯太平洋のヘス海溝(Hess Deep)で、また同年5-6月にメキシコ湾でそれぞれエアガンによる音響調査を実施するにのあたり、海産哺乳動物に対する影響に関する検討を行っており、マスキングやディスターバンスあるいは聴覚障害などの可能性についての調査を実施。影響可能性があるにしてもわずかなものとの見方が示されている。
  8. サハリン大陸棚における石油・天然ガス開発におけるコククジラ対策の概要、あるいは地震探鉱や試掘および海洋生産プラットフォームから出る海中音に対する海産哺乳動物の反応についても把握できたが、基本的に大きな影響はないものとの知見が得られている。他方、浚渫などの海洋工事における海中音は、船団が移動しながらの場合は特に回避行動が見られることが分かってきている。
  9. 環境保護グループのなかにはクジラへの悪影響を強調して、その生息域や回遊路での海中音響機器の使用に反対する動きはあるが、海中音響機器の使用にあたっての措置の徹底により、その影響はほとんどないと言える。他方、商業的漁業およびレクリエーション漁業のいずれの立場からもこれに反対があるとは考えられていない。なぜなら、漁業者は、魚群探知機という強力なソナー、つまり海中音響機器を常時使用して、これに依存しなければ操業活動ができないからである。
  10. 科学的な海洋調査観測活動による海中音は、調査実施の時にだけ発振される一過性の海中音であることも影響が少ないと言える根拠の一つである。なぜなら、低周波軍事用ソナーでさえも72日/年の使用にしか過ぎないのに対して、定期航路における同一海域での船舶航行が発する海中音が最大の人工音であって、かつ、継続的、恒常的なものである。そして、世界の海運業による海中音の発振回数は2,190万日/年にも上るのであるから、その比較だけ見ても海洋調査観測活動による影響は少ないことは納得できるはずである。10.それでもなお、人工的な海中音がクジラなど海産哺乳動物や海洋生物に対して影響を与える可能性についての研究は緒についたばかりであり、現実の事例の探索など、調査研究はもっと力を入れて取り組むべきである、というのが共通した認識である。                

(以上)