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平成15年度海洋科学技術センター委託
海洋調査観測活動に伴う海洋環境に対する影響調査報告書
―海中音響の海産哺乳動物への影響に関する研究動向―

4.バハマ諸島海域でのクジラの座礁とソナー使用との関係

4−1.概要

本章では、2000年3月15、16日にバハマ諸島海域で多くのクジラが座礁したことと米国海軍のSARTUSS LFTソナーとの関係について、商務省のNOAA(担当はNOAA Fisheries)と海軍省(担当はInstallations and Environment)が、それぞれの長官の連名で発表した2001年12月付けの「合同中間報告書」の概要を紹介する。

全体は6章(用語集と参考資料リストが末尾についている)、59ページのもので、ここでは第1章の「要約」の部分の要点を概括する。

4−2.要約部の要点

(1)概観

2000年3月15、16日、バハマ諸島の北東および北西プロビデンス・チャンネルにおいて、17頭のクジラの集団座礁が発見された。なお、集団座礁(Mass Stranding)とは、2頭以上の座礁のことと定義されている。このうち7個体は死亡し、10個体を生きているうちに海へ返した。

この座礁の原因を明らかにするため、広範囲の調査が速やかに開始された。死体解剖を行った結果、座礁を引き起こした原因として、外部からの刺激(impulse)もしくは聴覚に何らかの外傷によるものとの暫定的な判断がなされた。この点を調べるため、詳細な顕微鏡観察が行われた。全部ではないが、ほとんどの観察は終了している。

この座礁と同時期にそして同海域において、海軍による中周波ソナーに使用を含む海軍の活動がなされていた。死亡個体に見られた生理学的な影響、そして他にはどの音源もないことから、研究チームはこの海軍による中周波ソナーが最も可能性の高い座礁原因であるとの結論に至った。強い表層ダクト注)、特異な海底地形、複数のソナーユニットをかなりの長さの時間に使用したこと、限られた出口しかない水路構造上の制約、使用されたソナーの周波数に敏感なアカボウクジラの出現、などの複雑な環境下において、この音源が用いられたのである。研究チームは、海軍が使用した中周波ソナーと、以上のような他の要素が複合的に働いてこの座礁を引き起こしたと結論付けた。

注)表面層ダクト(surface duct):音は圧力が強まると音速は増大する。このため比較的水温が一定である混合層では水深が増すにつれて音速は増大し、混合層の下端で極大になる。この結果、混合層内では音線は上方に曲がり、海面で反射を繰り返して遠方まで到達しやすい。つまり、ここでは一時的な遠方からの表層ダクトが届いたことを要素として考えている。

こうした相互の異なる要因の組み合わせが、座礁の原因となりうるのかどうか、そのことによって、問題を起こしそうな組み合わせの回避策がどうあるべきかの研究されねばならない。

ソナー音が座礁の原因となったり、細胞に損傷を与えたりするメカニズムはまだ解明されていないが、研究は継続されている。こうした研究によって、海産哺乳動物の密集度、アカボウクジラの座礁原因に関する知見、アカボウクジラの解剖学的知見、生理学や医薬、ソナー伝播状況などの研究とあいまって、ソナー音の海産哺乳動物に対する影響の研究蓄積がなされるであろう。

なお、この座礁問題についてはSURTASS LFTソナーは全く無関係である。

(2)生物学的調査

<死亡個体の詳細>

なお、この座礁問題についてはSURTASS LFTソナーは全く無関係である。

死亡したクジラの生物学的調査の取りまとめはNOAAが行った。この集団座礁は、4種17個体によるもので、アカボウクジラ(Cuvier’s beaked whale)、コブハクジラ(Blainville’s beaked whale)、ミンククジラ(Minke whale)およびカスリイルカ(spotted dolphin)が含まれる。この集団座礁は、北部バハマ諸島の北東および北西プロビデンス・チャネルの弓形の240kmにわたり、36時間以内に起こったものである。集団座礁をするものとして知られているのはハクジラ類のodontocetesのみであって、アカボウクジラの集団座礁は他のハクジラ類に比べて非常に少ない。しかし、そのかかでもアカボウクジラ類では他の種に比べてアカボウクジラの集団座礁の頻度は多く、約20例が知られている。その他のアカボウクジラ類の集団座礁は、1864年以来バハマ諸島ではたった二回の記録があるのみである。

ともあれ、今回死亡したのは、アカボウクジラ5個体、コブハクジラ1個体、そしてカスリイルカ1個体である。7個体が死亡したが、そのうち6個体の解剖が行われ、そのうちの3個体が組織傷害の分析に十分適した状態にあった。

<解剖の結果>

解剖の結果、伝染病、船との衝突による外傷、もしくは漁業活動によって受けた傷は見られなかった。このうち3個体には胃の中に餌が残っていた。4個体については、聴覚器官の損傷が見られた。特に、血液の溢出(bloody effusion)、もしくは聴覚器官周辺の出血が見られた。最も重要な発見事項は、双方の蝸牛殻内(bilateral intracochlear)と片側の(unilateral)くも膜(subarachnoid hemorrhage)において、血塊が見られたことである。しかし病理学者は出血が死亡する少し前に起こったものであると判定し、この出血が致命傷となる、もしくは、陸上哺乳類で言えば聴覚が失われるといったことはないと結論付けた。しかしながら、このような出血は個体を衰弱させ、聴覚や位置の把握を危うくさせるだろう。その結果、集団座礁に結びついたのであろうと考えた。

引き起こされた傷の要因として最も可能性の高い要因は、音響もしくは衝撃(impulse)である。生理学的な分析では、遠くで起こった爆発と単発的、もしくは複合的に起こった音響からの傷とを区別することができない。しかしながら、音響に関する記録から判断して、音響からの傷と推定した。

(この部分の内容は、Joint Interim Report Bahamas Marine Mammal Stranding Event of 15-16 March, 2000; December 2001, prepared by U.S. Department of Commerce and Secretary of the Navy、Executive Summaryの冒頭部による)