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平成15年度海洋科学技術センター委託
海洋調査観測活動に伴う海洋環境に対する影響調査報告書
―海中音響の海産哺乳動物への影響に関する研究動向―

10.今後の課題

本調査は、海洋調査観測活動によって発生する海中音が海産哺乳動物、とりわけクジラ類にどのような影響があるかについての最新の研究動向を調査するのが目的である。短い期間でそれなりの成果を上げることができたのではないかと密かに考えるとともに、まだまだ深堀りをし、幅を広げて、知見を向上させていく必要がある。そのことによってJAMSTECとしての基本的スタンスの明確化の基礎を固めることが肝要である。

そのための今後の課題を整理すると、大要、以下のようであろう。

第一に、収集した文献資料の更なる読み込みによって、エッセンスを吟味し、重要事項を一層明確にすることである。たとえば、今回のとりまとめ作業において大きく依存したものの一つである「Marine Mammals and Noise」(1995)という参考文献にしても今回はその9章の一部を抄訳・整理したにとどまっており、他の部分はほとんど手付かずに残っている。また、Lamont-Doherty Earth Observatoryの文献(2003.1.20)も一部を抄訳したにとどまっている。さらに、「Marine Technology Society Journalの特集号」(2003/04 Winter)も、隅々まで読み込んでの作業はまだ積み残しとなっている。したがって、収集した数少ない文献資料類においてさえもまだ、参考となる内容やポイントがまだまだ埋もれているものと思われるので、その解析、整理作業が必要である。

第二に、今回の調査作業で浮上してきたこの種の研究調査に従事している諸機関を主たる対象にしての、さらなる文献資料・情報等の収集・整理が必要である。「はじめに」においても述べたように、必ずしも数的に多くの参考資料がない可能性が高いとはいえ、質的レベルの高い、未発掘の文献資料・情報が存在するはずである。たとえば、NOAA FisheriesのOffice of Protected Resourcesが2004年3月から11月にかけて全米各地で開催しつつあるNational Lecture Series−“Marine Animals and Human Noise”などは注目に値するものである。そのほか、学会資料や、研究機関の報告書などの不定期刊行物等々、念には念を入れての情報収集とその内容の解析、整理には継続的に、繰り返し取り組んでいかねばならない。また、ヨーロッパにおける研究動向も調査しておく必要があろう。

第三に、今回の取りまとめの柱ともなっているのだが、アメリカにおけるNOAA−海軍を主力とする海中音響技術がクジラ類に及ぼす影響に関する調査研究について、その詳細と最新動向を探求していく必要がある。捕獲したクジラ類を使用しての実験研究や現場海域での研究、クジラ類の側の水中音響に対する挙動解析研究の進捗状況、海洋調査観測活動における影響未然防止対策としての作業マニュアル整備の具体的内容、等々の最新事情を正確に把握する必要がある。そのためには、さらなる文献資料調査とともに、場合によっては、訪米視察ヒアリング調査の実施も考慮しなければならないであろう。

第四に、アメリカの法制度上の仕組みについてその要点を整理するとともに、関係諸官庁に対する諸手続きや裁判記録などの概要もしっかり調査、解析しておくことが重要である。たとえば、本文中でも若干触れられているが、「海産哺乳動物保護法(Marine Mammal Protection Act)」における海産哺乳動物への“ハラスメント“の程度の差について、”レベルB“という定義が紹介されているが、その他の定義などがどうなっているのか、「絶滅の危機に瀕する種に関する法律(Endangered Species Act)」ではどのような扱いになっているのかを整理する必要がある。同時に、クジラ類への影響調査等を実施する場合の諸手続きはどうなっているのか、さらには、海中音響にともなう海産哺乳動物の受ける影響に絡んでの係争事例についても、その論点がどうであるかなど、概要を把握しておくことは有用であろう。

第五に、作業体制の充実を図ることである。今回は委託者であるJAMSTECからの資料・情報提供をきっかけとして、受託者側での追加的情報収集と解析を少人数によるタスクフォース的な作業体制で取り組んできた。今後は、さらに若干の専門家たとえばわが国における海中音響の学界有識者やクジラ類の挙動解析関係の専門家などとの協同体制での取り組みも視野に入れてよいのいではないかと考える。

その他、まだまだ課題が残されているはずで、本報告書が良い刺激剤となってさまざまな視点からの問題提起を受け、それらのなかから本作業の質的向上に寄与しうる諸点を紡ぎだして、第二段階としての本格的な調査成果をとりまとめ作業へと前進していくことを期待したい。

(了)