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平成16年度(独)海洋研究開発機構委託事業
「海洋調査観測活動に伴う海洋環境に対する配慮(取り組み)の調査・分析」報告書
(平成17年3月 社団法人 海洋産業研究会)

2. 海外における海洋調査活動時の環境への配慮

2−1. 米国における海洋調査活動と海産哺乳類の保全

2−1−1. 海産哺乳類保護法と絶滅危惧種法

米国では1972年に海産哺乳類保護法※1(Marine Mammal Protection Act:MMPAと略す)が施行されており、例外を除いて海産哺乳類の所持、輸出入、その行動に影響を与えること、傷つけることおよび捕殺することが禁止されている。また、絶滅が危惧される海洋動物に関しては1973年に施行された絶滅危惧種法※2(Endanger Species Act :ESAと略す)により保護されており、個体数回復計画が実施されている。このため、海洋で行う人間活動が、海産哺乳類やウミガメなどの海洋生物に影響を与える(原文中では“Take”と記されている)場合には、許可が必要となっている※3

ESAでは“Take”は、苦しめる(harass)、害を及ぼす(harm)、追い立てる(pursue)、狩猟する(hunt)、撃つ(shoot)、傷つける(wound)、殺す(kill)、罠にかける(trap)、捕える(capture)、収集する(collect)、もしくは、このような行為を試みる事、と定義されている。他方、MMPAでは“Take”は、苦しめる(harass)、狩猟する(hunt)、捕える(capture)、もしくは殺す(kill)やこれらの行為を試みることと定義されている。

ESAでは、海洋生物としてはウミガメ類やコククジラなどの鯨類、トドなどの鰭脚類、太平洋サケなどの魚類などが指定されている※4。また、海産哺乳類保護法では、タイセイヨウマダライルカやツチクジラ、アゴヒゲアザラシやハイイロアザラシなどの種が保護されている※5

これらの許可の権限は、NOAA Fisheries※6 Office of Protected Resourcesが管轄しているが、ESAに関しては陸上でのウミガメに対する影響や陸上動物および淡水生物に対する影響の許可に関してはU.S. Fish and Wildlife Serviceが担当をしている。MMPAやESAに指定された海洋生物に影響を与える事業を行う場合には、この部署の出先機関である地方事務所に事業実施前に申請を出す必要がある。申請から許可が下りるまでの期間はESAで1年であり、MMPAについてはESAにも指定されている種で1年、ESA非対象種で120日であり、120日の中には30日のパブリックコメント期間が含まれている。

許可の種類には、海洋生物の保全や生息数回復に寄与する学術調査に関する場合と、それ以外の事業における非意図的Take(Small Take)※7に関する許可とに大きく分かれている。さらに、Small Takeに関する許可には、Letter of Authorization (LOA)と Incidental Harassment Authorization(IHA)の2種類の許可に分かれており、前者は少数の海産哺乳類に深刻な傷害や死亡を引き起こす場合や、先住民捕獲に対するものであり、後者は海産哺乳類に対する影響が軽微であるか、軽減処置により深刻な傷害や死亡を避けることが出来る場合のものである。図2-1に、フローチャートとして示した。

図2−1. MMPAおよびESA対象種の“Take”に関するフローチャート

図2−1. MMPAおよびESA対象種の“Take”に関するフローチャート

2−1−2. 海産哺乳類保護法および絶滅危惧種法に関する具体的な事例

(1)メキシコ湾での海洋石油ガス資源開発

メキシコ湾では、これまでに発見されている油・ガス田が1,100ヵ所以上存在し、大陸棚内に限らず、いわゆる大水深と呼ばれる水深300m以深においても活発に開発が行われている。この大水深におけるガス・油田の大半は、1980年代後半以降、探鉱・生産技術の発達による発見率の向上と各種作業のコストダウンを背景として著しい成功を収め、これまでに120数ヵ所が発見されてきた。特に近年は、数億バーレル級の油田発見やインフラの拡充が相まって、周辺海域の開発熱は、今後さらに高まるものと予想されている。

このメキシコ湾において、海洋資源開発の管理行政を行っているのが米国内務省資源管理局※1(MMS:Minerals Management Service)である。この資源管理局は、メキシコ湾において2つの環境プログラムを作成、実行している。一つは、環境科学プログラム(Environmental Sciences Program)、そしてもう一つは、環境影響評価プログラム(Environmental Assessment Program)である。これら環境プログラムの目的は次の3つである。

  1. 可能な限り科学的・技術的な情報を得て、沖合におけるガス、石油、鉱物の開発計画に役立つ資料とする。この開発計画は、環境、社会的、そして経済的な状況に影響を及ぼすと考えられる。
  2. 鉱物資源の採掘に関して、その活動の開発度合いを把握する事で、環境への影響や緩和策を見出す。
  3. 情報を収集する事で、将来的な探索、開発、そして産出等の見通しおよび決定に必要な情報を集め、その可能性を広げる。また、開発による環境情報、社会的、経済的影響を知る事で、沖合における産出活動に関する規則作りに役立たせる。

実際的には、これらプログラムによって、事業者(operator)からは地理情報、生物モニタリング計画、酸素放出状況、考古学的情報等が求められ、これらに関して環境影響評価書を作成する義務がある。

また、海洋石油ガス資源の探査のためのエアガン調査を行う際には、調査開始前の作業手順(ramp-up procedure)として、海産哺乳類やウミガメへの配慮が記載されている※2。すなわち、調査海域に海産哺乳類やウミガメがいないかを目視確認し、最小出力のエアガンを発射することで調査海域外に海産哺乳類やウミガメを移動させること、調査実施時にマッコウクジラなどの希少種がいないかを観察する熟練した観察員を乗せ、観察データを取る等である。これらは、勧告書として出されており、以下に記載されている具体的な観察方法について記述する。

● 関連するウェブサイト
<具体的な手法>
  • 観察者の観察位置は360度周囲が見渡せる場所であり、船の運航の妨げにならない場所であること
  • 肉眼および双眼鏡を用いて観察を行う。
  • 観察は、作業開始30分以上前に始め、振動発生中は、霧や雨、日没などで海面が見えなくなるまで継続する。
  • ウミガメ、クジラ類発見時は、船の緯度経度、船からの相対的な方向、動物と船との距離を記録し、動物が観察者の視野から見えなくなるか、潜水するまで観察する。
  • 発見した個体以外の個体がさらにいないかを確認する。
  • 音源から500m以内にクジラ類が出現したときは、速やかに振動発生活動とエアガンの発射を停止させる。
  • クジラ類の目撃が、30分間認められない場合は、作業を開始することが出来るが、このとき、海面の状況がクジラ類の観察に適した状況である必要がある。30分間認められなくても、霧や夕暮れの場合は作業を開始してはいけない。
  • クジラ類などの発見以外の理由、機材の故障などで20分以上、エアガンの発射が止まった場合は、30分間のクジラ類観察後に、作業開始の手順から調査を再開しなければならない。
  • クジラ類などの発見以外の理由、機材の故障などでエアガン発射が20分以内の時間で中断したとき、クジラ類やウミガメが音源から500m 以内に認められた場合は、作業開始手順に沿って最初から調査を開始しなければならない。
<観察結果の報告>
    「Observer Effort Report」(目視調査努力報告)
  • 船名
  • 観察者名
  • 調査形式 (サイト、3D、4Dなど)
  • 許可番号
  • 日付
  • 目視観察開始時間、開始場所の緯度経度
  • 目視観察終了時間、終了場所の緯度経度
  • 目視観察終了時間、終了場所の緯度経度

    「Survey Report」 (目視調査報告)
  • 船名
  • 調査形式(サイト、3D、4Dなど)
  • 許可番号
  • 日付
  • ramp-up前の調査の開始時間
  • ramp-up前調査で目撃された海産哺乳類およびウミガメ類
  • ramp-up開始時刻
  • ramp-up中のクジラ類目撃記録
  • 調査に必要な出力でエアガンを発射した時間
  • エアガン調査中に目撃されたクジラ類およびウミガメ類
  • クジラ類が目撃されたときの対応(調査中断、エアガン停止など)
  • クジラ類が目撃されない理由(うねり、海面反射、霧など)
  • エアガンを停止した時間

    「Sighting Report」(目撃記録)
  • 船名
  • 調査形式(サイト、3D、4Dなど)
  • 許可番号
  • 日付
  • 目撃時刻
  • 目撃状況(観察中か、偶然の目撃か)
  • 目撃した観察者、人物の名前
  • 目撃したときの船の緯度経度
  • 船の針路
  • 発見初期の動物の進路と船からの距離
  • 水深
  • 種名
  • 種同定の確かさ
  • 動物の数
  • 幼獣の数
  • 記述(個体識別可能な特徴、体長、体型、色と模様、傷、背びれの形状、頭部の形状、潮吹きの特徴)
  • 行動
  • 船の活動
  • エアガンを発射したか、しないか
  • 音源との最短接近距離
(2)プジェットサウンドでの活断層調査

1998年3月、アメリカ、カナダ共同でシアトル近郊のプジェットサウンドで活断層調査(Seismic Hazard Investigation in the Puget Sound)が行われた※1。この調査では、エアガンを用いるに当り、次の機関から以下のような認可を得た。

  • U.S. National Marine Fisheries Service (MMPAに関する許可):専門家による監視の下で、海産哺乳類に対してエアガンを用いて非意図的なハラスメントをする権限。
  • U.S. Fish and Wildlife Service (ESAに関する許可):希少種であるマダラウミスズメに対する影響はごく僅かであるということが、生物影響評価で明らかであるということ。
  • Canadian Dept. Ocean and Fisheries : SHIPSの調査はカナダのサケ漁業には全く影響が無いということ。
  • U.S. State Department & Canadian Foreign Office:カナダの調査船Tullyが米国水域内で調査を行うこと。アメリカの調査船Thompsonがカナダ水域内で調査を行うこと。

そして、11人の海産哺乳類の専門家を雇い、エアガンの海産哺乳類に対する安全距離(図 2-2)に進入する海産哺乳類についてのモニタリングを行った。また、使用するエアガンの出す音が海産哺乳類に影響を与えない周波数であること(図2-3)、調査海域の海産哺乳類分布状況について調べた。これらの海産哺乳類に対する配慮に用いた経費は、調査事業費の10%であった。


海産哺乳類に対する配慮や調査結果の予備的な報告書※2には、下記のことが報告されている。

  • 影響緩和処置は上手く行き、海産哺乳類を傷つける危険性を大幅に減らすことが出来た。
  • 調査中には船の傍に海産哺乳類が現れ、エアガンを緊急停止することが3回、音の伝達範囲に高密度で海産哺乳類が分布し、コククジラが確認されたことによるエアガン作業の中断が2回あった。
  • 調査航路が高密度の海産哺乳類生息域であった場合に調査航路の変更を行った。
● 関連するウェブサイト
図2-2. エアガン作業時の海産哺乳類に対する安全距離

図2-2. エアガン作業時の海産哺乳類に対する安全距離

図2-3. 海産哺乳類の聴覚とエアガンの発生音波

図2-3. 海産哺乳類の聴覚とエアガンの発生音波

2−2. その他の海域における環境保全に関する取り組み

2−2−1. 北極海の海洋環境保全に関する取り組み

グリーンランド、カナダ、ロシア、アメリカなど8つの環北極海の国によって北極圏審議会※1(Arctic Council)が形成され、その中で北極海域の調査研究を行っている。

具体的には、同審議会の中でPAME(The Program on Protection of the Arctic Marine Environment)というワーキンググループが活動している。PAMEは、AEPS(極域環境保護戦略)の4つのプログラムの一つとして、1993年に確立された。これらのプログラムは、恒常的な発展のために新しいワーキンググループとなり、1996年に設立した北極圏審議会(Arctic Council)の中で運営されている。


この機関では、北極海の海洋環境保全のために当海域でのガス・石油開発に関する指針を策定している※2。この指針は、気候への影響、海洋環境への影響、空気や海水の質への影響、未来における希少種の絶滅、生活する人々の伝統文化、生活様式、社会形態への影響などを避けることを目的としており、「予防」、「加害者負担」、「持続的発展」の3原則に基づいて作成されている。詳細には先住民の文化や生活、極域の動植物相を保全するため、環境影響評価を実施すること、安全と環境管理を行うこと、操業・油輸送に関する有害物質管理・HSEに関すること、危機管理に関することなどが記されている。

  • AMAP(Arctic Monitoring and Assessment Program):極域モニタリング・アセスメントプログラム
  • CAFF(Conservation of Arctic Flora and Fauna):極域の動物相・植物相の保全−生息域と生物多様性の保護
  • EPPR(Emergency Prevention, Preparedness and Response):汚染保護とコントロール
  • SDWG(Sustainable Development Working Group):継続的な発達と環境保護

PAMEでは、2年毎にワークプランを作成し、毎回4〜5つの目標を設定している。

    <ワークプラン2000-2002の目標>
  1. 陸を拠点にした活動からの海洋汚染を防止する
  2. 沖合での石油・ガス掘削からの海洋汚染を防止する
  3. 船舶からの海洋汚染を防止する
  4. 国際的な合意形成と今後の活動方針の必要性をアセスする
  5. 他のワーキンググループとの連携を発達させ強める
    <ワークプラン2002-2004の目標>
  1. 極域海洋環境保護にむけた、戦略、プランの促進
  2. 陸を拠点にした活動からの海洋汚染を防止する
  3. 海上活動からの海洋汚染を防止する
  4. 他のArctic Councilや地域組織との連携を深め、報告を密に行う
● 関連するウェブサイト

2−2−2. バルト海の環境保全に関する取り組み

バルト海における海洋汚染を防止するため、デンマーク、エストニア、フィンランドなどによるバルト海環境保全委員会※1(The Baltic Marine Environment Protection Commission)が設置されている。この委員会を運営する組織として、ヘルシンキ委員会(HELCOMもしくはHelsinki Commission)が存在している。

このヘルシンキ委員会は、過去25年間バルト海海洋環境の現状把握と危険物や栄養価の評価をモニタリング※2するとともに、バルト海の環境保全のために排水の規制や、海での人間活動に関する様々な勧告※3をだしている。たとえば、土砂採取に関する勧告では、影響評価書の作成を求めている。

● 関連するウェブサイト

2−2−3. 南極観測の環境保全に関する取り組み

南極地域の自然は我々人類にとってかけがえのないものであり、地球上の多くの原生地域が少なくなっている中で、地球の陸地面積の約1/12の面積を占める南極大陸のほとんどが、手付かずのままで残されている。そこには南極地域特有の環境の中で生きものたちが暮らし、過去の地球の歴史が保存されている。

このことから、南極の環境保護の国際的な取り組みとして「環境保護に関する南極条約議定書」※1(1991年採択、1998年発効)によって南極地域における活動を規定している。この議定書に参加している国は平成15年6月までに日本、中国、アメリカなどを含めて30か国に上る。この議定書では、南極の価値を「原生地域としての価値」、「芸術上の価値」、「地球環境を理解するために必要な科学的調査が実施される地域としての価値」と位置付けており、環境保全に関する原則(第3条)として、「南極地域における活動は、南極の環境及び生態系に対する著しい影響を回避し、又これらへの悪影響を限定するように計画及び実施すること、活動の計画及び実施は事前の環境影響評価を踏まえて行うこと、科学的調査を優先し、及び科学的調査を行う地域としての価値を保護するよう計画及び実施する。」ということが掲げられている。

これに基づいて、国際協力(第6条)、鉱物資源に関する活動の禁止(第7条)、すべての活動の環境影響に対する事前の評価(第8条)、南極条約協議国会議に助言する環境保護委員会(Committee for Environmental Protection; CEP)の設置(第11条)、環境保護議定書の遵守(第13条)および査察(第14条)、緊急時の対応(第15条)、および環境損害の責任(第16条)に関する規則及び手続きの作成に関することが定められている。さらに、   この議定書には4つの付属書があり、付属書Iでは環境影響評価、付属書IIでは南極地域の動物相及び植物相の保存、付属書IIIでは廃棄物の処理および廃棄物の管理、および付属書IVでは海洋汚染の防止、付属書Vでは地区の保護及び管理に関する事柄が詳細に定められている。

上記議定書に日本は1997年12月に参加し、これを受けた国内における取り組みとしては、1998年に「南極地域の環境の保護に関する法律」※2を定めている。この法律では、(1)南極地域における活動計画に係る申請、環境大臣による確認など、(2)鉱物資源に関する活動の禁止、(3)南極地域に生息、生育する動物および植物の保護、(4)廃棄物の適正な処分と管理、(5)南極特別保護地区及び南極史跡記念物の保護の5項目について規定している。さらにこれら項目については詳細に施行規則が定められており、例えば、項目(3)については環境大臣によりに示すような海洋に排出可能な液状廃棄物の基準などが定められている。


これらの議定書および、国内法を受け、南極では、日常生活におけるエネルギーの有効利用に取り組み※3、調査時には、個人として以下のような事に留意しなければならない。 ※4

  • ペンギンをはじめとする鳥やアザラシを、捕まえること、群を乱すこと、餌を与えること、触ること、接近して驚かすことなどが禁止されています。さらに、観察や撮影の際、ペンギンや鳥には5m、アザラシは15m程度の距離をとることも求められています。
  • 鳥の卵、石や植物をとったり、持ち帰ったりすることも禁止されています。さらにコケを踏みつけたりすることも禁止されています。
  • 南極域固有の動物への病気感染を防ぐためペットを持ち込むことが禁止されています。
  • 紙屑、ゴミ、たばこの吸い殻や飲食物などを捨てることやゴミを屋外で焼却することも禁止されています。
  • 露岩域及び氷床(氷床は海岸から5km以内)で用便をたすことも禁止されています。日本の観測隊では、汚物も極力基地へ持ち帰って処理をしています。
  • このほか、特別保護地区への立ち入り、建物や記念碑などへの落書きも禁止されています。

そして、各年度には「環境保護に関する南極条約議定書」に基づく年次報告書の作成が義務付けられており※5、 2002年度の報告書では、調査活動に必要なインマルサットアンテナを建設したが、それに対する環境影響は少なかったことや、越冬宿舎からでる下水の海洋への排出量が1971klだったこと、使用した現像液2.24klは日本に持ち帰ったことなどが報告されている※6

● 関連するウェブサイト

2−2−4. 国際海洋探査委員会(ICES)における取り組み

北大西洋とその周辺海域である北海やバルト海における海洋調査の推進と調整を行う国際機関である国際海洋探査委員会※1(ICES:International Council for the Exploration of the Sea)では、海洋生態系研究の様々な分野における課題解決のために、8つの科学委員会とその下に100のワーキンググループを設けている※2。その一つとして、Marine Habitat委員会は、海洋環境と資源の量、質および機能的価値に関する研究を取りまとめており、以下の4項目を主な取り組み事項として掲げている。

  1. 海洋生態系の物理、化学および生物学的機能を解明すること
  2. 海洋生物資源を含めた海洋生態系に対する人間の影響を解明し定量化すること
  3. 海洋生物資源の持続的利用と海洋環境保全に対して提言するための議定書の作成
  4. 海洋生物資源の持続的開発と海洋環境保全のための提言

この委員会が推進、取りまとめる研究には、沿岸での開発や汚染などの人間活動が海洋環境に与える影響に関する研究も含まれている。この委員会では、海洋汚染に関するワーキンググループや海底土壌採取に関するワーキングループが設置されている。

例えば、海底土壌採取に関するワーキングループ※3では、海底土壌採取活動が各国において近年増加していることを報告しており、海底土壌採取活動に関連する法律、使用されている装置、および採取活動の生態系への影響などに関するレビューを行い、影響評価についての提案などを行っている。

● 関連するウェブサイト

2−2−5. 国際海底機構(ISA)による取り組み

国際海底機構※1(ISAもしくはISBA:International Seabed Authority)は、国連海洋法条約(海洋法条約)が発効した1994年11月16日に同条約第156条の規定に基づき、ジャマイカに設立された国際機構である。この機構は、1960年代以降注目を浴びるようになった深海底鉱物資源に関して、海洋法条約第11部「深海底」を執行している機関である。海底鉱物資源については、表2-1に種別、有用資源、成因・性状等別に概要をまとめて示しておいた。

国際海底機構は、この海底鉱物資源に関して、「マイニング・コード」(鉱業規則)を採択、承認しており、この中で海洋環境調査のためのガイドラインを定めている。現在ガイドラインに関しては草案の段階であるが、科学調査の段階では音響探査以外はあまり考慮しなくて良いとの考え方が示されている。

なお、「マイニング・コード」は、2001年にマンガン団塊の概要調査に関するものが採択され、2001年7月、ジャマイカで開催された国際海底機構総会では海底熱水鉱床及びコバルトリッチクラスト鉱床の探査に関する規則作成に関連した準備的な検討も開始されている。

日本で実際的に関係しているのは深海資源開発株式会社(DORD)であるが、1987年にハワイ南方海域にて北海道と同じ面積(7.5万km2)のマンガン団塊鉱区を取得している。前述した海底熱水鉱床及びコバルトクラストリッチ鉱床のマイニング・コードが採択されると、関係各国間における鉱区取得合戦が始まることになる。

2001年7月の機構総会における審議結果に基づくと、2008〜2009年頃に鉱区取得合戦が開始される見込みであり、有望鉱区を取得するためには、これら深海底鉱物資源の資源量評価のための調査を実施することが急務かつ重要課題となっている。

かつて1970年代に国際的な企業グループのいくつかが水深4,000m級の深海底で採掘実験を行ったことがあるが、その際も、一応の環境影響に関する調査プロジェクトも字示威されたことがある。近い将来、探鉱・採掘事業が実行に移される場合には、深海底といえども環境への配慮が求められることは確実である。

● 関連するウェブサイト
表2-1. 主な海底鉱物資源の概要
海底資源の種別 海底石油・ガス マンガン団塊 熱水鉱床
(温泉沈殿物)
ガス・ハイドレート
鉄・マンガン団塊
(多金属団塊)
マンガン・クラスト
(コバルトリッチクラスト)
有用資源 石油・天然ガス 銅、ニッケル、コバルト、
マンガン
主にコバルト 亜鉛、銅、鉛、銀、金 主にメタン
成因・
性状
堆積物中の有機物が地質時代に生成された炭化水素類の混合物
鉄、マンガン酸化物が海水から沈殿し凝集したもので含有金属元素はプランクトンに取りこまれたもの
海底火山活動に伴って湧水する熱水から沈澱した鉱物(主に硫化物)
水分子内にメタンなどの気体分子が取り込まれたシャーベット状のガス水和物
産状 堆積物の発達する海底数km下の貯油層の液体及びガス状 主なものは、深海底(水深4500 -6000mに団塊状に分布する) 海山の山頂・斜面を皮殻状に覆う(水深500-2500m) 泥状(厚さ数10m)、塊状(不規則な形と規模で堅い塊が海底状に散在) 海底下の比較的浅い(100-1100m)所に層状に分布
主な産地 日本近海 新潟沖
(石油・ガス)

磐城沖(ガス)
深海型の大規模な分布はないが、各所の海山に散在する 沖縄トラフ、南方諸島海底火山 北海道周辺、本州南方沖の大陸斜面が有望視
大東沖・
沖大東海嶺
沖ノ鳥島、
南鳥島周辺
大洋拡大域(紅海、東太平洋海膨、大西洋中央海嶺など) 北極海、北米東岸沖など
世界 ペルシャ湾、
メキシコ湾、
北海、
インドネシア沿岸
中部太平洋域(ハワイ南東方から東にかけての海域) 南太平洋から太平洋中央部の海山の山頂・斜面 大洋拡大域(紅海、東太平洋海膨、大西洋中央海嶺など) 北極海、北米東海岸沖、西アフリカ沖など
探査活動 主に商業
ベース
先進国(官・民)が投資中 基礎研究の段階 基礎研究が緒についた
段階
採掘技術 極地・大深部の掘削に向かう 一部で試作が行われているが、多くは概念設計の段階
バケット法
(堆積物上の物をすくいとる)
回転切削ドラム法(岩盤上面からはぎとる) パイプストリング法(吸い上げ)、回転切削ドラム法
精錬技術 完成度高い 主に実験室の段階  
その他 ・今後の資源開発には、益々環境アセスメントが重要になる。
・公海での資源開発は、国連海洋法条約で新設された「国際海底機構」の管理下におかれる
(出典:財団法人日本水路協会 海洋情報研究センター:http://www.mirc.jha.or.jp/knowledge/seabottom/resource/より)