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平成16年度(独)海洋研究開発機構委託事業
「海洋調査観測活動に伴う海洋環境に対する配慮(取り組み)の調査・分析」報告書
(平成17年3月 社団法人 海洋産業研究会)

6. その他の環境への配慮が必要な事例

6−1. 船底塗料について

トリブチルスズ、有機スズ化合物などの船底塗料は、海洋生物に対する毒性が強く、有機スズ化合物については貝類のインポセックスや魚類の奇形を引き起こすことが知られている※1。このため、これら船底塗料による環境汚染が問題視されている。2001年10月、国際海事機構(IMO)において以下のことが定められた。

「2003年1月1日以降、全ての船舶に殺生物剤として機能する有機スズ化合物を含有する防汚塗料の塗装の禁止、および2008年1月1日以降すべての船舶の船体外部表面に有機スズ化合物を含有する防汚塗料が使用されている事に関しての禁止が決議された。(ブラストを行い、非有機スズ船底塗料に塗り替え、又はシーラーコートで有機スズ船底塗料を被覆する)」

これを受けて、日本政府は同条約を2003年7月に批准した。本条約は、世界の船舶量の25%に相当するIMO加盟25カ国の批准した1年後に発効する。条約が発効すると旗国は船舶に使用される防汚方法の審査を行い、船主または船舶運行者が提出する船底防汚塗料のMSDSまたは同等の書類およびIMO条約適合宣誓書に基づき「国際防汚方法証書」を発行する。

現在、有機スズについては日本国内では1990年以来製造が禁止されており国内の船では使用されていないと考えられるが、外国船籍の大型船(25m以上)では使用されている。さらに近年では日本企業により環境に対する影響の少ない船底塗料が開発されている。このうち、N社※2では、有機スズを含まない船底塗料への転換が世界的に急速に進んでいるため、世界初の加水分解型スズフリー船底防汚塗料「エコロフレックスSPC」を開発した。これは、長期にわたって一定したポリシング(消耗)機能を持ち、膜が残存する限り安定した防汚性が特長を持っている。また、日本の造船会社であるI社※3は、1998年8月、塗料会社などと共同で、ニラの成分など天然物質を用いて海洋汚染を防ぐ船底塗料を世界で初めて開発した。この塗料は、天然物系化合物が使用されており、海中に溶け出した後でも速やかに微生物によって分解され、生物への蓄積性もほとんどないという特徴をもっている。

なお、海洋調査観測に従事する船においてもこれら塗料の使用はなされていないものと推測されるが、一応の確認を行う必要がある。

● 関連するウェブサイト

6−2. トロール、ドレッジなどの底生生物に対する影響調査

底魚類や貝類の調査にもよく使われるトロールやドレッジなどの漁具は、底生生物を直接捕獲するだけでなく、生息環境を破壊することで、底生生物に悪影響を与えている可能性が示唆されている。特に、最近の国連環境計画(UNEP)報告では、底曳きトロール漁業は、冷水珊瑚(cold water coral reefs)にとって最も驚異的な漁法であると位置付けている※1

米国やカナダでは、これら漁具が底生生物に与える影響を調べている。米国では、全米科学協会によるトロール漁法の評価を行っており、オッターボードによる物理的な海底への影響や大型底生動物の採取に関する影響を報告している※2。また、カナダでは1993年から1995年にカナダ西部のニューファンドランド諸島沖の大西洋にあるグランドバンクにおいてオッタートロールを用いた影響調査を行った※3。毎年同じ海域(実験海域)で13kmにわたる距離を年12回、トロールを曳いてソナーを用いて海底地形の変化を記録し、漁獲物の種組成を記録した。また、トロールを曳いた海域と平行した海域(リファレンス海域)でトロールおよびグラブサンプラーにより底生生物を捕獲し、ソナーにより海底地形の形状を調べた。これらの調査結果、トロールが海底のごく表層の柔らかく、生物由来の土の構造に影響をあたえることが報告されている。また、底生動物であるヒトデ、ウニ、カニのバイオマスが減少したことも報告されている。

深海保全連合※4(DSCC:Deep Sea Conservation Coalition、40団体を越える組織の国際的連合体)は、公海での底曳きトロール漁の一時停止を訴え、これをコスタリカが受けて国連総会の場で提案している例もある※5。この提案は、スペインなどを中心としたEUの反対を受けて議決されなかった。

● 関連するウェブサイト

6−3. 海産動物の混獲の回避について

商業漁業では、海産哺乳類、鳥類、ウミガメの混獲が問題になっており(2004年3月10日付け京都新聞)、公海流し網のように禁止に追い込まれた例もある。

これに対し、FAOではウミガメ保全のための指針を出しており、混獲データを収集することや、混獲を防ぐための亀脱出装置付きトロール網や延縄漁で伝統的な“J”フックに代わり、ねむり針(circle hook)を使用することを勧告している。このことから、水産資源の調査研究活動についても選択性の高い漁具を用いるなど、混獲を避けるための処置を講じる必要に迫られる可能性がある。

また、海鳥類であるアホウドリ類においても、マグロ・カジキ類などを対象とした浮延縄漁業(surface longline fishery)やマゼランアイナメ(ギンムツ)やメルル−サ(ヘイク)、タラ類、オヒョウなどを対象とした底延縄漁業(demersal longline fishery)による「混獲(bycatch あるいはincidental take)」が見られており、これが原因と見られる個体数減少が報告されていて、国際的な問題となっている※1。このため、国内的取り組みとしては、トリポールと呼ばれる鳥忌避装置の研究※2(図6-1)や、延縄漁業で用いる餌に着色剤を行いて鳥が餌を見つけにくくする方法(図6-2)の実用化に取り組んでいる。

6−4.非回収型の観測機器の使用等について

このほかに、海洋の調査観測活動においては、はじめから回収しないことを前提とした投げ込み式などの非回収型の機器類も存在する。あるいは、海洋での調査観測活動に伴って作業の途上あるいは終了時点で海底に遺棄してくるものもいくつかある。さらには、本来、回収型であるにもかかわらず不本意ながら回収できないまま海底に放置せざるをえない機器・装置類もある。何らかの原因で海中に遺失してしまったり、放棄せざるをえないケースもありうる。

これらの海洋環境への影響等に関する扱いについて、国内的にも国際的にも論議がなされることはこれまでほとんどなかったといってよい。しかしながら、この点も今後は論議の俎上にのぼる可能性も出てきたことから、基本的考え方を整理しておく必要があるものと思われる。

図6-1. トリポールとその効果

図6-1. トリポールとその効果

図6-2. 着色した餌

図6-2. 着色した餌

【京都新聞】 2004年3月10日付け※3

−ウミガメの混獲、年30万頭にも 米大調査 個体数急減の原因と指摘−

マグロはえ縄漁などにより、絶滅が心配されているアカウミガメやオサガメが、世界中で年間30万頭も混獲されているとの調査結果を米デューク大の研究グループが9日までにまとめた。

世界規模の海亀混獲数の試算は初めて。グループのラリー・クラウダー教授は「2種類とも過去20年間に個体数が急減しており、絶滅が心配されている。国際的な対策が急務だ」と指摘した。

同教授らは、太平洋や大西洋で漁業を行う日本や米国、オーストラリアなど13カ国の公式統計や国際機関のデータ、漁船に同乗しているオブザーバーや研究者らの報告などから、細かい海域ごとの混獲率を算出。これに海亀の分布域や個体数のデータ、漁船の活動状況などを加え、2000年1年間の世界全体の混獲数を推定した。

【OPRTニュースレター No.9】 2004年12月付け※4

FAOのウミガメの保存と漁業に関する政府間会合が11月29日から12月2日までタイ・バンコクで開かれ、漁業におけるウミガメ死亡の削減のためのガイドラインを作成した。翌年3月に開かれるFAO水産委員会に勧告する。

会合は、2003年のFAO水産委員会に日本が提唱して開かれたもの。

過激な環境保護団体が数年前からウミガメの混獲などを理由に、公海の延縄漁業の禁止運動を展開しているのに対抗し、漁業者側が「責任ある漁業」推進の一環としてウミガメの混獲問題についてもしっかり対応していこうというねらいがある。

会合には、加盟35ヶ国などが出席。ガイドラインは、延縄漁業についてはウミガメの死亡につながりにくいねむり針(魚の釣獲率は変らないが、針先が内側に向いてカメの場合は口がかり程度で済む針)(図6-3)の導入や、混獲されたウミガメを死亡させないような扱いや放流の徹底、さらにエビトロールに導入されているTED※5(ウミガメ混獲回避装置=網の途中に金属の板を取り入れ、金属でカメの網への進入を阻止しカメだけを網の外に逃がす装置)(図6-4)使用の促進、刺網や定置網への混獲回避装置の開発などを盛り込んだ。

また、「この取り組みは、責任ある漁業実現のために漁業者の主体的な取り組みが不可欠」との立場で、漁業者への理解を求める活動や途上国への支援、社会経済文化的要素の考慮の必要性などもガイドラインに明記している。会合では、ガイドライン作成のほか、「ウミガメの保全には、漁業だけになく産卵地の保護など幅広い対策が必要」という点についても確認した。

● 関連するウェブサイト
図6-3. ねむり針の例

図6-3. ねむり針の例

図6-4. TED(ウミガメ混獲回避装置)

図6-4. TED(ウミガメ混獲回避装置)