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平成17年度(独)海洋研究開発機構委託事業
「海洋調査観測活動に伴う海洋環境への配慮に係る国内外研究機関の動向の
調査及び分析」報告書 (平成18年3月 社団法人 海洋産業研究会)

1. 海外の海洋研究機関における海洋環境への配慮に関する基本的考え方と動向の調査

国連海洋法条約や生物多様性に関する条約といった国際条約や、アジェンダ21などの国際的な取り決めに基づき、海洋における環境保護についての意識は高まっており、近年では、事業活動のみならず調査観測活動についても厳しい目が向けられつつある。しかし、海外の海洋研究機関が実際にどのような対応をとっているのか、国内で紹介された知見はすくない。本章では、海外の海洋研究機関に対して、環境配慮等の状況を調査するため、以下に示すアンケートを実施した。

1−1.アンケート概要

(1)調査対象 57機関

1)研究機関等18件
  • 米 ウッズホール海洋研究所(WHOI)
  • 米 スクリブス海洋研究所(SIO)
  • 米 ラモント・ドハティ地球観測研究所(LDEO)
  • 米 太平洋海洋環境研究所(NOAA/PMEL)
  • 米 モントレー湾水族館研究所(MBARI)
  • 米 フロリダ海洋学研究所
  • 米 モスランディング海洋研究所
  • 米 モート海洋研究所
  • 米 ニュージャージー海洋科学コンソーシアム
  • 米 米海洋教育協会(SEA)
  • 豪 オーストラリア海洋研究所(AIMS)
  • 豪 豪連邦科学産業研究機構(CSIRO)
  • 独 アルフレッド・ウェゲナー極域・海洋研究所(AWI)
  • 仏 仏国立海洋開発研究所(IFREMER)
  • 英 サザンプトン海洋研究所(SOC)
  • インド 国立海洋研究所(NIO)
  • 韓国 韓国海洋研究所(KORDI)
  • IODP-MI
2)大学関連27件
  • 米 テキサスA&M大学
  • 米 ハワイ大学
  • 米 アラスカ大学
  • 米 フムボルト州立大学海洋技術教育センター
  • 米 デラウェア大学
  • 米 ノヴァサウスイースタン大学 オーシャノグラフィックセンター
  • 米 マイアミローゼンスタイン大学
  • 米 グアム大学
  • 米 ニューハンプシャー大学
  • 米 ラトガーズ大学海洋沿岸科学研究所
  • 米 デューク大学ニコラス海洋環境スクール
  • 米 オレゴン州立大学 マークO・ハットフィールド海洋科学センター
  • 米 ロードアイランド大学エンデバー海洋本部
  • 米 ケープフィアコミュニティカレッジ
  • 米 デューク大学海洋研究所
  • 米 フロリダ工科大学
  • 米 ルイジアナ大学海洋コンソーシアム
  • 米 ノースイースタン大学海洋科学センター
  • 米 サンフランシスコ州立大学ロンバーグTiburonセンター
  • 米 ロングアイランド大学サウサンプトンカレッジ
  • 米 ニューヨーク州立大学ストーニーブルック
  • 米 アラスカ大学
  • 米 コネティカット大学
  • 米 メリーランド大学
  • 米 ノースカロライナ大学海洋科学研究ウィルミントンセンター
  • 米 テキサス大学海洋科学研究所
  • 豪 ジェームズクック大学
3)省庁関連4件
  • 米 米環境保護局(EPA)
  • 米 米国海洋大気庁(NOAA)
  • インドネシア インドネシア技術評価応用庁(BPPT)
  • カナダ カナダ海洋漁業省(DFO)
4)民間企業8件
  • 米 Alpine Ocean Seismic Survey Inc.
  • 米 CGGEインターナショナル
  • 米 C.R.Environmental社
  • 米 レイセオンCo.
  • 米 Sound Vessels Inc.
  • ノルウェー Fugro-Geoteam AS
  • 英 Fugro-Survey社
  • ノルウェー Ramform Victory-PGS

(2)設問概要

現在行われている海洋調査の現状と環境への影響、国内外の環境保護に関する法制度、今後の環境配慮に関する取り組み等について、選択式および記述式の両者を取り入れて設問を設計した。なお、実際に送付したアンケート一式を付属資料1に示した。

(3)実施時期:2006年3月

(4)実施方法:アンケート票の送付、回収はe-mailを用いた。

2−2.アンケート結果

(1)回答数

4機関から返答があり、そのうちの1機関はフリー形式で回答があったため、アンケート票に沿って回答が得られたのは3機関であった。

1)研究機関等4/18件
2)大学関連0/27件
3)省庁関連0/4件
4)民間企業0/8件

(2)回答結果

回答数は3件であり、母集団が小さいため全体の傾向を反映しているとはいえないが、個別の回答には示唆にとむものがあったため、回答結果の詳細を以下に示した。なお、回答の順序は質問から一部入れ替えた。

Q1.貴機関で実施されている海洋調査観測活動はどのようなものですか。選択肢の中から該当するものを下さい。(回答機関数3:複数回答)
  • 気象観測 :(1件)
  • 水中音響調査 :(3件)
  • 水質調査 :(2件)
  • 海底調査 :(2件)
  • 生態系調査 :(2件)
  • 生物資源調査 :(2件)
  • 鉱物資源調査 :(1件)
  • その他 :(2件) - 海洋物理調査、主にアカデミックな地震調査
Q2−1.貴機関が実施している海洋調査観測活動における環境への影響について、どのようにお考えですか。(回答機関数3)
  • 潜在的に有害となる影響を環境に与えると思う (1件)
  • 重大な影響を与えるというほどのものではないが、多少は環境に影響があると思う (0件)
  • ほとんど環境に影響はないと思う (0件)
  • 学術調査なので今までそのような環境に与える影響は考えたことがない(0件)
  • その他 (2件)

<コメント1>個人的な経験から言うと、計画初期段階でその海洋調査活動に関わる関係者でオープンに議論することが重要である。また、以下の点を明確にすることが特に重要である

  1. なぜその活動をする必要があるのか?
  2. どのように行われるのか?
  3. 環境に対する影響は?
  4. 環境的、学術的、社会的利益は? (2件)

その活動はメリットがリスクを明確に勝るものでなければならない。適切な規制力をもつ機関が関係者の見解を考慮し、その決定に責任を持たなければならない。

<コメント2>音響調査などは、ある程度の障害または潜在的に有害となると思う。

Q2−2.海洋調査観測活動による環境に与える影響について一般的にどのように考えますか?(回答機関数3)
<記述回答:3件>

<コメント1>基本的には、Q2<コメント1>で述べたとおり。海の機能を理解したり、海洋生態系における人間の活動の影響を測定するための現実的なシミュレートが必要な場合においては、パラメーターを測定するスケールの大きなプロジェクトの運用・経験・調査などがしばしば必要である。

<コメント2>自然保護の最善策は、そのままにしておくことである。しかしながら、人間および社会活動と深く関連しているのでそれは不可能である。よって、我々が知っている、または知らない有害な影響を最小限にし、海を理解する必要がある。また、海洋調査活動は欠くことのできないものである。最大の注意を払って準備をし、海洋調査活動に取り組まなければならない。例えば、設備や施設など。そして、時間と経験を伴って適合および改善を継続的に行っていかなければならない。海洋調査活動プログラムへの認識および意識を払うことにより、我々は環境との共存ができると信じている。

<コメント3>環境へ与える影響は、海におけるいかなる活動に対して避けられないものであるが、海洋調査観測活動は海洋環境への影響を最小限にしなければならないものの代表例である。

Q3−1.これまで携わってきた代表的な海洋調査観測活動が、環境に影響を与えたと考えられる事例があるとすれば、それはどのような種類の活動例ですか? また、その具体的影響内容はどのようなものでしょうか? (回答機関数3:複数回答) 

<コメント1>議論のもとになったことのあるスケールの大きい実験の例を2つ挙げる。なお、実験が行われる前に我々は政府の担当省庁から許可を得て、潜在的な環境に与える影響および調査の利点が示された文書のリスク分析について、利害関係者との協議がプロセスとして要求される。

a)概要:<コメント1>議論のもとになったことのあるスケールの大きい実験の例を2つ挙げる。なお、実験が行われる前に我々は政府の担当省庁から許可を得て、潜在的な環境に与える影響および調査の利点が示された文書のリスク分析について、利害関係者との協議がプロセスとして要求される。

場所:オーストラリアのEEZの熱帯地域、グレイトバリアリーフ

期間:周年にわたり、5年間。

b)概要:我々は現在、珊瑚礁にある石油開発ための地震調査影響実験を計画している。これはオーストラリア北西で行われる予定であり、商業的なオペレーションの10-20%の震動を与える。おそらく何らかの影響があるであろう。

場所:オーストラリア北西のチモール海のスコットリーフ周辺で今年後半。

期間:オーストラリアの春または初夏。(北半球の10月から12月)

<コメント2>
概要:学術調査中の海中における震動ノイズ
期間:夏季

<コメント3>我々の観測船は世界のあらゆる地域で地震調査活動に従事している。

Q3−2.どんな種類の環境に与える影響があったと思いますか?(回答機関3件) 
  非常に かなり ある程度 若干 なし
気象観測         1件
水中音響調査       3件  
水質調査         2件
海底調査       3件  
生態系調査       1件 1件
生物資源調査       2件 1件
鉱物資源調査       1件 1件
その他          
Q4.海洋調査観測活動による環境への影響を防止するために国内でどのような法律や規則がありますか?(回答機関数3件)

<コメント1>

<コメント2>

  • National Marine Scientific Research Act , Korea(2001):

<コメント3>

  • Marine Mammmal Protection Act, National Marine Fisheries (1972):
  • Marine Mammmal Protection Act, Fish and Wildlife Service (1972):

※ The Great Barrier Reef Marine Park Zoning Planを付属資料2として巻末に示した。
※ Australian EEZ: The Environment Protection and Biodiversity Conservation Actを付属資料3として巻末に示した。

Q5.貴機関は、海洋調査観測活動による環境に与える影響を防ぐために何か特別なガイドラインや基準を設けていますか?(回答機関数3件)

回答: はい: 3件

<コメント1>AIMS(オーストラリア海洋科学研究所)は、ポリシーおよび内部承認プロセスを持っており、すべての調査および実験に対して適切な省庁から適切な許可を得て、リサーチによって影響を受けるいかなる団体との協議を実行することとしている。

<コメント2>環境保護に関するルールと規則と活動基準(その他は現在準備中)

<コメント3>海洋生物保護ガイドラインを2002年に設けた。それぞれの調査に対しては、NMFS (海洋漁業局) の IHA (Incidental Harassment Authorization) の条件が含まれている。また、海洋生物観察ハンドブックがそれぞれの地震観測のための航海で発行されているが、それをIHA条件に反映する予定。

Q6.海洋調査観測活動において、具体的に、どのような対策をとりましたか。 (記述回答2件)

<コメント1>調査はいかなる影響も最小限に抑えるように計画されており、作業と学術的設計を一致させる明確なオペレーション手順書がある。

<コメント2>南極調査のため、我々は調査活動を始める前に環境に与える影響および予防行動に関して教育を行う。汚水排出や環境安全日用品使用や研究所使用手順書などを含む。起こりえる出来事に対して全員に注意を促す。

Q7.海洋調査観測活動による環境への影響が発生した場合、報告システムは確立されていますか?(回答機関数3件)

<コメント1>はい。いかなる環境への影響が発生した場合にも即時に報告するよう義務付けている。これらのレポートは関係省庁にレビューされ、議論が巻き起こった場合には、承認前に精査する。

<コメント2>はい。南極調査のケースでは、我々のガイドラインはいかなる事故もチーフへ報告されなければならなく、それらの事故は適切な手順書の報告手順に従わなければならない。

<コメント3>はい。海洋生物の目撃報告書および震動ノイズへの反応はIHAの規定によりNMFSへ提出します。

Q8−1.貴機関で海洋調査観測活動による環境への影響を防ぐための規則やルールが必要と思いますか?(回答機関数2件)
  • 必須である。すぐにでもルール作りを行うべきである: (1件)
  • 必要である。内容の検討を始めるべきである: (1件)
  • 必要なように思えるが、海洋調査による環境影響の広範な調査をはじめに行うべきだ: (2件)
  • 必要ないように思える。なぜなら、海洋調査は学術的活動であるために例外と考えられ、若干の影響ならば許容される: (0件)
  • 必要ないように思える。なぜなら、海洋調査は学術的活動であるために例外と考え、組織的なフレームワークが存在しなくても各研究者によって注意深くなされているからである: (1件)
  • その他:海洋調査観測活動は、環境保護に関する規則の例外とされるべきだと思うが、我々は不運にも機会を失っている。
Q8−2.このトピックに関して、ご意見をお聞かせください。また、上記に示した回答で追加事項等あればご記入ください。(回答機関数2件)

<コメント1>海の機能を理解するためには、または海洋生態系における人間の活動の影響を測定するためには、人間活動を現実的にシミュレート/計測するまたはスケールが必要な場合において、メリットのパラメーターを計るようなスケールの大きなプロジェクト運用・経験・調査などがしばしば必要である。この情報なしでは、政策開発やプランニングおよびマネジメントや保存および産業発展をサポートするために学術的助言を提供するのは難しい。計画初期段階でその海洋調査活動に関わる関係者でオープンに議論することが重要である。以下、Q2−1<コメント1>と同様。


<コメント2>そのような活動に関するルールおよび規則は影響を最小限にすることであり、環境への影響を少なくするためにガイドラインを提供する。ガイドラインに従うように奨励および促進しなければならない。調査活動の妨害や邪魔や障害となってはならない。なぜなら、現在、いくつかの項目を除き、我々はその影響と重大さが本当にわからないからである。我々は、自然との共存およびどのように管理するかを知るためにもっと情報を得なければならない。我々はできるだけ効果的に調査をする一方で潜在的な影響を最小限にする予防的なアプローチもおこなっていこうと思う。

(3)文書による回答

回答のうち、一件はフォームによらない文書によるものであった。以下にその内容を記した。

<コメント>

当方では、米国連邦および州政府の環境法令や規則を厳守していることを保証します。また、私たちは外国か公海における調査船の操作では関係するすべての国際的で外国の環境法令、規則、および条約を固く守っています。

1−3.アンケート分析

(1)アンケート結果のまとめ

  • 環境に影響を与えると考えられる海洋調査として、指摘の多かったものは音響調査だった。
  • 回答のあった全ての機関で、調査に関するガイドラインの設置され、報告に関するシステムが整備されていた。
  • 環境保護に関する規則やルールを必要と答える機関が多い一方で、調査観測活動は規制の例外とすべきという意見がみられた。

(2)アンケート結果総括

 以下に、各質問ごとの結果を総括した。

(質問1.海洋調査の内容)調査の内容は多岐に及んでいた。回答の多かったのは水中音響調査だった。

(質問2.海洋調査の環境への影響)質問2−1では潜在的に有害となる影響を環境に与えると思うという回答が1件あり、これは音響調査についてだった。また、調査計画の初期段階でのオープンな議論とコンセンサスの必要性について記した回答があった。質問2−2では、環境は保護しなければならないが、そのためには調査観測活動が不可欠であるという主旨の回答が2件あった。

(質問3.影響の程度)環境に影響があると考えられる事例として、豪グレートバリアリーフの底引き網試験、豪スコットリーフの地震調査という具体例が示された。質問3−2では、全ての回答機関で、海洋調査が環境に与える影響は「なし」もしくは「若干」と回答した。「若干」影響のある調査項目として、水中音響調査と海底調査をあげている。

(質問4.関連法制)米、豪、韓の5つの法律、行動計画が示された。これらの詳細については、付属資料2,3に添付した。

(質問5.ガイドライン)回答した全ての機関で、ガイドラインを設置している、もしくは設置を予定していると答えた。

(質問6.対応策)海洋調査にあたり、オペレーション手順の整備や、事前の予防行動の教育などを実施していることが示された。

(質問7.報告システム)環境への影響が懸念される事態が発生した場合、全ての機関で報告システムを有すると回答していた。

(質問8.今後の対応とコメント)規則やルールを必要と答える機関が多い一方で、調査観測活動は規制の例外とすべきだという意見が2件見られた。また、質問8−2では、「海洋調査による情報なしでは、政策や産業発展に関する学術的助言が提供できない」、「自然との共存や管理のためにはもっと情報得なければならない」といった示唆にとんだ回答がみられた。

(3)アンケート結果の分析

海洋調査観測活動が与える環境への影響には各機関とも関心を持っており、検討しなければならないことという認識をもっていた。しかしながら、具体的に環境への影響が数値化や具体化されていないためにどのような対策をたててよいのかわからないという部分も大きいようにみうけられた。

また、フリーフォームのアンケートの返信(e-mail)にもあったが、各機関がそれぞれの社内ガイドラインを持っているというよりも自治体が決定したルール、各プロジェクトの環境配慮に対する要求事項に沿ってプロジェクトを遂行しているので、ケースバイケースであるという実態がうかがえた。いくつもの調査プロジェクトを行っている機関には、ひとつひとつが違った内容および変則的なことが多すぎて断定的なことがアンケートに記入しにくく、今回の57機関中4機関という回答数につながったのではないかと推察できる。

海洋環境に配慮した海洋調査観測の規則やガイドラインを設置する前に、まず指針を立案した後、各機関や企業の認識を高め、速やかに次のステップに進む必要があると考えられる。