トップページ > 環境配慮に係る基本方針 > 海洋調査観測活動に伴う海洋環境への配慮に係る国内外研究機関の動向の調査及び分析 > 平成17年度 報告書 目次 > 2. 国内海洋関係機関における環境配慮の現状調査

平成17年度(独)海洋研究開発機構委託事業
「海洋調査観測活動に伴う海洋環境への配慮に係る国内外研究機関の動向の
調査及び分析」報告書 (平成18年3月 社団法人 海洋産業研究会)

2. 国内海洋関係機関における環境配慮の現状調査

わが国では事業活動における環境保全を促進するため、2005年4月に「環境情報の提供の促進等による特定事業者等の環境に配慮した事業活動の促進に関する法律」(付属資料2参照、以下「環境配慮促進法」)が施行された。本法は環境を保全しつつ健全な経済の発展を図る上では、事業活動に係る環境保全に関する活動とその評価が必要であるとし、大要以下の事項を定めている。

  1. 特定事業者(独立行政法人、国立大学法人等、詳しくは付属資料4参照)は環境報告書を作成し、毎年度公表
  2. 国は、その環境配慮等の状況を毎年度公表
  3. 地方自治体は、その環境配慮等の情況を毎年度公表するように努める
  4. 大企業は環境配慮等の状況の公表を行うように努める。公表の際には、できるだけ環境報告書を作成して、情報の信頼性を高めるように努める。

環境配慮促進法における情報公開

環境配慮促進法における情報公開

(◎=責務・毎年、○=努力・毎年、△=努力)

※特定事業者については「環境報告書の普及を図る観点から、いわば‘モデル’として率先して環境報告書を作成・普及していただく」とされている。

以上のように、環境報告書の作成、環境配慮等の状況の公表および公表の責務、公表頻度といった事項は、国、地方自治体、特定事業者(独立行政法人、国立大学法人等)、企業によって異なっている。

わが国における海洋関係機関は、独立行政法人、国、地方自治体、民間企業と多様に存在している。これらの機関における環境配慮等の状況と、環境配慮促進法の認知度について調査するため、以下に示すアンケートを実施した。

2−1.アンケート概要

(1)調査対象

(i)都道府県水産試験場39件

北海道水産林務部水産振興課、青森県水産総合研究センター、秋田県水産振興センター、岩手県水産技術センター、山形県水産試験場、宮城県水産研究開発センター、福島県水産試験場、茨城県水産試験場、千葉県水産総合研究センター、東京都産業労働局水産課、神奈川県水産技術センター、静岡県農林水産部水産振興室、愛知県水産試験場、三重県科学技術振興センター水産研究部、和歌山県農林水産総合技術センター水産試験場、大阪府水産試験場、新潟県水産海洋研究所、富山県水産試験場、石川県農林水産部水産課、福井県水産試験場、京都府立海洋センター、兵庫県立農林水産技術総合センター水産技術センター、鳥取県水産試験場、岡山県水産試験場、島根県水産試験場、広島県立水産海洋技術センター、山口県水産研究センター、愛媛県水産試験場、香川県水産試験場赤潮研究所、徳島県立農林水産総合技術支援センター、高知県水産試験場、福岡県水産海洋技術センター、大分県農林水産研究センター水産試験場、宮崎県水産試験場、熊本県水産研究センター、長崎県総合水産試験場、佐賀県有明水産振興センター、鹿児島県水産技術開発センター、沖縄県水産試験場

(ii)大学関連11件

広島大学、三重大学、鹿児島大学、長崎大学、東海大学、東京海洋大学、北海道大学、水産大学校、東大地震研究所、東大生産技術研究所、東大海洋研究所

(iii)省庁関連2件

気象庁、海上保安庁

(iv)独立行政法人4件

(独)産業技術総合研究所、(独)防災科学技術研究所、(独)港湾空港技術研究所、(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構

(v)民間企業19件

アジア航測(株)、(株)エコニクス、沿岸海洋調査(株)、応用地質(株)、オフショア・オペレーション、川崎地質(株)、国際航業(株、国土環境(株)、三洋テクノマリン(株)、(株)シャトー海洋調査、(株)地球科学総合研究所、(株)東京九栄、日本海洋調査(株)、日本大陸棚調査(株)、(株)パスコ、復建調査設計(株)、芙蓉海洋開発(株)、深田サルベージ建設(株)

(2)設問概要

現在行われている海洋調査の現状と環境への影響、環境配慮促進法の認知度および対応、今後の環境配慮に関する取り組み等について、選択式および記述式の両者を取り入れて設問を設計した。なお、実際に送付したアンケート一式を付属資料5に示した。

(3)実施時期:2005年12月

(4)実施方法:アンケート票の送付、回収はe-mailを用いた。

2−2.アンケート結果

(1) 回答率

回答数は合計27件であった。海外アンケートに比べて母集団が多く、有意義な解析を行うことができた。

対象 発送数/回答数 回答率
(1)都道府県水産試験場 17/39件 43.60%
(2)大学 0/11件 0%
(3)省庁 2/2件 100%
(4)独立行政法人 1/4件 25.00%
(5)民間企業 7/19件 36.80%
合計 27/76件 35.50%

(2)回答結果

Q1.貴機関で実施されている海洋調査観測活動はどのようなものですか。選択肢の中から該当するものをお選びいただき、代表的な活動の概要についてご記述下さい。(回答機関数27:複数回答)
回答数
<代表的な活動の概要>
※記述式の回答については地名等回答機関の特定に係わる記述は省略した。以下同。
  • (水試−1)定期海洋観測、水産資源調査
  • (水試−2)CTD、採水器を使用した定点海洋観測。計量魚群探知機、トロール、流し網などを使用したモニタリング調査。採泥器を用いた底質調査。藻場調査。
  • (水試−3)定期海洋観測調査、計量魚探調査、漁具によるサンプル採取及び浅海域での水質調査、海藻繁茂調査。
  • (水試−4)計量魚探による底魚の資源量把握。小型トロールネットによる魚群分布調査。直属試験調査船による周年、2カ月毎の定期定点海洋観測(水温、塩分、流れ、プランクトン、栄養塩、クロロフィル、透明度、海象・気象等)。
  • (水試−5)海洋定線観測:水産資源調査:トロール漁法で底魚類を採捕し、発生量等を調査する。観測ブイによる調査。水質・底質調査。生態・資源調査。藻場調査。
  • (水試−6)海況観測調査指針に基づく海洋観測。底びき網を用いた各種加入量及び資源量調査。
  • (水試−7)海象観測:沿岸域の水温・塩分・流向流速・動植物プランクトン量・透明度・水色等について観測し,現況把握並びに海況予測の基礎データとする。資源調査:他県の調査船と共同で調査を実施(使用漁具:中層〜底層トロール,流し網等)。浮き魚一般については,科学計量魚探による音響調査を実施。
  • (水試−8)海洋観測、水産資源調査、原子力発電所温排水調査、人工魚礁効果調査、漁場環境保全調査
  • (水試−9)水質調査:水温、塩分、栄養塩、クロロフィル、COD、DO等。底質調査:IL、COD、全硫化物、粒度組成等。水産資源調査
  • (水試−10)漁獲対象魚種の資源調査。定点海洋観測。  
  • (水試−11)気象海象調査:海域に定点を設け、定期的に水温、塩分、流速、流向等を観測。生態系調査:主に沿岸浅海域の海藻などの生物相の分布調査。水産資源調査:試験操業による釣獲試験や標本のサンプリング、重要資源の現存量調査。
  • (水試−12)海況把握のための沿岸・沖合海域の水温、流向、流速、塩分等の調査。漁場環境把握・モニタリングのための栄養塩類等調査。水産資源管理・漁況予測のための漁獲調査。種苗放流技術向上のための水生動植物生息状況調査
  • (水試−13)漁業調査船;CTDによる水温、塩分の測定。水色、透明度の観測、卵稚仔、プランクトンの採集、一般気象観測及びドップラー流速計による連続観測。水質調査船;赤潮、貝毒原因プランクトン調査及び気象、海象観測。一般項目、生活環境項目、健康項目、特殊項目、その他の項目についての水質監視調査。水質、底質及びプランクトンについての広域総合水質調査。
  • (水試−14)月1回の定点海洋観測調査(水温、塩分、クロロフィル、プランクトン等)
  • (水試−15)定線調査を毎月1回実施。同調査では、気象観測(天候、気温、雲量、雲形など)と海洋観測(うねり、透明度、CTD、ADCP、クロロフィル量など)および生物調査を行っている。
  • (水試−16)毎月1回、複数の定線において次の観測活動を実施している。海洋環境調査;気象、海象、水色、透明度、各層水温・塩分、魚群量調査、流向/流速調査ADCP,卵稚し魚調査
  • (省庁−1)観測船によるCTD、多筒採水器による各層観測。ADCPによる海流観測 。XBT、XCTDによる表層水温、塩分観測。海上気象観測。高層気象観測。
  • (省庁−2)地形や水深、海流や潮流・潮汐、天体の正確な位置などについて科学的な調査。
  • (独法−1)フェリーを活用した潮流、水質の毎日観測 ・底質の移動・堆積の観測 ・深堀り跡地の水質連続観測および造成干潟への生物再加入調査・水質・流動の観測
  • (民間−2)水質・底質調査、生物調査・分析(潮間帯生物,底生生物,プランクトン,魚卵・稚仔,魚類)、物理環境の調査・解析・評価(波浪・流況調査,漂砂調査,海浜変形調査,水中音響(騒音)調査,動揺調査,風況調査)、海域測量調査(深浅測量,潮位・水位観測,多角測量,水準測量,魚礁・定置網等の位置測量,漁場図作成)各種数値シミュレーション(海浜変形予測,流況予測,拡散予測,生態系予測、各種業務(魚礁状況把握,深層水調査,漁場・藻場造成調査,生物生息環境調査,生物試験,構造物点検)
  • (民間−3)沿岸域における環境アセスメント調査、環境モニタリング調査等、環境創造事業
  • (民間−4)海洋における発電所等のモニタリング調査
  • (民間−5)流況調査、波浪調査、海底地形測量、水質調査(採水、自動観測)、水域環境アセスメント、流況予測、水質拡散予測、海底地形モデル作成、海況の電子化など
  • (民間−6)発電所の取・放水口周辺の環境調査
  • (民間−7)沈船調査、海底における沈物調査等:海又は湖など水中に沈んだ物体(船だけでなく、コンテナや飛行機なども含む)の調査
Q2.貴機関が実施している海洋調査観測活動における環境への影響について、どのようにお考えですか。(回答機関数27)
回答数
Q3.これまで携わってきた代表的な海洋調査観測活動が、環境に影響を与えたと考えられる事例があるとすれば、それはどのような種類の活動例ですか? また、その具体的影響内容はどのようなものでしょうか? (回答機関数3:複数回答)
回答数
<記述回答:3件>

(民間−1)XBT、XCTD 公的機関を含めて、外洋水域が多いが、鉛等が含有されているので危惧される。

(民間−2)

  • 観測機器の使用によるエネルギーの消費(充電等による電力使用)
  • 調査機器(発電機等)や車輌の使用による資源(化石燃料)の枯渇
  • 調査機器(発電機等)や車輌の使用による大気汚染(排気ガスの排出)
  • 調査機器(発電機等)の使用による騒音・振動の発生
  • 生物調査(採取)による生態系への影響
  • 生物調査(採取)時の薬品使用による職場環境(調査技術者)への影響
  • 調査船の使用による資源(化石燃料)の枯渇
  • 調査船からの燃料の漏洩(緊急事態)

(民間−3)
これまで、特定の活動に係る影響事例はない。業務全体のなかで、化学薬品や有害物質を含む試料等の廃棄、生物固定用のホルマリン、報告書用のコピー用紙等の環境負荷があり、対策をとってきた。

Q4.平成17年4月1日から「環境情報の提供の促進等による特定事業者等の環境に配慮した事業活動の促進に関する法律(通称・環境配慮促進法)」が施行されました。貴機関での同法についての認識はいかがですか?(回答機関数27) 
回答数
Q5.同法が施行されるにあたって、貴機関での海洋調査観測活動において何らかの対策を講じられましたか。(回答機関数26)
回答数
Q6.海洋調査観測活動において、具体的に、どのような対策をとりましたか。
(記述回答3件)

(民間−1)ISMに則り、船舶運行中(ISM資格申請中) (事業所としては、ISO9001及びISO14001は取得済み)

(民間−3)
当社での環境の取り組みは、ISO14000活動、環境憲章,環境報告書を通して実施している。上記の活動結果は、当社のホームページで公開している。
・ホルマリン無害化装置の開発
・有機溶媒液の蒸留リサイクル装置の開発

(民間−6)
社全体でISO14001環境マネジメント、ISO9001品質マネジメントシステムを取得しているため、その方針に則って事業活動を行っている。

Q7.海洋調査観測活動において、対策をとらない理由についてお答えください。
(回答機関数23)
回答数
<「その他」の内容>

(水試−3)

  1. 船上で使用した薬品などについては全て陸上に持ち帰り処分している。
  2. 生物サンプリングについて前述のとおり必要最小限の量を採取している。
  3. 藻場調査についても必要最小限の量の採取としている。
  4. 魚探についても特定魚種の調査時のみ、海域を限定し使用している。
  5. 有機スズ塗料については、調査船に使用していない。
  6. トロール調査についても長くても1時間程度の曳網であり、調査活動による環境への影響は軽微であると考える。

(水試−4)魚探調査は沿岸域が主体で、鯨類が少ない海域でもあり影響はない。また、有機スズや鉛などの有害物の使用はすでに避けており、この法律ができる前から環境への配慮は考えていた。現状では当方の調査活動が環境に影響することはほとんどないと考えられる。さらに新たな対策が必要かどうかについては今後検討したい。

(水試−6)対策をとるか否かは今後の検討課題とする。

(水試−8)法律内容を確認し、対策の必要性を今後検討したい

(水試−10)これまで調査船の建造,調査活動において他の法律に基づき配慮はしてきたところであるが,法律の内容について検討した上で必要があれば対応する。

(水試−15)Q5で回答したように、対策をとるかどうかについては今後検討していくことになる。

(水試−16)本調査は漁業活動の効率化のための漁況予測等を目的としており、このことは漁業が環境へ及ぼす影響を低減するためにも必要なものである。また、頻度的にも必要最低限で環境へ影響は軽微と思われるが、環境への影響も全く必要ないとは考えておらず、今後、できうる対策を検討したい。

(独法−1)
観測機材TBTなどを用いないことなどは、極めて当然のことで、法令の施行以前からすでにかなりの配慮・工夫をしてきている。当然法令の施行によって新たに採用すべき対策技術や新素材が開発され利用できる状況にあるのであれば引き続き配慮を進めていきたい。

Q8.環境に配慮した事業活動の促進における、海洋調査観測活動の位置付けについて、お伺いいたします。 (回答機関数26)
回答数
<コメント>

(水試−4)
調査の規模や内容によっては影響があると考えている
(独法−1)
観測で使用する化学薬品や分析作業により発生する廃液は厳重に管理するとともに極力減らす努力をしてきた。努力を怠ればそれなりの影響の恐れはある。

Q9−1.海洋調査観測活動における環境への影響について、取り組みはどのようにお考えですか?(理念・ガイドラインについて)(回答機関数26)
回答数
Q9−2.海洋調査観測活動における環境への影響について、取り組みはどのようにお考えですか?(海洋調査観測活動の実施について)(回答機関数26、複数回答)
回答数
<コメント>

(水試−12)
・当所での海洋調査観測活動が環境に及ぼす影響は殆どないと考えるが、国等による大規模調査では環境へ大きな影響を与えることも想定され、一定の考え方(理念)だけでも必要と考えます。
・当所では、海洋汚染防止法等、海洋環境保全に関する諸法令に基づいた運営を行っています。
(独法−1)
私たちの周辺には、様々な環境影響要因がある。その中で限られた人材や資金をどう使うかが総体として環境負荷を減らすことになるのかよく考える必要がある。理念やガイドラインは当然大切であるが研究調査活動の中でどう努力すべきかの整理は既にかなりできているのではないか。むしろ社会総体の中で抜け落ちたり眼が届かなかった部分を発見し、Impactを有効に減らしていく責務が海洋観測にはあるのではなかろうか。
(民間−3)
海洋調査による環境負荷は、その調査の内容により大きく異なる。一定の基準(ガイドライン)を設けることは困難ではないか。各調査内容に応じた対策をそれぞれの立場から対応すべきではないか。

Q10. 最後に、本アンケートの主題たる海洋調査観測活動の環境配慮、あるいは、本アンケート自身に関するご意見、ご感想、コメントなど、何でもご自由にご記入ください。(回答機関数8)

(水試−5)現在、観測活動については環境への影響からほとんどない状態にあるが、調査内容、方法等によっては支障をきたすことも考えられることから、十分実態等を踏まえガイドライン等を検討すべきである。
(水試−16)全体像が掴めないため,答えに窮します。Q9は当センターの海洋調査観測活動の範囲内で回答しました。
(水試−12)本アンケートはメールで依頼されましたが、組織として正式に回答するようになっていることから、文書による依頼をお願いしたい。
(水試−17)本アンケートで寄せられた「理念」「作業ガイドライン」について参考としたいのでぜひ送付していただきたく存じます。
(省庁−1)海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律に対して、観測船では全ての航海について、船内のゴミは、生ゴミを除き全て持ち帰っている。また、生ゴミも粉砕して海中に投棄している。分析作業等で出る廃液は、全て持ち帰り、業者に処理させている。
(民間−6)環境への影響を全くかけずに、現況調査をすることは不可能である。しかし、環境保全や将来予測のために、インパクトが軽微な調査技術の開発は必要であると考える。また、生物を試料水や底泥とともに実験室へ持ち帰らなくても計測できるようなセンサ開発や生息状況の認識技術などの開発により、環境への負荷を軽減すべき開発を進めるべきと思う。

2−3.アンケート分析

(1)アンケート結果のまとめ

  • 環境配慮促進法の認知度は60%で、40%の機関では「知らない」と回答した。
  • 同法を念頭に対策をとった機関は8%であり、大多数の機関では特に対策をとっていない。
  • 海洋調査・観測活動の環境におよぼす影響は深刻なものではないという意識が過半数を占めた。
  • 環境配慮に対する意識は、公共機関で低く民間企業で高いという傾向がみられた。

(2)アンケート結果総括

以下に、各質問ごとの結果を総括した

(質問1.現行の海洋調査観測活動の内容について)

海洋調査観測活動の内容については、気象海象観測、水中音響調査、水質調査、底質調査、生態系調査、水産資源調査で15から22件の回答があり、もっとも多かったのは水産資源調査であった。代表的な活動について記述では、水産試験場で定期的な海洋観測および漁獲対象物の資源量調査が多くを占めた。

一般的な定期海洋観測および資源量調査の他には、人工魚礁の効果確認調査、藻場調査、干潟調査、赤潮・貝毒プランクトンの調査、原子力発電所等の排水の調査といった活動が地域ごとに実施されていた。

一方、民間企業からは環境アセスメントという回答が複数みられた。これは、海洋工事等の事前調査と考えられ、調査項目が水質、底質、生物など多岐に及ぶ総合的な調査と考えられる。

(質問2.環境への影響について)

全体として、海洋調査観測活動は「環境への影響はほとんどない」との過半数の回答が57%を占め、「環境への影響についてこれまで公式に検討したことがない」との回答も32%あり、両者の合計は89%におよんだ。一方、「ある程度の影響がある」との回答は11%に留まった。この設問からは海洋調査観測活動が環境に与える影響は軽微であると捉えられている現状がうかがえた。

この傾向は特に公共機関で顕著にみられ、回答の得られた20機関の全てが「環境への影響はほとんどない」、「環境への影響についてこれまで公式に検討したことがない」と回答していた。一方、民間企業では回答の得られた7社のうち、3社が「ある程度の影響がある」と回答していた。民間の調査会社ではISOなどの国際基準を事業実施の条件とするケースが増えているという背景があり、これらに準拠した調査活動により環境に対する意識が高まったものと考えられる。

(質問3.環境に影響のある調査活動について)

質問2で、海洋調査観測活動が環境に与える影響は少ないと答えられてことから、回答を得た機関は3件に留まった。その内容は、投げ捨て式の測器(XBT、XCTD)の鉛などによる環境影響に関する危惧、生物採取による生態系への影響、船舶や発電機等を使用することによる一般的な環境影響(排気ガス、振動、二酸化炭素排出等)についてであった。また、「化学薬品、有害物質を含む試料、ホルマリンなどは環境負荷があり、対策をとってきた」との回答もあった。

(質問4.環境配慮促進法の認知度について)

環境配慮促進法について「知っている」60%に対し、「知らない」が40%であり、現時点での認知度は高いとはいえない。また、同法における特定事業者に指定されていないので対策をとっていないという回答が11%、指定されていないが自主的に環境に配慮した事業活動を促進しているという回答が19%あった。

(質問5.環境配慮促進法への対応)

環境配慮促進法を念頭に対策をとった機関はわずかに8%であり、知っているが特に対策をとっていない機関は50%であった。また、知らなかったためこれから対策をとるかどうか検討する機関は38%であった。質問4および5から、同法については「知らない」、もしくは知っていても「特に対策をとっていない」という姿勢が伺える結果となった。

(質問6.具体的な対応)

具体的な対応については、民間企業3社より回答があった。対策としては、ISM、ISOなどの資格取得であった。

(質問7.対策をとらない理由について)

海洋調査観測活動において対策をとらない理由では「海洋調査観測活動に及ぼす影響は軽微であり、特に対策は必要ないから」という回答が54%を占めた。「環境影響の評価検討に基づいて対策すべき」が13%、「既に十分な対応をしている」が8%あった。

「その他」と回答した25%については、記述に「生物のサンプリングは最小限にとどめている」、「有機スズや鉛などの有害物質は環境配慮法以前から使用していない」、「鯨類の生息範囲ではいので、音響調査に問題は無い」といった、環境に対する配慮例がいくつか見られた。また、「法令の施行によって、新たに採用すべき対応技術や新素材が開発され利用できる状況にあるのであれば引き続き配慮を進めていきたい」といった積極的な意見もあった。

(質問8.環境に配慮した事業活動の促進における海洋調査観測活動の位置づけ)

本設問では環境に配慮した事業活動の促進と海洋調査観測活動の関係について意識を調査した。結果としては「十分関係する」(23%)と「関係するかもしれない」(42%)を合計すると65%が関係する可能性があると認識している。一方、「結びつけて認識していない」は23%、「分からない」は12%であった。ここまでの結果では、海洋調査活動の環境に対する影響は少ないと考えている機関が多いものの、海洋調査観測活動が「環境に配慮した事業活動の促進」の一環として考えられているとみられる。

(質問9.今後の取り組みについて)

質問9−1では今後の取り組みについて尋ねているが、「直ちに理念を掲げるとともに作業ガイドラインを策定すべき」(8%)と、「影響内容はわからないものの、理念だけでも掲げるべきだ」(35%)を合わせて43%の機関が今後何らかの取り組みの必要性を感じている。一方、「影響内容が分からない限り軽々に取り組むべきでない」という慎重な姿勢も15%の機関で見られた。また、「何ともいえない」という回答の機関も38%みられ、現状は今後の成り行きを見守る姿勢の機関も多く見られた。

質問9−2では今後の海洋観測活動について尋ねているが、ここでも「環境に及ぼす影響は深刻とは思えないが、ガイドラインや理念は必要」という回答が最も多かった。コメントとしては、「一定のガイドラインよりは各調査内容に応じた対応が必要」といった指摘や、「大規模な調査では環境影響も予想されるので理念だけでも必要」といった指摘があった。また、海洋観測は、これまで目の届かなかった環境負荷を発見し、そのImpactを有効に減らしていくという社会に対する責務があるという示唆に富んだコメントもあった。

(3)アンケート結果の分析

アンケートの回答率は35.5%であり、対象別には都道府県(43.6%)、民間企業(36.8%)、省庁(100%)、独立行政法人(25.0%)、大学(0%)であった。都道府県および省庁を含めた行政機関では回答率が比較的高かったが、大学からの回答はなかった。

大学については、「あくまでも練習船による教育実習の観点からの航海である」ため、アンケートの主旨と合致しないとの連絡が一件寄せられた。

国立大学法人は環境配慮促進法における特定事業者の指定を受けており、環境報告書を率先して作成するよう指導されている。しかし、今回の調査では、大学等の教育機関の海洋環境配慮に関する意識を明らかにすることはできなかった。教育機関の実施する環境配慮に対する取り組みおよび教育実態については、今後のわが国における海洋事業の従事者育成という観点で、注目すべき点であると考えられる。

本アンケートの結果から、海洋調査・観測活動の環境におよぼす影響は深刻なものではないという意識が大多数を占めた。海洋調査・観測活動を行う際の環境に関する規制は、廃棄物の管理以外の項目では、海外と比較して具体的な数値等の規制は少ない。そのため、生物サンプリングの量、種類などについては調査実施機関ごとの裁量で行われているのが現状とみられる。

事業活動における環境への配慮は必要であるが、調査機関の実施する調査が直ちに環境に深刻な影響を及ぼすとは考えにくいという認識が広く見られた。また、むしろ、調査観測の充実により、環境保護に有益な学術的データを提供できるという主旨の見解もアンケート回答にはみられた。