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平成17年度(独)海洋研究開発機構委託事業
「海洋調査観測活動に伴う海洋環境への配慮に係る国内外研究機関の動向の
調査及び分析」報告書 (平成18年3月 社団法人 海洋産業研究会)

4.まとめ

4−1.海外の海洋研究機関における環境配慮

今回実施した海外調査機関に対するアンケートでは、回答数は少なかったものの、回答を寄せた機関の回答内容は充実しており、示唆に富んだ内容となっていいた。この中では、特にオーストラリアにおける調査に関する記述がみられた。

オーストラリアは1999年にEPBC法(Environment Protection and Biodiversity Conservation Act 1999)を制定しおり、海洋全般、ラムサール条約に認定された湿地、絶滅危惧種の存在する生態系などで開発等のプロジェクトを行う場合、その主体は国内、国外に係らず、環境大臣の許可が必要となっている。さらに、海洋投棄、海洋施設、グレートバリアリーフに関する事項については、許認可に際し特定の行政機関からの指導がある。

GBRMPAはそうした行政機関のひとつである。グレートバリアリーフではゾーニング計画が2004年7月に発効しており、新しい政策である科学調査管理(Managing Scientific Research in the Great Barrier Reef Marine Park)は同計画に基づいて策定されている。この管理規制では、科学調査を行う際に使用する器具、採取する堆積物や海水の量、サンプリング可能な生物の種類などが詳細に定められている(付属資料2参照)。生物サンプリングの個体数は6段階に分けられており、鳥類、哺乳類、爬虫類、両生類のサンプリングが厳しく規制されているのはもちろんのこと、カタクチイワシ、ニシンといった絶滅に瀕していない生物種に関しても年間500尾まで(一箇所では100尾を上限)といった規制が加えられている。

しかし一方でGBRMPAは、グレートバリアリーフを保護していくためには科学的調査を必要と考えており、自然に一切手を加えてはならないといった極端な保護主義に傾倒しているわけではない。アンケート回答にいくつか触れられていたが、環境を保護するために科学的調査は不可欠という立場をとっている。

今回のアンケートでは、調査機関に対し調査観測活動に関して内部のガイドライン等について質問を行っているが、回答を得た3機関全てにおいて、「ポリシーおよび内部承認プロセスを有する」、「環境保護に関するルールと規則、活動基準を有する」、「海洋生物保護ガイドラインを有する」という回答を得た。今後、国際的な活動を行う調査研究機関は、外部の法規制のコンプライアンスならびに、内部のガイドラインの整備という両面が要請されるものと考えられる。

4−2.国内海洋関係機関における環境配慮

今回実施した国内調査機関向けアンケートでは、環境配慮法の認知度や対策等について調査したが、全体的な認知度は極めて低いという実態であった。これは、同法の定めている環境報告書の作成義務は独立行政法人や国立大学法人等の特定事業者に限定されている点、地方自治体については環境報告書の作成ではなく「環境配慮等の情況を毎年度公表するように努める」といった努力目標程度にとどまっている点等が影響していると考えられる。また、大企業についても、「環境配慮等の状況の公表を行うように努める」とされており、「毎年」という期限が指定されていない部分では地方公共団より緩やかな規制となっている。しかし、その反面、同法では大企業による自主的な環境報告書の作成が強く要請されている。環境報告書の作成、公表が企業のイメージアップに貢献するようであれば、今後、環境報告書の作成事例は増える可能性がある。政府は「循環型社会形成推進基本計画」において、環境報告書を公表する企業の割合を平成22年までに上場企業の50%、非上場企業の30%ととする目的を設定している。

一方、独立行政法人や国立大学法人等の特定事業者は「環境報告書の普及を図る観点から、いわば“モデル”として率先して環境報告書を作成・普及していただく」とされており、実際上、環境報告書の作成は義務となっている。事業者の環境影響に関する事項は、省エネ、温暖化ガスの排出、輸送にかかわる環境負荷、グリーン購入・調達など活動全般におよぶものである。また、事業活動の性格によって環境パフォーマンス情報は異なるため、どの環境パフォーマンス情報を環境報告書に記載すべきかについては一律に決められるものではなく各事業者が事業活動に伴う環境負荷状況を考慮して、自ら判断することが必要になる。次ページにモデル事業者の概要と目次例(環境報告書の記載事項等の手引き、平成17年、環境省)を示した。

特定事業者は事業活動における環境への影響を客観的に判断し、国際的な事例に則した環境パフォーマンス情報を公表することになる。

国内アンケートの結果、国内の調査研究機関では調査観測活動が環境に与える影響は乏しいと考えられている。しかし、国際的にみれば、鯨類の保護に関する音響調査の規制や、保護水面における生物サンプリングの規制などが存在している。環境報告書を率先して作成する義務を有する特定事業者は、他の国内機関の規範となるような環境配慮の取り組みを率先して示す必要がある。

モデル事業者の概要と目次例

モデル事業者の概要と目次例
(環境報告書の記載事項等の手引き、平成17年、環境省)

本報告書では基本的に調査主体側に環境配慮に関する意識や現状について調査したが、得られた回答からは一律のガイドラインを設定しているというよりは、調査を行う場所における法令、規制を遵守するという内容もいくつか見られた。一方、わが国の環境配慮法では事業者側に環境保護を促すという方針である。

環境保護を実現するためには、環境保護区などの法規制ならびに、事業者自らが環境を配慮するための理念やガイドラインを設定することが必要となる。

4−3.海洋環境に配慮した海洋調査観測活動の国際動向

米国の海洋研究機関であるNOAAは、環境にやさしいアンカーのデザイン募集やイベント時に植物性油を使った船をアピールするなど、海洋関係者だけでなく一般人も巻き込み環境への配慮の意識を具体的に高め自ら実践していた。

しかし、企業の行っている環境配慮の事例はほとんどみあたらなかった。企業活動においては、費用対効果という観点でも困難な部分であり、特にプロジェクトで要求される場合を除けば、環境保護のための設備投資を行うことは考えづらい。

今回の調査では唯一、FUGRO社の取り組みを紹介した。そのHSE方針の中で、環境に対する配慮の促進として排出物の削減を挙げていたが、それをどのように実行していくかはウェブサイトの中でも示されていなかった。税措置など公的助成によるの具体的なメリットがなければ、企業の環境に対する自発的な配慮や意識改革は期待しにくい。今後は、まず調査研究機関や教育機関が率先して、海洋調査観測活動における環境への配慮の具体案の実施を促進し、環境にやさしいシステムづくりを進めていく必要があると考えられる。

4−4.今後の課題

本調査では、海外、国内の調査研究機関が実施している環境保護に対する取り組みについてアンケートを中心に調査し。環境保護対策についてはナーバスな面を有するため慎重な対応の機関が多く、特に海外からの回答は少なかった。しかしながら、海外の機関からは少ないながらも調査観測活動に関するガイドラインの設置や報告システムの整備をすでに行っているという回答が得られた。このような事例は、国内における海洋調査研究機関が実施する環境配慮に関する取り組みについて参考になるため、今後その内容に関する詳細な調査が必要と考えられる。

一方、国内の調査研究機関においては、環境保護についてのガイドライン等の設置事例はほとんど見られなかった。今後、独立行政法人や国立大学法人は環境配慮促進法における環境報告書を作成することになるが、他の機関のモデルとなるような環境配慮に関する取り組みを示す必要がある。その責務を果たすためにも、今後も環境配慮に関する継続した取り組みを実施することが重要と思われる。