JAMSTEC
平成10年7月29日
海洋科学技術センター


マリアナ海溝チャレンジャー海淵において世界で初めて底生生物の採集に成功
海洋科学技術センター(理事長 平野 拓也)は、無人探査機「かいこう」を使い、 本年5月14〜27日の間、マリアナ海溝のチャレンジャー海淵(水深約10900 m、別紙地図)において潜航調査を行いました。そして、同海淵において、世界で初 めて端脚類(ヨコエビ、写真参照;約4.5cm)の採集を行いました。端脚類の生息深 度としても世界一の記録です。

 水深10000mを越すチャレンジャー海淵に生息する生物に関する科学的情報は 殆どないのが現状です。そこで、超深海には、どのような生物が生息 しているかを調べるため、餌付きトラップなどによる生物の採集を試みました。その 結果、端脚類(ヨコエビ)の採集に成功しました。採集した端脚類の分類学的検討を 行ったところ、形態学的にフィリピン海溝の9600m〜9800mで採集されている 端脚類と同じ種類であることが判明しました(学名:Hirondellea gigas「 ヒロンデレア ギガス」、和名:なし)。今後、日本海溝など他の海溝域の端脚類も 採集し、DNAの塩基配列を調べるなど分子生物学的手法を用いてそれらの詳細な類縁 関係を明らかにしていく予定です。

 また、底泥の中に生息する**メイオベントスを調べるために底泥を 採集しました。現在、泥中のメイオベントスの分類・計数を行っています。また、海 底に呼吸計(酸素の消費量を計測する装置)を設置し、超深海底に生息する小型の生 物や微生物の活性がどの位あるのかを調べるための現場実験も開始しました。この呼 吸計はおよそ1年後に回収して、その結果を解析します。

 従来、魚類の生息が確認された最も深い科学的記録は、南米のプエルトリコ海溝の 約8300m地点であるとされています。しかし、有名なトリエステ号が、1960 年にチャレンジャー海淵で最深潜航記録を樹立した時、体長約30cmのカレイもしく はヒラメの仲間(Flat fish)が観察されたという話があります。それ故、魚類生息 水深の最深記録更新の期待もありましたが 、今回の調査で魚類を発見することはで きませんでした。

用 語 解 説

 超深海:一般的には水深200m以深を深海といいますが、その中で も水深6000m以深は超深海と呼ばれています。
**メイオベントス:線虫や有孔虫など1mm以下、31μ(0.031mm)以上の サイズの小型底生生物


問い合わせ先:海洋科学技術センター
       海洋生態・環境研究部 橋本 Tel: 0468-67-3844
       総務部普及・広報課  喜多河、杉山、野口 Tel: 0468-67-3806