平成11年4月1日
    海洋科学技術センター
 
海洋科学技術センターにおける平成10年度研究課題評価について
 
 海洋科学技術センター(理事長:平野 拓也)は、外部専門家及び有識者による平成10年度研究課題評価を実施しました。この研究課題評価は、研究資源(人材、資金、施設設備)の有効かつ効率的な活用に資することを目的に、「海洋科学技術センターにおける研究評価のための実施要領」に基づいて平成9年度より実施しているものです。
 平成10年度における、評価対象課題は、研究開発着手後5年を経過した、もしくは終了した重点的資金による研究開発課題(プロジェクト研究)7件及び平成9年度に終了した基盤的研究(経常研究、共同研究及び特別研究)8件です(別紙1)。
 評価体制は、海洋科学技術に関して専門的な知見を有する外部専門家及び科学技術に知見を有する外部有識者によって構成される「研究課題評価委員会(別紙2)」と、研究領域ごとに設置された外部専門家による4つの専門部会(海洋固体地球科学研究部会、海洋観測研究部会、海洋生物・生態研究部会、海洋技術開発部会(別紙3))において以下の評価項目をもとに評価が実施されました。
 
(1)中間評価(現在継続中であるが、着手後5年以上経過した課題)
 ・研究開発の目的、目標、方向性の妥当性
 ・研究開発の概要、計画及び研究開発手法の妥当性
 ・研究開発費、実施体制の妥当性
 ・研究開発の進捗状況
 ・今後の予定(計画)
(2)事後評価(前年度までに終了している課題)
 ・研究開発の目的、目標の妥当性
 ・研究開発の概要、計画及び研究開発手法の妥当性
 ・研究開発費、実施体制の妥当性
 ・研究開発の達成状況
 ・成果の波及効果普及及び新たな課題への反映
 ・成功、不成功の原因についての考察

 評価結果としては、いくつかの課題については、研究開発を進めるうえでの目標の変更に対する対処方策が必ずしも適切でなかった、もしくは当初の目的に対する達成度が不十分である、または、開発におけるコストのバランスにもっと考慮すべきであるなどの指摘を受けましたが、研究目的、意義、実施内容ならびに進捗・達成状況等全般的に高い評価を受け、概ね肯定的に評価されました。
  
 評価結果の例としては、重点的資金による研究課題であるプロジェクト研究のうち主なものについて以下に示します。

○「大型海洋観測研究船『みらい』の整備」
 (平成6年度〜平成9年度;経費 194億6千4百万円)
○「大型海洋観測研究船『みらい』の活用体制の整備」
 (平成6年度〜平成9年度;経費 24億5千5百百万円)

 原子力船「むつ」の解没後、荒天下や極域での観測及び大量のブイの設置などを行う海洋地球研究船「みらい」(注) への改造に係る課題ならびに「みらい」の母港として青森県関根浜港に「みらい」で展開する海洋観測ブイなどの整備や海水や海底堆積物の分析・保管などを行うための設備の整備に係る課題に対する評価の概要は以下のとおりです。

(評価結果)「大型海洋観測研究船『みらい』の整備」
 「極域や荒天の海域などでの長期にわたる観測を可能にする、所定の目標通りの研究船が出来たことは、今後の気候変化と地球環境変化に関する研究を展望しても時機を得ている。原子力船「むつ」を改造して大型海洋観測研究船を造るという制約のもとでの出発であったが、大型の船体という大きなメリットをよく活かしていると思われる。また、搭載されている設備等は、ほぼ所期の目的通り完成し、世界に誇れる観測船である。(略) 研究開発の達成状況としては、一部に不具合がみられるものの、概ね順調に実施され、達成状況は良好といえ、本課題は成功であったと言うことができる。経費については、改造によるコストパフォ−マンスの評価は困難である。今後、運用目的に即して、いかに利用実績をあげるかが重要であり、大いに活用することが必要である。」とされました。

(評価結果)「大型海洋観測研究船「みらい」の活用体制の整備」
 「海洋地球研究船「みらい」の母港としての役割と、「みらい」による研究・観測のうちの主要な任務である海洋観測ブイ(トライトンブイ)の展開のサポートならびに取得した海水の処理などを行うための施設を整備したものと評価される。(略)準自動化(作業の定式化)した海水前処理装置ならびに この運用体制は今までの海洋研究に見られなかったものであり、将来の研究の芽を生むであろうモニタリングのためには是非とも必要なものであり、海洋科学技術センターがこれの運用を開始したことは日本の海洋科学に関して大きな意義を持っている。(略)
 「むつ事務所」の管理・運営には相当の資金と労力を要するので、単に機器整備場・格納庫という消極的な発想ではなく、北の海の研究拠点として発展させるという積極的な視野も必要と思われる。(略)」とされました。
(注)平成9年9月に、大型海洋観測研究船「みらい」から海洋地球研究船「みらい」に改称。
 

 
○「海底設置型生育システムの研究開発」
   (地域共同研究:共同研究機関 山形県)
 (平成7年度〜平成9年度;経費 1億5千百万円)

 山形県の地域共同研究として、山形県の沖合の未利用海域を養殖などの活用を目指し夏でも食べられるカキとして人気が高まりつつあるイワガキを対象としてこの経済的な養殖のための技術について研究開発を行っている課題です。

(評価結果)
 「過大な目標を設定せず、開発の過程においてユーザー(地元の漁業者)の意見を反映しながら、常に手法の見直しを行う堅実さや、最終的には地元の希望する採算性を重視した施設に収斂させ、開発当初のデザインにこだわらずに柔軟に対処してきた点が評価できる。
 しかし、このような施設の存在による周辺海域への生態学的影響、イワガキの生態や生息条件の一層の研究、ならびに、経済性に関する産業的な可能性や総合的なメリットなどについてもさらに検討することが必要である。従って、今後も本課題を継続し、最終年度まで実施すべきである。(略)」とされました。

 
○「沖合海中空間利用拡大技術の研究開発」
   (地域共同研究:共同研究機関 岩手県)
 (平成6年度〜平成10年度:経費 2億5千2百50万円)

 岩手県との地域共同研究として、広大かつ未利用の海中空間を養殖等に利用する目的に、水深100mまでの海域に設置可能な潜降浮上型人工海底を開発したものです。

(評価結果)
 「(略) 内湾型の施設の研究開発によって培ってきた知識と技術の応用、ならびにその成果の啓蒙は意義深い。本課題は、実績のある内湾型施設を沖合外洋型に改良して利用の可能性を拡大しようとの試みであり、経済性の検討を含む研究開発の達成度は高く、また、地元の協力など実施体制も妥当であったと評価できる。
 しかし、新規性や実用化への努力はやや希薄である。ここで得られた知識や技術を地域で活用(応用)するため、それらの継承に努めることが必要である。(略)」とされました。
 
 
  なお、全般的な事項として、技術開発によって得られた成果について積極的に国内外の適切な論文雑誌等に発表すべきであること、また、センターで実施する研究開発等において製作、購入する際には、海外の状況も良く調査して、業務を推進することが必要であるなどのコメンとを頂きました。

 海洋科学技術センタ−では、本研究課題評価における評価結果を、研究計画の見直し、必要な体制や研究環境の整備などに反映していく予定です。
 なお、平成11年度においては、研究課題評価として事前評価ならびに中間・事後評価を行うとともに、機関の運営全般の評価を行う機関評価を実施する予定です。



(問い合わせ先)
海洋科学技術センター 総務部 普及・広報課  他谷  TEL 0468(67)3806
           企画部 研究評価推進室 堀田  TEL 0468(67)5552