お 知 ら せ
平成11年6月28日
海洋科学技術センター
駿河湾での深層水研究のための「深層水分析研究棟」の着工について
海洋科学技術センター(理事長:平野拓也)は、駿河湾の深層水有効利用に資するため、平成10年度から静岡県と共同研究「駿河湾における海洋深層水の科学的解明と多段利用システム(注)に関する研究」を行っています。この一環として、研究拠点となる「深層水分析研究棟」を静岡県水産試験場(焼津市小川汐入3690:別添地図)に着工致します。なお、その起工式は7月3日(土),11時から同水産試験場にて執り行われます。
「深層水分析研究棟」は、8月末に竣工し、9月中旬には最先端の分析機器類を整備した後、10月から海洋科学技術センター、静岡県並びに産学官研究機関の研究拠点として、駿河湾の深層水の理化学的特性、深層水資源の分布・生成特性などの学際的基礎研究に活用されます。当施設は、2階建て鉄骨コンクリート造り、延べ床面積232平方メートルで、微量成分分析室、多量成分分析室、生物検定室、データ解析室などから構成され(資料1)、わが国の深層水資源の実用化研究に大きな役割を果たすことが期待されます。
なお、静岡県では「駿河湾深層水総合利用推進事業」が併行して推進されており、取水立地に恵まれた焼津市沖合の深度350mと700mの深層水を陸上に汲み上げる取水施設の設備(水産庁補助事業)が、平成12年度の完成を目指して立地調査と設計が行われており、本研究棟を拠点とする研究活動の成果が活用されます。
注:多段式利用システムとは:
深層水は、富栄養、低温、清浄などの利用価値の高い資源的特性をもつ。例えば、深
層水の低温特性を冷房に用いても、富栄 養と清浄性が未利用であるので、再利用が可能である。そこで、深層水の資源性を無駄なく利用するためには、第1段
(低温 特性の利用):冷房、農業(地温制御によるイチゴ栽培)など、第2段
(清浄特性の利用):水産魚介類の飼育(タカアシガ ニ、テナガエビ)など、第3段
(富栄養特性の利用):海藻培養、藻場造成などのように多段式に利用するシステムです。
問い合わせ先:海洋科学技術センター
海洋生態・環境研究部 中島、豊田 TEL:
0468-67-5529
普及・広報課 他谷、池川 TEL:
0468-67-3806
深層水分析研究棟の設備の概要
◎1階
・ミーティングルーム(約 16.9 ㎡)
研究者等の会議室として使用。
・データ解析室(約 23.4 ㎡)
海洋観測によって取得した海洋の物理的データ、化学分析結果、生物検定結果等
のデータを整理・解析するための装置を整備する。装置の内訳は、パソコン、ワー
クステーション、およびそれらの周辺機器であり、海洋科学技術センターのネッ
トワークに接続される。
・微量成分分析室( 約 34.5 ㎡ )
海水中の微量金属類を測定するための分析機器類を整備する。分析機器類の内訳
は、金属類の定性・定量分析を行うICP発光分光装置、鉄・銅・マンガン等の定
量分析を行う原子吸光分光装置、および微量の鉄の定量分析を行う鉄分析装置で
ある。
◎2階
・生物検定室( 約 55.9 ㎡ )
深層水の水質特性を生物によって評価するための装置を整備する。装置類の内訳
は、植物プランクトンを主対象にし、その粒径分布を測定するコールターカウン
ター、深層水の生物学的評価を行う静置培養装置・連続培養装置、および観察用
の蛍光顕微鏡である。
・多量成分分析室( 約 34.5 ㎡ )
海水中に多量に含まれる成分を測定するための分析機器類を整備する。分析機器類の内訳は、硝酸塩や燐酸塩等の定量分析を行う 栄養塩分析装置、溶存有機物中の炭素の定量分析を行う溶存有機炭素分析装置、および塩分を高精度で測定する卓上塩分計であ る。
参考資料
海洋深層水利用の現状と今後の展望
深層水は、富栄養、低温、清浄などの優れた資源価値をもつため、生物生産やエネルギー回収の分野への利用研究が行われ、藻類培養、冷水性動物飼育、深海性動物飼育などの水産分野や、冷房、淡水製造、水温制御などの冷熱利用分野での有効性が実証されている。また、地域振興の視点から、製品開発(酒、塩、豆腐など)など、一部実用化の段階に入っており、高知県、富山県、沖縄県など多くの自治体にその利用が波及している。
現在深層水利用技術は、実証段階から実用段階への移行期にあり、今後実用化を達成するためには、深層水資源の科学的な解明、深層水資源の有効利用手法、深層水取・放水などの開発課題が残されている。