平成11年8月10日
海洋科学技術センター
海洋音響トモグラフィーシステムの回収及び総合点検について
海洋科学技術センター(理事長 平野拓也)は、平成10年12月に200Hz送受信システム5基(海洋音響トモグラフィーシステム(注1))を中部熱帯太平洋海域に設置し、平成12年12月までの2年間の計画で観測を開始しました。
しかし、平成11年2月中旬から4月下旬にかけて2号機、3号機、4号機及び5号機の海面ブイ(注2)との通信が途絶しました。この段階ではトランシーバ本体は正常に動作しており、実験を継続することとしました。
ところが、6月23日に1号機のトランシーバ(注3)本体の電子回路部に異常が発生し、送受波を停止しました。1号機の機能停止により2〜5号機の発音の確認も不可能となりました。また、2〜5号機の機能停止も時間の問題と考えられます。
これら原因として、陸上で行った種々の再現試験等の結果から、電源部のリチウム電池(注4)の不具合と考えられますが、不具合原因を究明し、同時にシステムの総合点検を行うため、現在、赤道海域に設置している200Hz送受信システム5基を全て回収します。
日 程 : 平成11年8月12日(木)〜9月16日(木)
行 動 : 8月12日マジュロ出港
5基回収の後、9月3日マジュロ入港
9月16日機材陸揚げ(横須賀)
問い合わせ先: 海洋科学技術センター
海洋観測研究部 中埜
TEL 0468−67−3885
普及・広報課 他谷、 木村
TEL 0468−67−3806
注1*海洋音響トモグラフィーシステム
医用のX線CTと同じ原理で、X線の代わりに音波を使って、海の中で種々な角度から音波を出したり受けたりして、海の中の水温や流れのCT像を写し出そうとするものです。
注2*海面ブイ
データ伝送用のインマルサット送受信機とトモグラフィー内のクロック校正用のGPS受信機を搭載、水中のトランシーバとは長さ約3000mの伝送ケーブルで接続されています。
海面ブイの機能は、
(1)データ送信 :8KB蓄積後、観測データを送信(不定期)
(2)定時送信 :一日一回送信、日本時間0時
(3)アラーム送信:海面ブイが漂流した時、3時間毎に位置情報を送信
(4)受信窓 :毎週水曜日に陸上からのコマンドを受信するために、受信機を起動している 時間。
注3*トランシーバ
海中で音波を送受信するための音源(水中スピーカー)と受波器(水中マイクロホン),電子回路等で構成されるトモグラフィーシステムの中心部。電子回路には、高精度クロック,データ処理・記録器,音源駆動用アンプ等が含まれ、トランシーバ間の音波の正確な伝搬時間が計測されます。また、海面ブイが流失した場合に備えルビジウム原子発振器を内蔵しており、クロックの校正を行う機能を持っています。
注4*リチウム電池(被膜)
リチウム電池の中でも特にエネルギー密度の大きい塩化チオニールリチウム電池を使用していますが、負極のリチウム上に塩化リチウムの被膜を張り易い性質を持っています。
この被膜によりリチウムと塩化チオニールの直接な接触が妨げられるので、リチウムの消耗はなく、自己放電を非常に小さくします。反面、被膜が厚くなると電圧低下を起こしやすいものです。