平成12年6月20日
海洋科学技術センター

 トライトンブイによる西太平洋赤道域の海洋観測結果について
—エル・ニーニョ発生の条件の一つである暖水の蓄積が過去10年で最大規模となっていることを観測—


 海洋科学技術センター(理事長 平野拓也)は、米国海洋大気庁太平洋海洋環境研究所(PMEL:注1)と連携して熱帯太平洋全域においてエル・ニーニョ現象発生メカニズム解明のためモニターを行っています。1998年から、ニュー ギニア近海の赤道域に海洋観測ブ イ(トライトンブイ)を順次展開しており、その測定データから、本年3月以降、過去10年で最大規模の暖水が西太平洋赤道域に蓄積されていることがわかりました(図1)。
 このニューギニア近海の赤道域で今年の冬季から来年の春季にかけてこの暖水を東に押し出す西風が強く吹いた場合、来年の春季以降にはエル・ニーニョの発生が推測されます。今後も、トライトンブイによる観測では、西太平洋での風のデータ、水温のデータに注目して観測活動を行って行きます。
 この結果の一部は、6月27日(火)〜30日(金)に東京代々木国立オリンピック記念青少年総合センターで開かれる米国地球物理学会西太平洋地球物理部会で発表する予定です。
 なお、トライトンブイから得られる水温および気象の毎時デ−タは、世界気象通報(GTS:注2)を通じて世界の気象機関にリアルタイムで配信され、毎日の気象予報に役立てられています。また、トライトンブイのデータはPMELのブイデ−タとトライトンブイデ−タを統合後、センタ−及びPMELからインタ−ネットを通じて公開しています。

問い合わせ先:                  
海洋科学技術センター              
海洋観測研究部 黒田、安藤 0468-67-3472 
普及・広報課  他谷、木村 0468-67-3807 

トライトンホームぺージ

注1:Pacific Marine Environmental Laboratoryの略
注2:Global Telecommunication Systemの略        



海洋観測ブ イ(トライトンブイ)の観測結果概要

1.経緯 
西部熱帯太平洋の暖水プールにおける大気海洋相互作用が、全球の大気に影響して数年スケールで現れるエル・ニーニョ現象を引き起こすことが知られています。この暖水プールの形成過程を、海洋の水温、塩分分布および海面での熱、降水量の時間変化を観測し、エル・ニーニョ現象発生のメカニズム解明の研究をすすめるため、トライトンブイの展開を開始しました。(図2)。
トライトン計画(※1)は、米国の海洋大気庁太平洋海洋環境研究所のタオ計画(TAO/Tropical Atmosphere Ocean 熱帯大気海洋研究)と連携して熱帯太平洋全域のエル・ニーニョのモニターを行っています。1999年2月以降、東経156度以西のタオブイを順次、トライトンブイで置き換えてきました。

※1:トライトン計画は、気候変動の予測を研究の中心に置いているCLIVAR (Climate Variability and Predictability 気候変動と予測に関する研究計画)のエル・ニーニョ観測システムの一部として、その計画の推進に大きな役割を果たしています。また、世界の海で恒常的な海洋観測網を作ろうとしているGOOS (Global Ocean Observing System 世界海洋観測システム)にも貢献するものです。

2.観測結果
(1)暖水蓄積
 表層の温度躍層(※2)を代表する20度等温線は、深ければ暖かい海水が表層に集められていることになり、熱がどれだけ蓄積されているかの一つの指標となっています。(図1
従って本研究では、タオ/トライトン(TAO/TRITON)ブイから得られる赤道沿いの20度等温線深度と、その平年値からの偏差の時系列データ(図3 赤道上の20度等温線の深さ)を抽出し、暖水蓄積の様子を解析しました。その結果、2000年3月から4月に西太平洋では、この20度等温線深度が赤道上で210mと非常に深くなり、ブイのデータが観測されてからの1990年以来、最大規模となっていることが明らかとなりました。

※2:深さが増すと温度が急激に減少する層。

(2)史上最大のエルニーニョの前年との比較
1997年/1998年のエル・ニーニョ現象の前年にあたる1996年3月〜4月での20度等温線の深さは、平年の180mから約10m深くなっていました。しかし、2000年3月〜4月には約30mとさらに深くなっていることも明らかとなりました。 また、赤道をはさんだ南北でも、この20度等温線は深くなっており、前回の1996年の観測データよりも、更に南北の広い海域に暖水が蓄積されてることが観測されました(図4 東経156度線沿いの20度等温線の深さ)。 このように、トライトンブイの時系列データは、1998年5月のエル・ニーニョ終息後、ラ・ニーニャが約2年間継続したことにより、西太平洋には十分熱が蓄えられ、次のエル・ニーニョへ移行する一つの条件が整えられた状態にあることが示唆されました。

3.今後のエルニーニョ発生の推測
 エル・ニーニョ発生条件は、西太平洋に蓄えられた暖水を東に押し出す西風が、この暖水プール域で強く吹くことです。通常、この西風は冬季のモンスーンにともない強まり、夏季には弱まります。
 本年の冬季から来年春季にかけて西太平洋赤道上で西風が強く吹いた場合、2001年の春季以降にはエル・ニーニョの発生が推測されます。
 今後とも、トライトンブイによる西太平洋での風のデータ、水温のデータに注目し、観測を継続することが重要となります。

参考:トライトンブイと米国タオブイ比較
   トライトンブイデータの流れ