掘削孔利用システム「べんけい」について

1.概要
 科学調査で掘られた掘削孔は、深海底の堆積物や岩石を採取した後の残骸ではなく、海底下深部を覗く有用な「窓」としての科学的価値がある。掘削孔利用システム「べんけい」(以下、本システム)は、地球内部の科学研究を目的に掘削孔内へ観測装置を設置し、各種計測を行うものである。
 本システムは、孔内に吊り下ろされるセンサー、そのプラットフォームとなる観測ステーション(以下、ステーション)、ステーションを運搬・設置・回収するビークル、およびこれらを制御・監視する母船システムから構成される。母船は「かいれい」を利用し、1次ケーブル及び着水揚収装置は「かいこう」と共用している。本システムの最大稼動水深は6,000mであり、孔内深度1,000mまでの計測が行える。
 計測は、ステーションを掘削孔海底面にあるリエントリコーンに設置し、センサーを孔内に降ろした後、ステーションとビークル間は細径光ファイバケーブルを用い、船上までのリアルタイム通 信で行う。
本システムの外観を以下に示す。
70.jpg
掘削孔利用システムの外観
2.システムの構成
 本システムは重量級の観測装置(ステーションおよびセンサ)を海底上の正確な位 置に誘導し、スムースに設置および回収することを特徴としている。本システムの主要目と構成を以下に示す。

figure12.jpg


(1)ビークル
 ビークルは、ステーションを結合した状態で母船から吊下され、スラスタによって能動的に位 置を制御しながら、ステーションを海底上のリエントリーコーンに設置する。計測終了後は、再び、ステーションを回収する。
本体は、FRP製の外皮に覆われたフレーム構造で、電子機器を収納した耐圧容器、水平位 置を制御するためのスラスタ、観測ステーションを吊下するためのウインチ、リエントリーコーンへ近接するための前方探査ソーナー、下方に向けたTVカメラ等を装備している。
 吊下するケーブルは、「かいこう」の1次ケーブルで、これにより、電力の供給、母船との通 信を行う。ステーションとの通信は、細径光ファイバケーブルを通して行う。
(2)観測ステーション
 ステーションは、センサーを孔内に吊下して計測を行うためのプラットフォームとなる。センサ吊下用のケーブル(1000m)は、電気・光複合ケーブルで、これを通 して計測データはステーションへ伝送される。また、ステーションからビークルへは細径光ファイバケーブルを、ビークルから母船へは一次ケーブルを通 してデータ伝送される。
 構造は、オープンフレーム構造で、電力は電池でまかなう。尚、必要に応じて、別 途ROV等で電池及びデータ収録装置を接続・交換できるようになっている。
(3)センサ
 センサは、ステーションからウインチにより孔内へ吊下され、孔内の任意深度にて各種計測を行う。現在、センサが装備してる機能は温度、圧力、pH、音響、孔経の計測とTVカメラによる映像記録であり、長期孔内観測機器を設置する前の事前調査として孔内状況を把握することを目的としている。センサおよびステーションは今後の観測目的に応じて整備、開発していく予定である。
 センサの最大水中重量は約300kgである。
(4)母船上装置
 ビークル・ステーションの着揚収装置、一次ケーブル、音響測位装置、操縦盤等は、「かいこう」システムのものを使用する。

3.これからの計画
 本システムは平成10年度より設計に着手し、陸上試験、海上試験を経て、平成13年3月30日、海洋科学技術センターに納入された。平成13年度は本システムの慣熟訓練を行う。今後、高精度な孔内地震観測、地球内部熱構造解明のための熱学的観測、地球規模物質循環解明のための孔内流体サンプリング、生命起源解明のための地下生物圏実験などを目的とした観測システム(ステーション、センサ)を開発していく計画であり、海底および地球内部を対象とした様々な地球科学研究の発展へ大いに貢献していくことが期待されている。