梅雨前線上の豪雨の源となる降水システムの高精度観測

-発生源における降水システムの形成過程を解明するためドップラーレーダーなどを用いた高精度の観測を長江下流域ではじめて実施-

平成14年 2月 6日
海洋科学技術センター

 海洋科学技術センター(理事長 平野拓也)のプロジェクトである地球観測フロンティア研究システム(システム長 堀田宏)水循環観測研究領域の上田博グループリーダ−、耿驃(ゲンビャオ)サブリーダーほかは、日本に豪雨をもたらす梅雨前線上の*降水システム形成過程について、風上側の中国長江下流域において初めて高精度の観測を行った。その結果、低気圧の発生期における降水システムの立体構造とその発達過程を高精度の観測網で捉えることができた。この成果は、日本に影響をおよぼす梅雨前線発生メカニズムの解明に大きく寄与するものである。

*強雨域を含む直径数百kmの雲のかたまり

背景
 日本では梅雨期に洪水や土砂崩れなどをもたらす豪雨がしばしば発生し、その災害を未然に防ぐためには、梅雨前線の発生メカニズムを解明することが必要不可欠である。梅雨期に日本で災害をもたらす降水システムの発生源の多くは、風上側に位置する中国大陸であることが気象衛星を用いた研究により明らかにされてきた(参考資料1)。また、梅雨前線の発生と降水システムの形成過程には、密接な関係があると言われている。しかし、梅雨前線上の降水システムの発生メカニズム解明には、現存する衛星データだけでは不十分であり、降水システム内の雨と風の空間分布を高分解能で観測し、その立体構造を明らかにする必要がある。
 そこで、地球観測フロンティア研究システムでは、これを解明するために日本の風上側にあたる中国長江下流域(参考資料2)において、梅雨前線上の降水システムを狙った高精度観測を世界で初めて行った。この観測の目的は、降水システムの立体的な構造に関して高分解能で雲・降水の内部構造を連続的に観測することによって降水システムの発生過程を明らかにしていくことであり、この観測を実施することによって、雲・降水システムにおけるモデルの改良と検証に貢献するものである。

成果
 中国長江下流域にドップラーレーダーなどを用いた高精度の観測網を初めて設置し(参考資料3)、2001年の梅雨期に日中共同で集中観測を行った。6月19日夕方から20日にかけて、大陸上の梅雨前線帯で急速に発生した低気圧が東に進み(図1)、西日本から東海地方にかけて大雨をもたらした(参考資料4参考資料5)。中国長江下流域の集中観測では、この低気圧の発生期における降水システムの立体構造とその発達過程を高精度の観測網で捉えることができた(図2参考資料6参考資料7)。この観測によって得られたデータは、梅雨前線とそれに伴う降水システムを再現する気候変動予測モデルの精度向上に極めて貴重な基礎データとなる(図3)。これらの観測によって豪雨の発生源を解明し、事前に豪雨の発生を予測できれば、日本の防災に大いに役立てることができる。地球観測フロンティア研究システムでは、2002年も引き続き観測を行う予定である。

問い合わせ先:
地球観測フロンティア研究システム
推進課 担当:笹岡 Tel:045-778-5741
HP:http://www.jamstec.go.jp/forsgc/

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普及・広報課 Tel:0468-67-9066