横 須 賀 宣 言
- 21世紀の海洋科学 -



 海洋科学技術センターの創立30周年を記念して横須賀に集った、我々世界の主要な14の海洋研究機関の代表は、以下の認識を共有した。


 20世紀は地球についての理解がめざましく進展した。人類は初めて宇宙に浮かぶ地球を眺め、光に依存しない深海の生態系を発見した。また、深海底においてプレートがダイナミックに生成し,移動し、消滅していることを知った。そして、気圏、水圏、地圏、生物圏それぞれが相互に関連しあって地球という一つのシステムを形成し、その中で人類が生存していることを理解するようになった。しかしながら、海洋の大部分はいまだに未知であり、探求されていない。


 加えて、我々は今日、気候温暖化及び海洋資源、特に生物資源の涸渇など、地球規模の深刻な環境問題に直面している。こうした問題を緩和し、人類社会の持続的発展を実現するため適切な対策を講じなければならない。地球表面の71パーセントを占める海洋は、地球環境のバランスを維持する決定的な役割を果たしている。


 未知のフロンティアであるこの海洋をもっと深く理解し、地球規模の環境変動の予測を可能にするため、我々は今後、以下の方針で21世紀の海洋科学を推進していくことが重要であると考える。


地球システムの理解と予測に貢献し、また賢明な意思決定の前提を提供するため、海洋科学の研究を通じて地球とその生態系を探求する。
深海、極域、南半球域など解明の進んでいない領域の調査観測システムを充実する。
データの自由な交換とアクセスを伴った全球観測ネットワークと、全球データ・情報ネットワークの構築を目指す。
より有効な観測とより良い予測のために、新たな観測技術と数値モデルを開発する。
多分野な研究を通して科学的問題を社会的利益に結びつけることによって、海洋とその資源の重要性について一般社会や政策決定者の認識を高める
海洋研究における科学的、工学的及び社会的な視点を十分認識した新たな世代の海洋研究者を養成する。


 広大な海洋のポテンシャルを研究対象とする、世界の主要な海洋研究機関を代表して、ここに我々は、研究資源の確保とそれによる貢献に協調して努力するとともに、地球環境問題の解明に向けて相互の協力を強化していくことを、宣言する。

 

 

署名日:2002年9月18日
署名者:


イアン ポイナー博士
連邦科学産業研究機構
海洋研究所 副所長
(CSIRO Marine Research, オーストラリア) 

ローラ リチャーズ博士
海洋漁業省太平洋領域科学局長
兼海洋科学研究所 所長
(IOS/DFO, カナダ)

 

李 家彪教授
国家海洋局第二海洋研究所 副所長
(SIO / SOA, 中国) 
ジャン・フランソワ マンステール教授
国立海洋開発研究所 所長
(IFREMER, フランス)

 

ヨルン ティーデ教授
アルフレッド・ヴェゲナー極域海洋研究所 所長 
(AWI, ドイツ)

 

平 啓介教授
東京大学海洋研究所 前所長
(ORI, 日本)

 

卞 相慶博士
韓国海洋研究所 所長
(KORDI, 韓国)

 

ハワード S.J. ロー教授
サザンプトン大学
サザンプトン海洋研究所 所長
(SOC, 英国)

 

G. マイケル パーディー博士
コロンビア大学
ラモント・ドハティー地球観測研究所 所長
(LDEO, 米国)

 

マルシア マクナット博士
モントレー湾水族館研究所 所長
(MBARI, 米国)

 

エディー N. ベルナール博士
海洋大気庁太平洋海洋環境研究所 所長
(PMEL, 米国)

 

チャールズ F. ケネル博士
カリフォルニア大学
スクリプス海洋研究所 所長
(SIO / UCSD, 米国)

 

ロバート B. ガゴシアン博士
ウッズホール海洋研究所 所長
(WHOI, 米国)

 

平野 拓也
海洋科学技術センター 理事長
(JAMSTEC, 日本)