平成14年9月5日
海洋科学技術センター



火山帯の起源となるマントル内の指状の高温領域の存在について
−火山帯成因「熱い指」−



1.成果の概要
  海洋科学技術センター(理事長 平野拓也)の固体地球統合フロンティア研究システム(IFREE、久城育夫システム長)地球内部物質循環研究領域の田村芳彦グループリーダーらは、日本周辺のようなプレート沈み込み帯において、深さ50〜150 kmにあるマントル内の高温領域が、より深部から地表に向かって指状(クシの歯状)に侵入しており、それが沈み込み帯における火山および火山帯の形成の原因となっていることを見いだした(図1)。
  侵入する熱いマントルは、熱源となってマグマを発生させ、地表に火山をつくる。これまでシート状に均質に広がって侵入していると考えられていた高温部分が、実は不連続な指状になっていることが明らかとなったことで、今後、マントル対流の計算モデルも従来のような2次元ではなく3次元モデルへと改良を迫られる。
  この成果は、日米合同で開催される伊豆小笠原マリアナ島弧ワークショップ(MARGINS Workshop on the Izu-Bonin-Mariana Subduction System)(9月8日〜12日、ハワイ)で発表される。


2.経緯
  冷たいプレートがマントル内へ潜り込む「プレート沈み込み帯」で、なぜ熱いマグマが発生して火山ができるのかは、これまで地球科学の最大の謎の一つであった。これは、火山噴火のメカニズムのみならず、地球進化における大きな謎となっている「大陸地殻」の成因にも関わるものである。
  その解明のために、火山岩の化学分析、高温高圧実験、地震波などを用いた深部構造探査などさまざまな手法を用いた研究が行われてきた。


3.今回の成果の主要点
  今回の成果は、
(1) 東北日本の火山帯に沿って火山の集中域と空白域が交互に出現すること (図2
(2) これらが地形のうねりにも対応していること(図3
(3) 地震波によるマントルトモグラフィーで得られる地球内部の熱分布とも対応していること(図4
の3点から明らかとなったもの。
  地表における火山の分布や地形と、地下におけるマントルの地震波構造とを結び付け、特に、従来見落とされていた火山の空白域の存在に着目することによって新しいモデルを提示した。このモデルは、従来別々に議論されてきた岩石学・地震学・火山学の観測事実を有機的に結び付け、より包括的な解釈を与えるものである。


4.研究の意義と今後の取り組み
  今回の研究は、同じ火山帯になぜ火山の集中するところと空白域があるのかという素朴な疑問を発端として始まり、それがマントル対流の新しいモデルの提唱へとつながった。地球の内部も3次元で議論される新しいステージに進みつつあり、今後「熱い指」モデルを基として大陸地殻の形成を解明していきたい。



        (用語)
島弧:プレート沈み込み帯に伴って形成される島の列のこと。火山帯を伴う。日本列島、アリューシャン列島、琉球列島など。
マントル:地表を覆う地殻(厚さ数十km〜数km)の下に存在し、固体でありながら流動する性質を持つ部分。カンラン岩と呼ばれる岩石が主成分と推定されている。
マグマ:マントルや地殻などが融解したもの。マントルの高温部分が侵入して溶融する場合や、水の侵入による融点の低下によって融解する場合がある。
マントルトモグラフィー:地球内部を地震波が伝搬する際、温度等の違いで伝播速度が異なるために、屈折して伝わる。この性質を利用し、自然に発生する地震波を各地に展開した地震計で受信し、コンピュータで処理することによって、地球深部までの温度分布などを画像として描く手法。




本件に関する問い合わせ先
  海洋科学技術センター
    固体地球統合フロンティア研究システム:田村
      電話:0468-67-9761
      FAX:0468-67-9625
    総務部 普及・広報課:鷲尾、野澤
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