平成17年2月17日
海洋研究開発機構
相模湾海底において、海底地殻変動や津波に伴う諸現象観測のための
海底観測所構築に成功、リアルタイム長期連続試験を開始

(概要)
  独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏)は、海底の地殻変動や環境変動を長期間にわたり観測するため、北海道釧路・十勝沖や高知県室戸岬沖にケーブル式「海底地震総合観測システム」を設置しているとともに、相模湾初島沖にも「深海底総合観測ステーション」を設置し地震等のリアルタイム観測を行っている。今回、京都大学・東海大学・東北大学と共同で海底微圧計など3種類の海底観測装置を新たに開発し、これらを相模湾初島沖の「深海底総合観測ステーション」へ水中接続した。これによって海底地殻変動や津波に伴う諸現象を観測する海底観測所の構築に成功し、長期間のリアルタイム試験観測を平成17年2月より開始した。このように複数の測器を海底ケーブルに設置し、リアルタイム観測の能力を大幅に拡充する技術は世界でも例を見ない。海洋研究開発機構および各共同研究機関は、今回の海底実験によって培われた海洋技術および海底観測データを、リアルタイムでの防災システム構築に役立てていく。

(経緯)
 地震・津波の発生には地殻変動や地殻内流体の関与していることが知られている。地震・津波に伴う海底水圧の微弱な変動を観測すると同時に、地殻変動や地殻内流体変動に敏感な海底の重力変動・電磁場変動を長期に渡って連続観測することは、地震・津波等の原因となる地球内部変動現象解明に有効な手段と考えられている(資料1)。従来、このような観測は電源や記録装置を内蔵した自己浮上式の観測機器を海底に設置して行っていたが、データが得られるのは観測機器の回収後であり、また電池の性能の限界等のため連続観測期間は一年程度であるため、連続した観測データを得るには観測船で現地海域に毎年行き新たな観測機器への交換作業が必要であった。しかも複数の自己浮上式装置を同一地点に設置することは不可能であった。しかし、電力伝送と通信機能を併せ持つ海底ケーブルに観測機器を接続すれば、同一の地点で数年以上の長期に渡って連続的な観測を行うことができるとともに、データをリアルタイムで得ることが可能となり、急激な海底の変動を即座に知ることができるようになる。
 海洋科学技術センター(現独立行政法人海洋研究開発機構)は、1993年に地殻変動活動の盛んな相模湾初島沖水深約1,200mの海底に深海底総合観測ステーションを設置し、地震・水温・水圧・流向流速を調査するとともに、テレビカメラによる深海生物の調査を行ってきた(資料1,2,3)。2000年に更新された新ステーションはこれらの観測機器に加えて、水中で着脱可能な拡張用接続コネクターが新たに設けられており、新しい観測機器を追加接続し、より多目的な観測が行えるようになっている。

(実施内容)
  平成17年1月9日から14日にかけて、海洋調査船「なつしま」と無人探査機「ハイパードルフィン」を用いて、深海底総合観測ステーション(資料3)に海底微圧計(資料4)・海底重力計(資料5)・海底電位差磁力計(資料6)を海底で接続した。これらの装置は海洋研究開発機構・京都大学・東海大学・東北大学の共同研究により新たに開発されたものである。その後、観測機器の調整等を行なった結果、良質なデータが取得されていることを確認し、2月10日より長期連続観測を開始した。今回の接続試験の成功により、海底微圧計・海底重力計・海底電位差磁力計による長期観測の基礎が築かれた。
  今回の海底実験では、近い将来、海底ケーブルに多様な観測装置を接続するために必要となる、インターネット上での通信方式(インターネットプロトコル:IP)に準拠したセンサーインターフェイスの実用試験も実施した。科学観測用海底ケーブルには今後様々な観測機器が接続され、地震や津波に対する研究および防災・海洋生物研究・海底資源調査・海洋環境研究など多くの分野で利用される。多種多様な観測機器を接続するためには、統一されたセンサーインターフェイスが必要となる。海洋研究開発機構ではインターネットで通常使用されている通信方式(IP)をセンサー間の通信に採用し、地球上のどこからでも海底のセンサーに直接アクセスすることができる海底通信システムの構築を目指している。今回の実験では、LINUXオペレーティングシステムを搭載し、様々なタイプのセンサーのイーサネット接続を可能とする基幹装置(Linux Boxと呼ぶ:資料4)を新たに開発し、深海底総合観測ステーションの先に新たに構築したLANへの接続に成功した。今回の実験では、センサーとして海底微圧計(資料4)をLinux Boxに取り付けて長期試験観測を開始した。

(期待される成果)
  今回相模湾の海底で実施されたように、多数の海底観測装置を半径10m程度の地域(資料7)に展開し、すべての観測データを海底ケーブルによりリアルタイムで取得できるシステム(海底観測所)は世界にも他に例を見ず、日本の海底観測技術の高さを示すものである。
  海洋研究開発機構では、今回開発した技術と観測データを元にして、今後観測用海底ケーブルネットワークシステムの研究開発を推進する。このようなケーブルネットワークシステムは、地震発生過程の研究・解明に役立つとともに、海底下のプレート境界で発生する巨大地震・津波に対して陸上への到達前の精密な検知など、リアルタイムでの防災システム構築に大いに貢献する。今回試験観測を開始したリアルタイム海底データについては、今後インターネット等を通じて一般に公開する予定である。

本件に関する問い合わせ先
 独立行政法人海洋研究開発機構
  海洋工学センター海洋技術研究開発プログラム
  グループリーダー:浅川
  電話:046-867-9311
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 総務部 普及・広報課:高橋 五町
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