研 究 の 概 要

1.テーマ
 ポーキュパイン海盆における炭酸塩マウンドの形成過程の解明

2.概要
 北大西洋海域の水深数100mの海域には、これまで、主に深海サンゴにより作られた多数のマウンド(海底面の丘)が発見されてきた。中でも、アイルランド西方のポーキュパイン海盆に発達する炭酸塩マウンド群は、直径1km、高さ200mに達し、多様な生物群集により構成され、「深海のサンゴ礁」という新たな科学的研究対象として近年注目を浴びている。また、このマウンド周辺の海水中には、通常より多い溶存メタン量が確認されていることから、メタンを含んだ地下からの湧水が、深海サンゴの成長を促しマウンド発達の主要因となっていると考えられている。
 本研究航海では、過去300万年間で発達した高さ200mのこのマウンドを掘削し、堆積物・孔隙水・微生物試料を連続的に採集する。その後、これらの資料を地質学的・古海洋学的・地球物理的・古生物学的・微生物学的な視点から分析することによって、マウンド形成のメカニズム解明を目指す。また、深海サンゴは高解像度の古気候記録媒体としても有力であり、安定同位体比や微量元素の分析により、過去300万年間において、月〜週単位の解像度で中深層水の温度や塩分濃度の変化が得られる可能性がある。
 これらの研究を行うことにより、ポーキュパイン海盆の炭酸塩マウンドを中心とした海域における物質循環のしくみや過去300万年間の気候変動の理解に貢献することが期待される。

深海サンゴ: 水深40〜3,000mに生息し、光が届かないためにプランクトンを栄養源としているサンゴのこと。