概要
独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤 康宏)地球内部変動研究センター(IFREE、センター長 深尾 良夫)、国立大学法人東京工業大学(学長 相澤 益男)および財団法人高輝度光科学研究センター(理事長 吉良 爽)と共同で、超高圧高温状態で存在する巨大ガス惑星内部の物理化学現象を探る研究を進めてきた。
今回、世界で初めて、ガス惑星内部に相当する300万気圧における高温実験に成功し、太陽系すべての惑星を構成するもっとも代表的な物質である、二酸化ケイ素(シリカ)を用いた実験を行い、270万気圧以上の環境で、パイライト型1)と呼ばれる新鉱物を発見した。この新鉱物は、天王星・海王星の核を構成する主要物質と考えられる。
なお、この研究成果については、8月5日(日本時間)に発行されるサイエンス誌に掲載される。
目的と背景
地球をはじめとする惑星の内部は中心に近くなるにつれ、圧力が上がっていく高圧の世界である。特に木星以遠の惑星は表面に厚いガスを纏っており、ガスの内側にある核はきわめて高い圧力下にある。そのような超高圧の環境を実験室で再現することはこれまで技術的に困難であり、巨大ガス惑星の内部の物性は理論的考察に頼らざるを得なかった。
そこで研究グループは、レーザー加熱式ダイヤモンドアンビル装置2)(資料1)を用いた超高圧高温の発生に関する技術開発に取り組み、これまで220万気圧以下でのみ実現されていた実験を、ごく最近になって、ついに300万気圧・2000度までの環境で実現した。そして、この技術開発の成果を利用して、超高圧高温状態で存在する巨大ガス惑星内部の物理化学現象を探るため、超高圧高温下におけるシリカの相転移3)を調べる実験を行った。
成果
研究グループは、大型放射光施設(SPring-8)の強力X線を用いたX線回折法4)によってシリカの相転移の解明を進めた結果、270万気圧以上の圧力で、パイライト型と呼ばれる新鉱物を発見した。この新鉱物の安定圧の範囲は、ガス惑星深部に相当する。
特に、天王星・海王星の核はこのパイライト型のシリカから構成されている可能性が高い。(資料2)
シリカ鉱物は常温常圧では石英(水晶)として知られており、水晶は六角柱状の結晶である。一方、パイライトはサイコロ状の鉱物である。
今回の結果は、六角柱状の水晶に高い圧力、高い温度をかけていくと、サイコロ状の鉱物に変化することを示している(資料3)。
【用語解説】
1 ) パイライト型
FeS2(パイライト)のとる結晶構造と同型の構造。パイライトは金色のサイコロの形をした鉱物として知られている。
2 ) レーザー加熱式ダイヤモンドアンビル高圧発生装置
ブリリアントカットされた宝石用の2つのダイヤモンドの先端同士を向き合わせて、その間に実験試料を挟んで加圧し、レーザー光を用いて加熱する(資料4)。200万気圧以上の超高圧下の発生領域は、50ミクロンが限度である。(資料5)。
3 ) 相転移
ある物質のある決まった物性をもつ「相」が温度圧力の変化に伴って、同一組成を保ったまま別の構造に変化すること。具体的な相転移の例としては、黒鉛がダイヤモンドに変化することなどがある。
4 ) X線回折法
鉱物、その他の結晶にX線を当て、散乱や回折の強度分布を測定することにより、結晶構造・物性などを調べるための手法。兵庫県播磨科学公園都市にある大型放射光施設(SPring-8)は、世界最高輝度のX線を発生させることができる。これは従来のX線発生装置から得られる光の明るさに比べおよそ1億倍も明るく、レーザー加熱式ダイアモンドアンビルセルに挟まれた極微量の試料からも回折X線を測定することができ、その物質変化をつきとめることができる。
問い合わせ先
独立行政法人海洋研究開発機構
地球内部変動研究センター研究員:廣瀬 敬
(国立大学法人東京工業大学兼務) |
経営企画室 報道室長:大嶋 真司 |
国立大学法人東京工業大学
評価・広報課 広報・社会連携係:保坂 義則
電話:03-5734-2975
FAX:03-5734-3661 |
財団法人高輝度光科学研究センター
放射光研究所 利用促進部門I主幹研究員:大石 泰生
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