プレスリリース


2007年07月18日
独立行政法人海洋研究開発機構

地球深部探査船「ちきゅう」による海外試験掘削作業の終了と
今後の予定について

海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏)の地球深部探査船「ちきゅう」(写真-1)は、大深度科学掘削技術の蓄積等を目的として、昨年11月よりケニア沖および豪州北西大陸棚(図-1)において実施した海外試験掘削作業(写真−2)を7月17日に終了しました。

海外試験掘削では、掘削深度2,000mを越えるライザー掘削※1作業(3ヶ所)および孔井上部掘削作業(6ヶ所)を実施しました。

なお、この期間中にライザーパイプを保持するライザーテンショナー※2(写真−3)の一部を損傷しましたが、海外試験掘削の所期の目的は達成し、8月下旬に日本に帰港する予定です。

1.海外試験掘削の内容

ケニア沖で1カ所、豪州北西大陸棚周辺において2カ所、計3カ所のライザー掘削を実施しました。水深、掘削深度は以下の通りです。

(1)
ケニア沖
水深約2,200m、海底下約2,700m、強潮流下でのライザー掘削。
(2)
豪州北西大陸棚
1.水深約500m、海底下約3,700mのライザー掘削
2.水深約1,000m、海底下約2,200mのライザー掘削

また、以下6ヶ所における孔井上部掘削作業(ケーシング及び孔口装置を設置)を実施しました。

3.水深約1,340m、海底下約1,200m
4.水深約1,440m、海底下約1,860m
5.水深約1,400m、海底下約560m
6.水深約830m、海底下約700m
7.水深約470m、海底下約3,200m
8.水深約640m、海底下約1,000m

2.海外試験掘削による成果

(1)
水深2,200mにおける噴出防止装置(BOP)設置・作動確認とライザー掘削技術の蓄積
(2)
平均2.5ノット(約4.6km/h)の強潮流環境下でのライザー掘削実施及び定点保持性能の確認
(3)
大深度掘削に必要な掘削方向制御(傾斜掘削)の実施
(4)
砂岩、泥岩、石灰岩互層を含む複雑な地層における掘削等の実施
(5)
乗組員の技術習熟・練度向上及び機器のチューンナップによる稼働率の向上

3.ライザーテンショナーの一部損傷について

(1)
5月19日、豪州北西大陸棚における掘削作業中に、6本あるライザーテンショナー(写真-3)のうちの1本のシリンダーロッド下部の表面コーティングに小規模な剥離が発見された。5月22日に当該シリンダーロッドのコーティングの剥離が進行し、さらに他のライザーテンショナーシリンダーロッドのうち2本にも同様の剥離やコーティング表面に異常が発現したため作業を中断。(写真-4
(2)
その後はライザーテンショナーを使用しない掘削作業(孔井上部掘削と孔口加工)を実施。
(3)
損傷したライザーテンショナーは、日本への回航途中(シンガポール)に船上から積下し、メーカー(ノルウェー)に輸送。その後、原因を究明した上で修復する予定。
(4)
また、原因究明と修復法については、専門家を含めた検討対応チームにおいて、検討中。

なお、本年度予定している統合国際深海掘削計画(IODP)※3「南海掘削」※4は、ライザーテンショナーを用いる掘削はありません。

4.今後の予定

7月25日頃 シンガポール入港
乗組員の交代、ライザーテンショナーの積下し作業等
8月中旬 シンガポールを出発
8月下旬 日本へ帰国、造船所(東京湾内)に着岸
資機材の積込み、積下し、改良廃泥水処理装置の組み込み、年次検査工事等を実施
9月中旬 和歌山県新宮港に寄港
9月21日(予定) 新宮港を出港し、統合国際深海掘削計画(IODP)の「ちきゅう」としての最初の研究航海である「南海掘削」を開始

なお、「南海掘削」の詳細な計画・予定等については、「ちきゅう」の帰国前後にあらためてご報告いたします。

※1ライザー掘削

掘削船から海底まで降ろしたパイプ(ライザーパイプ)の中をドリルパイプが通る二重管構造での掘削方法。ライザーパイプとBOPを用いて、海上での泥水循環掘削(泥水で孔壁を保護しつつ行う掘削)を行うことで、従来の掘削方法に比べ、大深度の掘削が可能となる。

※2ライザーテンショナー

海底に固定されたライザーパイプ及び噴出防止装置(BOP)に対して、船体に固定された掘削装置の波浪等による動揺を吸収するとともにライザーパイプの重量を支えるための装置。「ちきゅう」のライザーテンショナーは、シリンダーロッド(約16m)が伸びた状態で全長約34m、重量は、1本で約31トン(シリンダーロッド部のみでは約7トン)。

※3統合国際深海掘削計画(IODP)

IODPは、海洋科学掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動の解明、地震発生メカニズムの解明及び地殻内生命探求等を目的として開始された多国間国際協力プロジェクトであり、2003年10月より日米主導で開始された。現在の加盟国は、21カ国。

※4南海掘削

「南海トラフ地震発生帯掘削計画」の略称。 地球深部探査船「ちきゅう」が、統合国際深海掘削計画(IODP)として最初に実施するプロジェクト。
東南海地震などの巨大地震の震源域である紀伊半島沖(熊野灘)南海トラフにおいて、本年9月より科学掘削を行い、試料回収(コアリング)と長期孔内計測により、地震発生のメカニズムを明らかにする。

お問い合わせ先:

(「ちきゅう」、掘削試験について)
地球深部探査センター 企画調整室長 田中 武男 TEL:045-778-5640
(報道について)
経営企画室 報道室長 大嶋 真司 TEL:046-867-9193