プレスリリース


プレスリリース

2007年11月02日
独立行政法人海洋研究開発機構

地球深部探査船「ちきゅう」による南海トラフ地震発生帯掘削計画(速報)
〜研究掘削の再開について〜

海洋研究開発機構(理事長 加藤 康宏)の地球深部探査船「ちきゅう」は、統合国際深海掘削計画(IODP)※1による最初の研究航海となる「南海トラフ地震発生帯掘削計画」を実施しております。紀伊半島沖(新宮市南東沖約80km)の熊野灘の掘削海域で10月21日(日)の掘削作業中にドリルパイプ下部が脱落し、その回収作業等のため研究掘削を中断しておりましたが(平成19年10月22日既報)、10月29日(月)に回収を断念し(平成19年10月29日既報)、10月30日(火)にドリルパイプ下部が脱落した掘削孔のセメント等による埋設作業を完了するとともに、パイプ脱落の原因及び対策を検討いたしました。これを受け、11月2日(金)午後6時(予定)より掘削同時検層(LWD) ※2掘削による研究掘削を再開することと致しましたのでお知らせします。

1.掘削同時検層(LWD)掘削の再開予定日時

平成19年11月2日(金)午後6時

2.掘削の再開場所

紀伊半島沖熊野灘掘削サイトNT2-01(図-1
 (北緯33度13.2分、136度43.3分、水深2,524m)

3.原因及び対策

今回のドリルパイプ下部脱落によるトラブルを踏まえ、当機構は掘削作業の安全性を検討するための委員会である「削井(さくせい)作業検討委員会」(委員長:森田 信男 早稲田大学教授)を設置し、パイプ脱落の原因と今後の対策について検討いただきました。

その検討結果を受け、当機構としては今回のトラブルの発生原因について現時点の評価として、パイプの先端部が断層帯に達した際に、掘削孔壁が崩れ、その土砂により締め付けられたため過剰なトルクが発生し、そのねじ戻りによりパイプ接続部が脱落したものと判断しました。

本計画における掘削サイトは、断層等により地下構造が複雑であり、さらに黒潮の強潮流(時に4ノット以上)の影響により掘削装置が常に振動を受ける条件下にあることも踏まえ、今後の対策として、

  • 掘削機器類の点検・保守を改めて徹底すること
  • パイプには過剰トルクをかけず丁寧かつ慎重な操作を行うこと
  • パイプが孔内に抑留された場合にはトルクの急激な上昇を抑え、孔内状況の改善を試みること
等の提言を委員会から受けました。

当機構では、上記の提言を掘削作業等に反映させるとともに、本計画における今後の掘削同時検層(LWD)掘削に際しては、まず、その掘削地点近傍において事前調査孔(パイロット孔)を掘削し、これにより安全に実施できることを確認した上で掘削同時検層(LWD)掘削を実施することとします。

4.今後の予定

NT2-01地点の南東側約1,300m(水深2,524m)において、巨大分岐断層の先端部分の掘削を目標に、上記対策方針に従いパイロット孔を掘削し、掘削の安全性を評価した上で、11月2日(金)午後6時(予定)より掘削同時検層(LWD)を再開することと致しました。なお、放射性同位元素による測定につきましては、本研究航海では実施しないこととします。

今後、本サイトでの掘削・解析状況と残日数などにより研究掘削地点を選定しつつ、第1次研究航海を当初予定した11月16日まで継続します。

<参考:これまでの掘削状況>

「ちきゅう」は、平成19年9月21日に新宮港を出港しました。これまで、9月28日NT2-03パイロット孔(掘削深度1,000m)、10月7日NT2-03LWD孔(掘削深度:976m)、10月18日NT3-01LWD孔(掘削深度:1,401.5m)を終了し、10月20日NT2-01LWD孔(掘削予定深度:1,000m)を開始、10月21日掘削作業中にドリルパイプ下部脱落、脱落部分の回収作業を実施しましたが、10月29日回収を断念しました。


※1:統合国際深海掘削計画(IODP: Integrated Ocean Drilling Program)

日・米を主導国とし、平成15年(2003年)10月から始動した多国間国際協力プロジェクト。現在、欧、中、韓の21ヶ国が参加。日本が建造・運航する地球深部探査船「ちきゅう」と、米国が運航する掘削船を主力掘削船とし、欧州が提供する特定任務掘削船を加えた複数の掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした研究を行います。

※2 掘削同時検層(LWD: Logging While Drilling)

ドリルパイプの先端近くに各種の物理計測センサーを搭載し、掘削作業と同時に現場での地層物性の計測を行う技術です。地質試料の採取はできませんが、掘削箇所の地層状況を“現場”で連続測定することにより、比較的短期間に地質情報を得ることができます。これらにより、科学情報と共にその後の試料採取掘削等に有用な掘削孔の安全監視及びリスク回避等の情報が得られるため、南海トラフのような複雑な地質構造での掘削には非常に有効です。今回、取得予定のデータは、地層密度、空隙率、音波速度、自然ガンマ線、比抵抗、流体圧等です。

図-1 掘削海域図

お問い合わせ先

(「ちきゅう」及び掘削計画について)
地球深部探査センター
企画調整室長 田中 武男 TEL:045-778-5640
(報道について)
経営企画室
報道室長 大嶋 真司 TEL:046-867-9193