2007年12月18日
独立行政法人海洋研究開発機構
海洋研究開発機構(理事長 加藤 康宏)は、大深度小型無人探査機(「ABISMO」:Automatic Bottom Inspection and Sampling Mobile)の開発を進めておりますが、このたび伊豆・小笠原海溝最深部である水深約9,760mの海域における試験潜航で潜航深度9,707mを達成しました。日本において1万m級の探査能力を持つ無人探査機を開発したのは当機構の無人探査機「かいこう」(※1、平成15年5月にビークル部分が漂流、平成11年7月に10,900mまで潜航)以来で、現時点では世界で最も深くまで潜航できる探査機となります。
当機構では、新規有用生物の発見が期待される世界最深部の生命圏の理解、これまで困難であった世界最深部における海底地殻変動の把握等をめざし、水深11,000mの大深度下で調査観測等が可能な海底探査機の開発、高機能化を図ることを目的に大深度小型無人探査機「ABISMO」(写真1〜3、仕様は別紙参照)の開発を進めており、これまで、陸上・浅深度での試験を実施してきました。
「ABISMO」は「かいこう」と同様にランチャー部とビークル部から構成され、着揚収システムならびに一次ケーブル等は、既存の「かいこう」のシステムを使用しておりますが、ランチャー部とビークル部は新規に開発・建造を行いました。
ランチャーは、海面と海底間を潜降・浮上する間、ビークルと採泥器を内部に収納し、海底近傍で、ビークルを離脱し調査を行います。また、ランチャーは「かいれい」船上の装置とビークルの間の中継器としての機能も有しています。ビークルは、全長160mの二次ケーブルでランチャーと繋がれており、将来的にはこのケーブルの長さの範囲で、搭載されたTVカメラによって海底面の調査等を行うことも想定されます。
また、「ABISMO」は、大深度での海底の堆積物をコア状に採泥(1m程度)ができることが特徴であり、従来「かいこう」で行ってきた海底表面付近の採泥に比べ、極限環境下での新たな微生物等の発見が期待されています。
今回、「ABISMO」の大深度での潜航を確認するため、伊豆・小笠原海溝最深部である水深約9,760mの海域における試験潜航を実施しました。
期日: | 平成19年12月4日〜12月10日 |
場所: | 伊豆・小笠原海溝(北緯29度09分、東経142度49分、図1) |
試験内容: | 潜航試験、着・揚収試験、海底堆積物サンプリング試験 |
試験結果: |
今後も「ABISMO」の改良を進め、平成20年度には、世界最深部であるマリアナ海溝チャレンジャー海淵(水深約11,000m)における潜航試験を実施する予定です。
また、当機構で国家基幹技術「次世代深海探査技術」として研究開発を進めている大水深における観測機器設置などの精密、重作業を目的とした無人探査機の要素技術の実海域試験にも「ABISMO」を活用する予定です。
図1 試験海域
図2 「ABISMO」システム構成図
写真1 「ABISMO」外観
写真2 「ABISMO」の母船「かいれい」への揚収風景
写真3 伊豆小笠原海溝水深9,760mで採取された海底堆積物
1) ビークル
(1)型式: | オープンフレーム構造 |
(2)寸法: | 長さ約 1.3 m × 幅約0.9 m × 高さ約1.1 m |
(3)重量: | 空中重量概略300 kg,水中100 kg |
(4)推進器: | スラスタ(前後横方向400 W:2基、上下方向400 W:2基) クローラ(前後方向400 W:2基) |
(5)映像装置: | NTSC方式カラー×1 ch |
2) ランチャー
(1)型式: | オープンフレーム構造 |
(2)寸法: | 長さ約2.7 m×幅約2.2 m×高さ約2.8 m |
(3)重量: | 水中重量約2000kg |
(4)推進器: | スラスタ(前後方向1kW:2基) |
(5)作業装置: | グラビティコアサンプラー×1基 |
(6)映像装置: | NTSC方式カラー×2 ch 将来的にHDTV方式カラー×1ch搭載可能 |