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2009年04月20日
独立行政法人海洋研究開発機構
独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏)の運用する地球深部探査船「ちきゅう」は、平成21年2月15日に神戸港を出港し、修復したアジマススラスター(船位保持のための360°回転可能な推進機)の機能確認試験を完了し、引き続き駿河湾及び熊野灘において掘削訓練を実施中です。
掘削訓練終了後、5月初旬に和歌山県新宮市新宮港に寄港し、資機材の積み込み等を行った後、5月10日頃新宮港を出港し、IODP(※1統合国際深海掘削計画)として「南海トラフ地震発生帯掘削計画」(※2)を紀伊半島沖熊野灘(図1)において再開する予定です。本年度の実施計画について、以下にお知らせします。
駿河湾における掘削訓練 | 5月4日頃まで | |
新宮港入港 資機材積込み等 |
5月6日頃 | |
新宮港出港 | 5月10日頃 | |
第1次研究航海(IODP Expedition 319-1) | 5月中旬〜7月末頃 | |
第2次研究航海(IODP Expedition 319-2) | 8月初旬〜8月末頃 | |
第3次研究航海(IODP Expedition 322) | 9月初旬〜10月初旬 |
本年度の実施計画では、ステージ2として巨大地震発生帯の直上を深部まで掘削し、地質構造や状態を明らかにすることを目的としています。掘削した孔内には後年に観測システムを設置し、地震準備過程をモニタリングします。また、プレートとともに地震発生帯に沈み込む前の海底堆積物の組成、構造、物理的状態を調査します。
各研究航海の内容については、以下のとおりです。
(1) 第1次研究航海(IODP Expedition 319-1 (NT2-11地点(図1、図2)、水深:2,061m、最大掘削予定深度:約1,600m))
巨大地震発生帯直上域のライザー掘削(※3)及び物理検層(※4)により、熊野海盆の岩石層序、構造、物理特性のデータを得ると共に岩石試料を採取します。この掘削孔は、今後設置予定の長期孔内計測のための孔として活用します。また今回の行動において、物理検層の一環としてこの掘削孔の中に約20台の地震計を「ちきゅう」から降ろし、同時に当機構所属の深海調査研究船「かいれい」から移動しながら、エアガンにより音波を発信し、高精度にプレート境界や付加体の地質構造情報を得るための測定も併せて行います(VSP (Vertical Seismic Profiling):図3)。本航海では、科学掘削としては世界で初めてのライザー掘削を行います。
共同首席研究者:
荒木英一郎(海洋研究開発機構)
Timothy Byrne (University of Connecticut 米国)
Lisa McNeill (University of Southampton 英国)
Demian Saffer (Pennsylvania State University 米国)
(2) 第2次研究航海(IODP Expedition 319-2(NT2-01地点(図1、図2)、水深:2,535m、最大掘削予定深度:約525m))
地震発生帯から延びる巨大分岐断層を浅部でライザーレス掘削により貫通し、第1次研究航海同様に、物理検層により岩石層序、構造、物理特性のデータを得ると共に、来年度の設置を予定している長期孔内計測のための孔として活用します。
共同首席研究者:第1次研究航海と同じ
(3) 第3次研究航海(IODP Expedition 322(NT1-07地点(図1、図2)、水深:4,062m、最大掘削予定深度:約1,200m))
地震発生帯に運び込まれる物質の初期状態を解明するために、ライザーレス掘削を実施し、全層の試料採取及び検層により堆積物の組成、構造、物理特性のデータを得ます。
共同首席研究者:
斎藤実篤 (海洋研究開発機構)
Michael Underwood (University of Missouri 米国)
上記研究航海にはIODP参加国から延べ50名程度の研究者が乗船参加する予定です。
なお、上記の計画(掘削予定深度含む)は、掘削状況、海気象状況等によって変更することもあります。
日・米が主導国となり、平成15年(2003年)10月から始動した多国間国際協力プロジェクト。現在、欧、中、韓の21ヶ国が参加。日本が建造・運航する地球深部探査船「ちきゅう」と、米国が運航する掘削船を主力掘削船とし、欧州が提供する特定任務掘削船を加えた複数の掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした研究を行います。
南海トラフは、日本列島の東海沖から四国沖にかけて位置するプレート沈込み帯で、地球上で最も活発な巨大地震発生帯の一つです。南海トラフの一部にあたる紀伊半島沖熊野灘は、東南海地震等の巨大地震震源と想定される領域(プレート境界断層が地震性すべり面の性質を持つ領域)の深さが世界のプレート境界のなかでも非常に浅く、「ちきゅう」による掘削が可能な海底下6,000m程度であるという特徴を有しています。
「南海トラフ地震発生帯掘削計画」では、プレート境界断層および津波発生要因と考えられている巨大分岐断層を掘削し、地質試料(コア・サンプル)の採取や掘削孔内計測を実施することにより、プレート境界断層内における非地震性すべり面から地震性すべり面への推移及び南海トラフにおける地震・津波発生過程を明らかにすることを目的としています。
本計画は、全体として以下の4段階(ステージ)に分けて掘削する計画で、紀伊半島沖熊野灘において南海トラフに直交する複数地点を掘削する予定です(図4)。
ステージ1
巨大分岐断層やプレート境界断層の浅部などで掘削を実施します。地層の分布や変形構造、応力状態など、地震時に動いたと考えられる断層の特徴を把握します。(成果については(3))
ステージ2
巨大地震発生帯の直上を深部まで掘削し、地質構造や状態を明らかにします。掘削した孔内には後年に観測システムを設置し、地震準備過程をモニタリングします。また、プレートとともに地震発生帯に沈み込む前の海底堆積物の組成、構造、物理的状態を調査します。
ステージ3
巨大地震を繰り返し起こしている地震発生帯に到達する超深度掘削を実施します。地震発生物質試料を直接採取し、物質科学的に地震発生メカニズムを理解します。
ステージ4
長期間にわたり掘削孔内で地球物理観測を行うシステムを超深度掘削孔に設置します。将来は、地震観測ネットワークシステムと連携し、地震発生の現場からリアルタイムでデータを取得します。
平成19年に地球深部探査船「ちきゅう」は、初めての科学掘削航海となるIODP「南海トラフ地震発生帯掘削計画」ステージ1を紀伊半島沖熊野灘において実施しました。全3研究航海を通じて掘削同時検層(LWD)5サイトの計測、6サイト合計約3,400mの試料採取掘削、全体で33孔、約12,800mの掘削を実施し、地震発生帯浅部の応力場の把握、メタンハイドレート層の発見、断層活動の履歴の把握等の成果を挙げました。
「ちきゅう」と海底の掘削孔を連結したパイプ(ライザーパイプ)の中をドリルパイプが通る二重管構造での掘削方法。ライザーパイプとBOP(噴出防止装置)を用いて、海上での泥水循環掘削(泥水で孔壁を保護し、地層圧力とバランスを取りながら行う掘削)を行うことで、掘削孔の崩れを防ぎ、より深くまで安定して掘削することを可能とします。
掘削孔の中に各種センサーを降下し、地層の物理的特性を深度に対し連続的に計測する手法。今回はワイヤーライン(WL)ロギングおよび掘削同時検層(LWD: Logging While Drilling)・掘削同時計測(MWD: Measurement While Drilling)を実施予定ですが、孔井目的により使い分けを行います。
WLロギングは、ライザー掘削の時は掘削後ワイヤーで吊るしたセンサーを孔内に直接降ろし、ライザーレス掘削の時は「ちきゅう」から降下したドリルパイプをガイドとしてその中を通し、地層の状況を把握する技術です。一方、LWDはドリルパイプの先端近くに各種の物理計測センサーを搭載し、掘削作業と同時に現場での地層物性の計測を行う技術です。地質試料の採取はできませんが、掘削箇所の地層状況を連続測定することにより、リアルタイムに地質情報を得ることができます。これらにより、科学情報と共にその後の試料採取掘削等に有用な掘削孔の安全監視及びリスク回避等の情報が得られるため、南海トラフのような複雑な地質構造での掘削には非常に有効です。
今回取得予定のデータは、比抵抗、地層密度、孔隙率、音波速度、自然ガンマ線、流体圧、孔井傾斜等です。