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2009年7月30日
独立行政法人海洋研究開発機構
独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏)の運用する地球深部探査船「ちきゅう」は、統合国際深海掘削計画(IODP)※1による「南海トラフ地震発生帯掘削計画」ステージ2として、巨大地震発生帯の直上を深部まで掘削して地質構造や歪の状態を明らかにすることを目的とし、紀伊半島沖熊野灘にて本年5月12日より本年度の第1次研究航海を実施しており、8月1日に終了する見込みです。
2.平成21年度第1次研究航海実施内容本航海では、厳しい海気象条件・地質条件の下、2,000mを超える大水深のNT2-11地点(水深2,054m、図1)においてライザー掘削※2に挑み、当初の計画通り海底下1,603.7mに達しました。
また、以下の調査を実施しました。
(1) | 海底下1,510mまで、ドリルパイプの先端近くに搭載したセンサーによる掘削同時計測(MWD: Measurement While Drilling)を実施し、孔井傾斜・方位、孔内圧力、自然ガンマ線等のデータをリアルタイムで入手しました。 |
(2) | 海底下約700mからライザー掘削を開始し、ライザー掘削システムの特徴である泥水循環により掘り屑(カッティングス)を船上に回収し、深度方向の岩相と年代の変化の全体像をつかむため、分析処理を行いました。海底下1,510-1,593.9mの区間で、柱状地質試料(コア)を採取しました。(写真1) |
(3) | 掘削後の孔内にはワイヤーで吊るしたセンサーを直接降ろし、泥水の温度・電気抵抗、地層の電気抵抗・孔径・間隙率・密度・ガンマ線・間隙水の圧力や流体の浸透率、地層の応力や強度等の測定を実施しました(ワイヤーライン(WL)検層)。 |
(4) | さらに、7月24日から25日にかけて、当機構所有の深海調査研究船「かいれい」を移動させながらエアガンにより音波を発振し、掘削孔の中に降ろした16台の地震計と海底に設置した8台の地震計を用いて、孔内地震波探査(VSP: Vertical Seismic Profiling)および孔井周辺の地震波探査を実施し(図2、写真2)、従来より高精度なプレート境界や付加体の地質構造に関するデータを入手することに成功しました。 |
今回の掘削孔は今後予定される長期孔内計測に活用するため、孔底までケーシングパイプを設置し、8月1日(見込み)に、孔口装置に蓋を設置して作業を終了する予定です。引き続き本年度第2次研究航海として、NT2-01地点(図1)において、地震発生帯から延びる巨大分岐断層浅部をライザーレス掘削により貫通し、掘削同時検層(LWD: Logging While Drilling)により岩石層序・構造・物理特性のデータを取得します。また、来年度以降に予定している長期孔内計測の準備の一環として簡易測定器を孔内に設置し、温度および圧力の測定を開始します。
今後、乗船研究者が進める詳細な研究により、過去の地震の記録が含まれている南海トラフの付加体の発達過程と巨大地震・津波発生のメカニズムを解明する重要な知見が得られることが期待されます。
(*)上記の予定は海気象等の状況によって変更することもあります。なお、「ちきゅう」の掘削作業の最新状況は、下記URLの当機構ホームページで確認できます。
http://www.jamstec.go.jp/chikyu/jp/Expedition/NantroSEIZE/special.html
日本・米国が主導国となり、平成15年(2003年)10月から始動した多国間国際協力プロジェクト。現在、欧州、中国、韓国、豪州、インド、NZの24ヶ国が参加。日本が建造・運航する地球深部探査船「ちきゅう」と、米国が運航する掘削船を主力掘削船とし、欧州が提供する特定任務掘削船を加えた複数の掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした研究を行います。
「ちきゅう」と海底の掘削孔を連結したパイプ(ライザーパイプ)の中をドリルパイプが通る二重管構造での掘削方法。ライザーパイプとBOP(噴出防止装置)を用いて、海上での泥水循環掘削(泥水で孔壁を保護し、地層圧力とバランスを取りながら行う掘削)を行うことで、掘削孔の崩れを防ぎ、より深くまで安定して掘削することを可能とします。