プレスリリース


平成22年10月8日
独立行政法人海洋研究開発機構

統合国際深海掘削計画(IODP)第329次研究航海の開始について
〜地球で最も海水の透明度の高い南太平洋還流下の地殻内生命圏に関する掘削調査〜

この度、統合国際深海掘削計画(IODP: Integrated Ocean Drilling Program)()の一環として、「地球で最も海水の透明度の高い南太平洋還流下の地殻内生命圏に関する調査」(別紙参照)を実施するため、米国のジョイデス・レゾリューション号の研究航海が10月10日から開始されます。

本研究航海は、地球上で最も海水中の有機物生産量が低く、海水の透明度が最も高いことで知られる南太平洋環流域の海底を掘削し、低栄養・高酸素濃度の堆積物や玄武岩帯水層に生息する地殻内生命の実態を解明し、地殻内生命圏の規模や分布、代謝活性等を理解することを目的としています。日本から共同首席研究者を含む8名が乗船するほか、米国、欧州、中国、韓国、オーストラリアからも含め、計28名が乗船研究者として参加する予定です。

※統合国際深海掘削計画(IODP:Integrated Ocean Drilling Program)

日・米が主導国となり、平成15年(2003年)10月から始動した多国間国際協力プロジェクト。現在、欧州、中国、韓国、豪州、インド、NZ の24ヶ国が参加。日本が建造・運航する地球深部探査船「ちきゅう」と、米国が運航する掘削船ジョイデス・レゾリューション号を主力掘削船とし、欧州が提供する特定任務掘削船を加えた複数の掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした研究を行う。

別紙1

地球で最も海水の透明度の高い南太平洋還流下の地殻内生命圏に関する掘削調査

1.日程(現地時間)

平成22年10月9日

パペーテ(タヒチ)にて乗船
(準備が整い次第出港)南太平洋地域にて掘削を実施
平成22年12月13日

オークランド(ニュージーランド)にて下船
(掘削航海終了)

なお、気象条件や調査の進捗状況等によって変更の場合があります。


2.日本から参加する研究者

氏名 所属/役職 乗船中の役割・専門
稲垣 史生 海洋研究開発機構/上席研究員 共同首席研究者・地球微生物学
浦本 豪一郎 早稲田大学/研究員 堆積学
下野 貴也 筑波大学/大学院生(博士課程) 古地磁気学
白石 史人 九州大学/日本学術振興会特別研究員 堆積学・微生物学
鈴木 庸平 産業技術総合研究所/研究員 地球微生物学
光延 聖 静岡県立大学/助教 無機地球化学
諸野 祐樹 海洋研究開発機構/主任研究員 微生物学・分子生物学
山口 保彦 東京大学/大学院生(博士課程) 有機地球化学

3.研究の概要

近年の掘削コア試料を用いた研究によって、大陸沿岸の海底下深部堆積物中に検出される微生物細胞の多くは、表層海水中で生産された埋没有機物を栄養源として生息する従属栄養微生物であることが明らかとなっています。しかしながら、大陸から離れた外洋の堆積物や玄武岩基盤にどのような地殻内生命が存在するかについては未だ明らかにされていません。本研究航海では、地球上で最も海水中の有機物生産量が少なく、そのため最も表層海水の透明度が高いことで知られる南太平洋環流域の堆積物および玄武岩を掘削し、コア試料を用いた地球科学・生命科学融合研究を展開することによって、地球表層生命圏からの有機物の栄養供給が最も少ない地殻内生命圏の実態解明を目指します。これまでの海底表層の事前調査によって、南太平洋環流の海底下深部堆積物は、全有機物濃度が0.1%以下と極めて低く、微生物細胞の濃度も大陸沿岸の堆積物に比べて10万〜100万倍低いことが予想されています。本海域の地殻内生命を支える有機物以外のエネルギー源として、堆積物中に含まれる微量の放射性元素と間隙水との化学反応によって生じる水素の重要性が指摘されています。さらに、海水から堆積物に供給される酸素や硫酸などの酸化物質の消費速度が極度に遅く、堆積物―玄武岩境界や深部玄武岩帯水層中に、鉄やイオウなどの無機物質を栄養源とする独立無機栄養微生物生態系が存在する可能性も指摘されています。それらの仮説を立証するため、本研究航海では、掘削された堆積物・岩石コア試料から最新の分析手法を用いて地殻内生命を検出・定量し、その代謝特性や活性速度を明らかにします。

4.掘削の概要

本研究航海では、南太平洋環流において光合成に依存する海水中の有機物生産量が最も少ない箇所を含めた7カ所の掘削地点で、水深3700m〜5700mの海底から玄武岩基盤までの深度約20m〜130mの堆積物コア試料を採取します【図1】。一つの掘削地点で複数のコアリングを実施し、船上のマイクロセンサー計測や間隙水化学組成の分析、微生物細胞数計測やDNA分析、堆積物特性や古地磁気などの様々な分野の研究に用います。また、3カ所の掘削地点では、形成年代の異なる玄武岩基盤をさらに約100 m掘削し、玄武岩環境に生息する生命体の検出や、鉱物化された生命活動の痕跡などについて調査します。

【図1】掘削予定地点
【図1】ODP第329次研究航海の南太平洋環流域における掘削予定地点と、大陸沿岸域における従来までの地殻内生命圏に関する掘削調査地点。表層海水の光合成に依存する有機物生産量が低い海域は全海洋の約48%を占めるのに対して、現在の地殻内生命圏に関する知見は極めて限られています。

お問い合わせ先:

独立行政法人海洋研究開発機構
(IODPについて)
経営企画室
研究企画統括 星野 利彦 TEL:03-5157-3900
(本航海について)
地球深部探査センターIODP推進・科学支援室 科学計画グループ
グループリーダー 菊田 宏之 TEL:045-778-5644
(報道担当)
経営企画室 報道室長 中村 亘 TEL:046-867-9193