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2010年 12月 21日
独立行政法人海洋研究開発機構

海洋における人為起源CO2の吸収量が十年規模で大きく変動することを実証
−南インド洋の人為起源CO2の蓄積速度は北太平洋の2倍−

1.概要

独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤 康宏)地球環境変動領域海洋環境変動研究プログラム海洋循環研究チームは、2003年に実施されたBEAGLE2003航海(注1)で得られた高精度データを基に分析したところ、1995年から2003年の8年間で南インド洋亜熱帯海域に蓄積された人為起源CO2量とその蓄積速度について、南インド洋では北太平洋の蓄積速度の2倍となっていることを発見しました。また、同チームは、南太平洋でも北太平洋の2倍の蓄積速度を観測しており、より深層に人為起源CO2が蓄積されていることを明らかにしました。このことは、人間活動により大気中に放出された人為起源CO2が海域によってはかなり深層まで達していること、人為起源CO2の蓄積が十年規模で変動していることを世界に先駆けて実証したものであり、地球温暖化予測に不可欠な人為起源CO2の海洋における吸収量の見積もりを十年間隔で改定する必要性を示した点で重要です。

この成果は、アメリカ地球物理学連合発行のJournal of Geophysical Research-Oceans誌に12月21日付けで掲載されます。

タイトル :
Decadal increases in anthropogenic CO2 along 20°S in the South Indian Ocean
著者名 :
村田昌彦、熊本雄一郎、佐々木建一、渡邉修一、深澤理郎

2. 背景

人為起源CO2が海洋にどれほど蓄積されているかを精度良く見積もることは、人為起源による大気中のCO2濃度の増加や地球温暖化予測に不可欠です。観測により、大気中に放出された人為起源CO2のおよそ3分の1が海洋に吸収されていると考えられていますが、これまでは海洋中のCO2濃度を定量的に検出するための高精度データと、全アルカリ度、溶存酸素、栄養塩等の海水中のCO2濃度に影響される項目について、高精度データが少なく、定量的な評価を行うことができませんでした。

このため現在、国際的なプログラム(注2)として、大洋スケールで海洋中のCO2濃度や関連する項目の測定を高精度で行い、十年規模での人為起源CO2の吸収や蓄積の変動を明らかにしようとする研究が行われています。本成果はこのプログラムの一環で得られたものです。

3.研究方法の概要

本研究では、南インド洋で高精度データを得るとともに、北太平洋、南太平洋、南大西洋で新たに得られたデータについても共通の解析を行うことにより、海洋の人為起源CO2量とその蓄積速度を定量的に明らかにすることを試みました。また、海洋が吸収する人為起源CO2量に変化がないかを調べるために、南インド洋で1995年以前に得られた観測データと今回の観測データを比較することによって、南インド洋での人為起源CO2量が10年単位でどの程度変化したのかについても調査しました。

このため、2003年12月から2004年1月にかけて、南インド洋の南緯20度に沿って設定された観測ライン(図1)で、海洋研究開発機構が所有する海洋地球研究船「みらい」を利用して、海面から海底まで最大で36層の深さで海水を採取し、塩分、溶存酸素、栄養塩、全炭酸(注3)、全アルカリ度などの項目の高精度測定を行いました。その結果から得られた全炭酸の値について、淡水の出入りによる海中の物質の濃度変化の影響を塩分の値を用いて補正し、さらに、生物活動の影響を取り除くために溶存酸素の値を用いて補正しました。また、1995年にアメリカ合衆国のチームによって得られたデータを用いて、同じ計算を行い、2003年の計算値と1995年の計算値の差をこの期間の人為起源CO2の増加として、この海域での人為起源CO2の蓄積速度を評価しました。

4.結果と考察

産業革命以降1990年代中頃までに海洋中に蓄積された人為起源CO2は炭素に換算して1平方メートル当り年6〜7gと推定されていましたが、今回の調査で得られた南インド洋亜熱帯域での値は、1平方メートル当り年およそ12gでその約2倍の値となり、産業革命以降倍の速度でこの海域に人為起源CO2が蓄積されるようになったことが明らかとなりました。(図2)。また、今回の調査期間(1995年〜2003年/2004年)で得られた蓄積速度を、それ以前の期間(1978年〜1995年)で得られた蓄積速度と比較したところ、近年の方が蓄積速度がより大きくなっていることが分かりました(図3)。つまり、海洋における人為起源CO2のある時期における吸収量は、同じペースで行われるのではなく、十年規模で変動していることが、世界で初めて示されました。したがって、温暖化予測に不可欠な人為起源CO2の海洋による吸収量の見積もりは、少なくとも十年間隔で改定する必要があると考えられます。

5.今後の展望

南インド洋や南太平洋で人為起源CO2の蓄積速度が平均の2倍であること、南インド洋で蓄積速度が十年で倍増していることは、IPCC等の報告書でも考慮されていない現象です。蓄積速度が2倍となっていることは、これまで全く想定されていなかった大きな値の差であり、人為起源CO2を海洋が吸収する役割について、抜本的な見直しを迫るものです。倍増の要因としては、南大洋からの人為起源CO2の輸送が係わっていると推定されますが、これは南大洋ではCO2の吸収が減少しているという従来の報告とは異なるもので、この点でも見直しが必要です。

南インド洋はCO2の高精度データが極めて乏しく、詳細な結果が得られたのも今回が初めてです。南インド洋の人為起源CO2の蓄積量は南大洋からの輸送量に左右されることが推定されることから、海洋循環研究チームでは平成23年度に東部インド洋(平成23年12月4日〜平成24年2月8日)、平成24年度には南大洋の調査(時期は未定)を行います。さらに、今回の調査で明らかになった人為起源CO2蓄積速度の増加の原因を究明し、気候変動モデルに反映させるなど温暖化予測研究の向上に努めます。

注1

2003年8月から2004年2月にかけて、海洋研究開発機構の所有する海洋地球研究船「みらい」によって行われた南半球世界一周航海のこと。BEAGLEとはBlue Earth Global Expedition の略。

注2

大洋スケールで高精度観測を実施するプログラムとしてGlobal Ocean Ship-Based Hydrographic Investigations Program (GO-SHIP) がある。日本のほか、アメリカ合衆国、ドイツ、イギリス、フランスなど、11か国が参加している。

注3

水中の無機炭素の総称。海水中では、二酸化炭素(CO2)、炭酸(H2CO3)、炭酸水素イオン(HCO3-)、及び炭酸イオン(CO32-)の形で存在する。

図1

図1.人為起源CO2の増加を調査した観測ライン。南インド洋の観測は(I03/I04)は、2003年12月から2004年1月にかけて実施された。また、南太平洋(P06)と南大西洋(A10)の観測は2003年、北太平洋(P10)の観測は2005年に実施された。

図2

図2.各大洋の亜熱帯海域での人為起源CO2蓄積速度の比較。単位はg/m2/年。1990年代半ばから2000年代半ばまでの間の蓄積速度。南インド洋と南太平洋で蓄積速度が大きいことが分かる。

図3

図3.南インド洋亜熱帯域での人為起源CO2蓄積速度の変化。単位はg/m2/年。期間1は1995年から2003年/2004年の間、期間2は1978年から1995年の間を示す。より最近の期間で蓄積速度が上がっていることが分かる。

お問い合わせ先:

独立行政法人海洋研究開発機構
(本研究について)
地球環境変動領域 海洋環境変動研究プログラム 海洋循環研究チーム
チームリーダー 村田 昌彦 TEL:046-867-9503
(報道担当)
経営企画室 報道室長 中村 亘 TEL:046-867-9193