プレスリリース


2011年 1月 13日
独立行政法人海洋研究開発機構

統合国際深海掘削計画(IODP)第333次研究航海の終了について
〜南海トラフ地震発生帯掘削計画ステージ2
インプットサイト掘削-2および熱流量の測定〜

独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤 康宏)の運用する地球深部探査船「ちきゅう」は、平成22年12月12日より、統合国際深海掘削計画(IODP)(※1)第333次研究航海として、紀伊半島熊野灘において「南海トラフ地震発生帯掘削計画ステージ2 (※2)インプットサイト掘削-2および熱流量の測定」を実施していましたが、平成23年1月10日に航海を終了いたしました。

本研究航海の結果概要を以下の通りご報告します。

1.実施内容

本研究航海では、巨大地震発生メカニズムの解明を目的として、フィリピン海プレート(海洋プレート)がユーラシアプレート(大陸プレート)に沈み込む直前の地点で表層堆積物の採取を行うとともに、熱流量の測定を実施しました。

まず、海底地滑りに伴って運び込まれる表層堆積物の実態を解明するため、C0018地点(水深3084.35m、【図1】【図2】)において地震に起因する海底地すべり堆積物を海底下314.2mまで掘削し、この地層の柱状地質試料(コア)の採取、分析を行いました。

さらに、巨大地震発生帯を構成する物質の初期状態を知るために、平成21年9月から10月にかけて実施した第322次航海に引き続き、フィリピン海プレートが沈み込む南海トラフよりも沖合にある四国海盆のC0011地点(水深4050.50m)およびC0012地点(水深3510.50m)の2地点(【図1】【図2】)において、表層堆積物およびその下の玄武岩をそれぞれ海底下380mおよび630.5mまでライザーレス掘削し、コアを採取しました。同時に掘削孔内において高密度で地層温度の計測を実施し、物質変化に大きな影響を与える熱流量を見積もりました。

本研究航海は、金松 敏也(海洋研究開発機構・技術研究副主幹)、Pierre Henry(フランス地球科学環境研究センター・主任研究員)が共同首席研究者を務めました。日本から共同首席研究者を含む8名、米国、欧州、中国、韓国から17名、計25名が乗船研究者として参加しました。

2. 結果概要

(1)C0018地点における海底地すべり層の掘削

地震発生と海底地すべりとの関係を理解するために、C0018地点において掘削を海底下314.2mまで行いました。同地点で海底地すべり層を6層掘削し、最も下位に、厚さが62m(海底下127-189m)に達する層が認められました。この最も厚い地すべり層の直上および直下に、日本周辺で広域に認められる火山灰が堆積しており、直上の火山灰層の噴出年代から、この地すべりはおよそ100万年前に起こったと推定されます。採取されたコアは著しく変形しており、海底地すべり滑動時の様々な変形構造が記録されています(【写真1】)。この厚い地すべり層の上位では、比較的規模が小さな海底地すべり層と均質な粘土層が交互に堆積しているのに対し、下位では、タービダイト層(※3)が繰り返し堆積しており(【写真2】)、海底地すべり発生後、堆積物の供給に劇的な変化が起こったと考えられます。この変化は海底地すべりの発生原因に深く関係していたと考えられます。

(2)C0011地点およびC0012における地層の掘削

巨大地震発生帯の物質がどのようにできあがっていくのか、その初期状態を知るために、C0011地点およびC0012において地層の掘削を行いました。C0011地点において海底下380mまで、C0012地点においては海底下180mまでの堆積層の掘削を行い、掘削による乱れがほとんどなく,連続的に解析が行える良質のコアを採取することに成功しました。船上でのコア解析の結果、変質の進行および堆積物の物性変化がある特定の層で起っていることが確認されました。C0012地点の掘削により、堆積物と玄武岩の境界を連続的に採取することができました。さらに玄武岩層の変質度を知るため、掘削を進め玄武岩層を630.5mまで掘削しました。

堆積層掘削と同時にC0011およびC0012地点で地層の高密度温度測定を行いました。船上での検討では、C0012ではC0011より高い熱流量が得られ、インプットサイトの流体循環を考える上で、重要なデータを取得できました。

3.今後の展望

C0018で採取されたコアの詳細な構造解析、地盤力学的研究などにより、どのように海底地すべりが起こったのか、どの程度の規模の地すべりだったかを明らかにし、海底地すべり発生と堆積物供給の変化の関連、地すべりが津波を起こすポテンシャル(潜在的可能性)や巨大地震との関連を研究します。

またC0011およびC0012で採取された堆積物・玄武岩の組成変化の研究、地盤力学的研究、および流体循環モデルなどを通じて、C0011およびC0012地点において、海洋プレートから運び込まれる堆積層、玄武岩層の性質がどのように変化し、地震発生帯物質として準備されていくのか、平成21年に実施された第322次研究航海の成果と併せて検証します。

以上の研究により、将来的には、海溝型巨大地震の発生モデルの構築や、我が国の防災・減災に向けた対策に貢献することが期待されます。

4.「ちきゅう」の今後の予定

1月10日〜14日:
新宮港にて資機材荷降ろし後、清水港に回航
1月15日〜2月4日:
清水港にて資機材積み込みおよび掘削機器整備作業
2月5日〜27日:
独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構 受託業務
2月27日〜3月3日:
清水港にて資機材荷降ろし後、八戸港に回航
3月7日〜14日:
八戸港にて資機材積み込み等準備作業
3月15日〜5月21日:
IODP第337次研究航海「下北八戸沖石炭層生命圏掘削−深部石炭に 支えられた海底下炭化水素循環と生命活動−」

*上記予定は、海気象状況等により変更の可能性があります。

※1 統合国際深海掘削計画(IODP:Integrated Ocean Drilling Program)

日・米が主導国となり、平成15年(2003年)10月から始動した多国間国際協力プロジェクト。現在、欧州、中国、韓国、豪州、インド、NZの24ヶ国が参加。日本が建造・運航する地球深部探査船「ちきゅう」と、米国が運航する掘削船を主力掘削船とし、欧州が提供する特定任務掘削船を加えた複数の掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした研究を行う。

※2 南海トラフ地震発生帯掘削計画(南海掘削:NanTroSEIZE)の全体計画

本計画は、全体として以下の4段階(ステージ)に分けて掘削する計画で、紀伊半島沖熊野灘において南海トラフに直交する複数地点を掘削する計画(【図2】)。

ステージ1

巨大分岐断層やプレート境界断層の浅部(1400m以浅)のライザーレス掘削を実施し、地層の分布や変形構造、応力状態など、地震時に動いたと考えられる断層の特徴を把握する。

ステージ2

巨大地震発生帯の直上を掘削し(ライザーおよびライザーレス掘削)、地質構造や状態を解明する。掘削した孔内には観測システムを設置し、地震準備過程のモニタリングを行う。また、プレートとともに地震発生帯に沈み込む前の海底堆積物を掘削しコア試料を採取することで、組成、構造、物理的状態等を調査する。

ステージ3

巨大地震を繰り返し起こしている地震発生帯に到達するライザー掘削を実施し、地震発生物質試料を直接採取して、物質科学的に地震発生メカニズムを解明する。

ステージ4

長期間にわたり掘削孔内で地球物理観測を行うシステムを巨大地震発生帯掘削孔に設置する。将来は、地震・津波観測監視システム(DONET)と連携し、地震発生の現場からリアルタイムでデータを取得する。

※3 タービダイト層

混濁流によって運ばれ、形成された砂層と泥層の互層。

【図1】 南海トラフ地震発生帯掘削計画 調査海域図(本航海の関連掘削孔サイトを赤で表記)
【図1】 南海トラフ地震発生帯掘削計画 調査海域図(本航海の関連掘削孔サイトを赤で表記)
【図2】南海トラフ地震発生帯掘削計画 概要図(第332次研究航海の関連掘削孔サイトを赤で表記)
【図2】南海トラフ地震発生帯掘削計画 概要図
(第332次研究航海の関連掘削孔サイトを赤で表記)
【写真1】海底地すべり体内部の変形構造(C0018:海底面下およそ139mで採取)
【写真1】海底地すべり体内部の変形構造
(C0018:海底面下およそ139mで採取)
【写真2】繰り返し起っているタービダイト層(C0018:海底面下およそ201-202mで採取)
【写真2】繰り返し起っているタービダイト層
(C0018:海底面下およそ201-202mで採取)

お問い合わせ先:

独立行政法人海洋研究開発機構
(本内容について)
地球深部探査センター 企画調整室長 山田 康夫 TEL:045-778-5640
(IODPについて)
経営企画室 研究企画統括 星野 利彦 TEL:046-867-9207
(報道担当)
経営企画室 報道室長 中村 亘 TEL:046-867-9193