2011年 5月 18日
独立行政法人海洋研究開発機構
1.概要
独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏)地球内部ダイナミクス領域の田村芳彦上席研究員らは、NW ロタ-1火山(マリアナ海域南部の海底火山、読み:ノースウェスト ロタ ワン)から採取した岩石試料の化学分析の結果から異なる起源を有した岩石がNW ロタ-1火山から噴出されている事を見出しました。
本成果は「沈み込み帯のマントル表層部には不均質構造を有したカンラン岩が存在し、1つの火山に2つの初生マグマ(※1)を生じている」ということを示唆しています。これは、マグマの多様性に関して従来よりも合理的な説明を可能とする画期的な知見です。また、今後、火山の地下のマントル構造の再検討を促すことになります。
この成果は、岩石学の学術誌The Journal of Petrology(英国)電子版に5月20日に掲載予定です。なお、出版は7月です。
2.成果
本研究では、結晶分化(※2)の進行が小さく、初生マグマからの組成変化が少ないNWロタ-1火山(マリアナ海域の海底火山、図1)で採取した岩石試料について、詳細な顕微鏡観察と化学分析(主要元素分析、微量元素分析、Sr-Nd-Pb-Hf同位体比分析)を行い、同火山におけるマグマの起源と結晶分化について検討しました。その結果、同火山の地下には、水分量が多く多様な元素を含む初生マグマと、水分量の少ない初生マグマの2種類が存在することを見出しました。
しかしながら、この分析結果は、従来の「マグマは、ほぼ均質なマントル表層部の岩石(カンラン岩)の部分融解により発生する」という理論では説明できないことから、マリアナ海溝におけるプレート沈み込みとマグマ生成過程に関する検討を行い、以下のモデル(図2)を提示しました。
即ち、
というモデルです。
初生マグマが一つではなく二つであることは、結晶分化によって多様なマグマを生成できることを意味しています。今回の成果は、マグマの多様性に関して従来よりも合理的な説明を可能とする画期的な知見です。また、今後、火山の地下のマントル構造の再検討を促すことになります。
3. 背景・着眼点
「大陸地殻」成因に、火山がどのように関与・寄与しているのかを解明していくことは重要な課題の1つです。また、火山からは玄武岩から安山岩、デイサイト、流紋岩に至る多様なマグマが噴出します。本研究においては、結晶分化の進行が小さく、初生マグマからの組成変化が少ないNWロタ-1火山に着目し、その活動状態を観察(既報:平成18年5月22日付)するとともに、その噴出物である溶岩の採取・解析から火山のマグマ生成過程の解明に取り組みました。その結果、新たに、「1つの火山に異なる組成の初生マグマが存在する」ことを見出しました。この事実は、より多様なマグマを結晶分化によって生成できることを意味し、マグマの多様性を説明する新たな理論となる可能性があります。
本成果は、統合国際深海掘削計画(IODP)において今後実施される予定の「プロジェクトIBM:海洋から大陸が生成される過程の解明(島弧の中部地殻までの掘削)」において、掘削試料解析に応用され、本計画の進展に寄与することが期待されています。
(用語)
※1初生マグマ
上部マントルが部分融解して最初に生じるマグマ。できたばかりの分化していないマグマであるから本源マグマともいう。初生マグマは地表に溶岩として噴出するまでに温度の低下により結晶を晶出し、分別することによって組成を変化させていく(結晶分化)。
※2結晶分化
マグマからは冷却するにつれて次々に結晶が出てくる。結晶はマグマよりも比重が大きいのでマグマだまりの下の方に沈む。結晶の組成はもとのマグマの組成とは違うため、残りのマグマの組成はしだいに変わっていく。結晶ができてくることによってマグマの組成が変わっていくことを結晶分化という。
※3 マントルダイアピル
部分融解を起こした局所的なマントルの固まり。部分融解により周囲のマントルと比較して比重が軽くなり 固体の上部マントル中を上昇すると考えられている。火山のマグマのもととなり、火山の直下のマントルに作用していると考えられている。
マグマは、ほぼ均質なマントル表層部の岩石(カンラン岩)の部分融解により発生すると考えられてきたが、本研究の結果から沈み込み帯のマントル表層部には不均質構造を有したカンラン岩が存在し、その部分融解から複数のマグマが生成している可能性を見い出した。