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2012年 3月 23日
独立行政法人海洋研究開発機構

「人工熱水噴出孔を利用した有用鉱物資源の持続的回収」研究開発
海底熱水資源開発に向けた新たな基盤研究に着手

1.概要

独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏)海底資源研究プロジェクトは、海洋・極限環境生物圏領域およびシステム地球ラボプレカンブリアンエコシステムラボと共同し、2010年9月に行われた地球深部探査船「ちきゅう」による統合国際深海掘削計画(IODP)第331次研究航海(沖縄熱水海底下生命圏掘削シーズン1)で創出した伊平屋北熱水活動域における複数の人工熱水噴出孔について、熱水噴出パターンの変動、熱水化学組成の調査・観測を1年以上にわたり継続し、それらについて明らかにするとともに、海底熱水を持続可能な資源として活用する基盤技術の研究開発を図るため、人工熱水噴出孔に新たに形成されたチムニーの形成様式、組成分析を行いました。

その結果、黒鉱層を形成する海底下の熱水溜まりから直接噴出させた人工熱水噴出孔においては、著しく黒鉱鉱物成分に富んだチムニーが容易に形成され、短期間で大規模に成長することを発見しました。この結果は、これまでの海底熱水域における有用鉱物資源回収法とは全く異なり、持続的な回収法の可能性を示唆するものです。

本成果は、機構から特許申請しており、今後、海底熱水域における有用鉱物資源を利活用するための基盤構築に大きく寄与することが期待されます。

2.背景

日本は狭い国土ながら、世界第6位の広大な排他的経済水域(EEZ)を持っています。この広大なEEZ内に眠る海底資源を生かすことは、日本の更なる経済成長を支えるのみならず、人類の持続可能な発展のために非常に重要です。

熱水噴出域には、銅や亜鉛、鉛、金、銀などを含む硫化物が沈積してできた煙突状の「チムニー」が形成されており、その硫化物沈殿物の規模が大きくかつ含有される有用金属の品位が高いものは熱水鉱床と呼ばれ、重要な海底資源の一つとして注目されています。しかしながら、深海底に形成されることから容易には採掘・回収できない等の問題があり、そのための技術開発が期待されています。

研究チームでは、2010年9月に行われた地球深部探査船「ちきゅう」によるIODP第331次研究航海において、沖縄本島の北西150kmの中部沖縄トラフの水深1000mに存在する深海底熱水活動域(伊平屋北フィールド)(図1)に作った人工熱水噴出孔4地点(図2)について、熱水噴出パターンの変動、熱水化学組成について継続的に観測を行い、人工熱水噴出孔に新たに形成されたチムニーの形成様式、組成分析を行ってきました。

3.結果

(1)時間経過に伴う熱水組成の変化

4箇所の人工熱水噴出孔は、掘削直後(2010年9月)、数日の間黒味を帯びた熱水を噴出しており、比較的早い時期に黒味がないクリアスモーカーになりました(2011年2月、掘削から約4ヶ月後)。また、2011年2月に人工熱水孔から噴出する熱水を採取してその化学組成を調べたところ、掘削前の自然熱水孔の熱水に比べて、蒸気(気相)分に乏しい熱水に変化していることを明らかにしました。

(2)人工熱水孔におけるチムニーは短期間で急速に成長する

伊平屋北熱水活動域の活動中心であるNorth Big Chimneyと呼ばれる高さ20mを超える熱水マウンドの頂部に創出された人口熱水噴出孔(図2のC0016B)に、2011年2月には6mを超えるチムニーが新たに形成されていることを見出しました。この航海において採取を試みましたが、採取できず、チムニーは崩壊してしまいましたが、半年後の2011年8月から9月にかけて行われた航海では、この崩壊したチムニーが8mを超えるほどに再成長していることを確認しました。このことは、人工熱水孔におけるチムニーは短期間で急速に成長することを示しています。

(3)海底下熱水溜まりでの熱水化学組成の違いとチムニー鉱物組成が関係する

2010年9月に行われた地球深部探査船「ちきゅう」によるIODP第331次研究航海で創出した2つの人工熱水孔(図2のC0016B、C0013E)では、形成されたチムニーの採取に成功し、成分の分析を行いました。

C0016B孔における人工熱水噴出孔チムニーは閃亜鉛鉱・ウルツ鉱・方鉛鉱・黄銅鉱を主成分としているのに対して、C0013E孔のチムニーは、硬石膏を主成分として、黄銅鉱・閃亜鉛鉱・方鉛鉱・ウルツ鉱も含有する組成であることがわかりました(図3)。このような鉱物組成の相違からから、前者はほぼ成熟した黒鉱に相当するチムニーであり、後者は黒鉱への成長前段階にあるチムニーと言えます。

掘削コア試料の解析においても、C0016B孔では海底下より黒鉱塊が得られているのに対し、C0013E孔では脈状の硫化鉱物のみが存在するという違いが認められます。つまり、海底下熱水溜まりの中で大規模な黒鉱を産出するポテンシャルに富んだ熱水が存在する部分から由来する人工熱水噴出孔では、海底面で著しく黒鉱鉱物成分に富んだチムニーが容易に形成されるのに対し、海底下熱水溜まりの中で沸騰により蒸気相が卓越した熱水が分離し濃集した部分から由来する人工熱水孔では、天然熱水噴出孔で形成されるものと同じようなチムニーが形成されることが明らかになりました。

(4)持続的な鉱物資源回収の可能性

(2)、(3)の成果から、海底掘削により鉱床形成ポテンシャルが大きい海底下熱水を直接海底に噴出させる人工熱水噴出孔を作り、回収装置を設置し、一定期間硫化金属鉱物を沈殿・成長させ、回収するというアイデアを見出し、特許を出願しました。この成果は、開発リスクの高いと考えられてきた海底熱水鉱床開発において、「とる海底資源からそだてる海底資源へ」発想の転換を図る新しい海底資源開発手法となる可能性があります。

4.今後の展望

本研究は、人工熱水噴出孔という海底下の世界を覗き見る窓を通して、海底下の熱水溜まりの物理・化学的性質に空間的・時間的な不均質性が存在しており、その熱水の不均質性が海底面でのチムニー形成を支配していることを明らかにしました。これは、海底熱水における鉱物形成や鉱床成因論を解明する上できわめて重要です。

この研究成果は、黒鉱を形成するポテンシャルの高い海底下熱水溜まりを掘削し人工熱水噴出孔を創り出すことによって海底面での黒鉱養殖・回収を行うといった、極めて低いコストや環境負荷を実現可能とする、画期的な鉱物資源回収の道を切り開く可能性があります。

【用語説明】

黒鉱:閃亜鉛鉱(ZnS)・方鉛鉱(PbS)・黄銅鉱(CuFeS2)などの硫化鉱物を豊富に含む、海底火山活動で生成した黒色の混合鉱石。中央海嶺などの現在活動中の海底熱水活動域のチムニー等には、主に黄銅鉱(CuFeS2)を主成分とする硫化鉱物が卓越しているのに対し、日本周辺の海底熱水活動域にはこの黒鉱組成とよく似た硫化鉱物チムニーが産出することが多い。

黒鉱型鉱床は日本では東北地方、特に秋田県北部に多く分布しており、中新世の日本海の拡大に伴う大規模な海底火山活動によって生成されたと考えられている。

黒鉱型鉱床の周辺では、黒鉱に伴って、黄鉄鉱(FeS2)・黄銅鉱を主成分とする「黄鉱」、重晶石(BaSO4)を主成分とする「重 晶石鉱」、石膏(CaSO4・2H2O)・硬石膏(CaSO2)を主成分とする「石膏鉱」などが産出し、これらの鉱石は熱水から析出した鉱物構成の違いを反映している。

図1
図1 IODP第331次研究航海の調査海域図(伊平屋北フィールド)
図2

図2 IODP第331次研究航海で設置した人工熱水噴出孔(4地点)の位置関係

伊平屋北フィールドの海底下では、キャップロックが複数存在し、熱水が熱水滞留帯は広大かつ深くまで達しており、熱水は上部の方に蒸気を多く含む軽いものが分布し、下部には塩分を多く含む重い熱水が存在していることが明らかになっている(2010年10月3日既報)。

図3

図3 採取した人工熱水噴出孔チムニー

閃亜鉛鉱=Sphalerite ((Zn,Fe)S)黄銅鉱=Chalcopyrite (CuFeS2)、方鉛鉱=Galena (PbS)、ウルツ鉱=Wurtzite ((Zn,Fe)S)等が含まれることが判明した。

お問い合わせ先:

独立行政法人海洋研究開発機構
(本研究について)
海底資源研究プロジェクト 熱水システム研究チーム
海洋・極限環境生物圏領域 深海・地殻内生物圏プログラム
システム地球ラボ プレカンブリアンエコシステムラボユニット
上席研究員 高井 研 電話:046-867-9677
(報道担当)
独立行政法人海洋研究開発機構
経営企画室報道室 奥津 光 電話:046-867-9198