2013年 5月 24日
独立行政法人海洋研究開発機構
独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦)は、海洋の極限環境に生息・発達する多様な生物群の調査・研究の一環として、平成25年1月から有人潜水調査船「しんかい6500」及び支援母船「よこすか」を用いて、インド洋、大西洋、太平洋の高温熱水域などの特異かつ極限的な海洋環境域に成立する生態系について、地球的規模の調査・研究のための研究航海「航海名称:QUELLE(クヴェレ)2013」を実施しております(平成24年12月13日既報)。
このたび、ブラジル沖のサンパウロ海台(※)における調査が終了しましたので、その実施概要について御報告いたします。なお、今後は海域をブラジル沖からカリブ海に移して引き続き調査を実施する予定です。
※サンパウロ海台:ブラジル沖にある緩やかな斜面を有する台地状の隆起地形。この付近は岩塩層で覆われた南大西洋最大の海底油・ガス田域が存在し、この海台はその延長上にある。ブラジルによる事前調査では、岩塩層と天然ガスが海底付近までせり出している可能性が高いとされる場所であることから、メタンガス等化学物質の吹き出しが盛んであることが推測される。
1.ブラジル沖サンパウロ海台における調査目的
当機構では、深海の極限環境で化学物質をエネルギー源とした生態系(化学合成生態系)や海底下の生命圏に関する総合的な研究に取り組んでいます。その一環として、今回、ブラジル沖サンパウロ海台の水深2,500~3,600mにかけて、以下の目的で調査に取り組みました。なお、この海域で外国の調査船が科学調査を行うのは初めてです。
2.実施概要(別添地図参照)
ブラジル沖サンパウロ海台(水深2,500m~3,600m)
※サンパウロ海台の南北2つのエリアで調査を実施(添付地図参照)
(1)実施期間:5月10日~5月24日
(2)実施内容:石油・天然ガスの湧出に伴う深海化学合成生態系の探索
(3)結果概要:
1)微生物から大型生物、堆積物、海水のサンプルが採集できました。これらの解析を進め、深海化学合成生態系の有無を今後確認します。
2)水深3,000~3,600 mの海底には浮遊性の巻き貝の貝殻が大量に集積していました。
(南サンパウロ海台)
3)水深3,000~3,600 mの海底にはマンガンノジュールがありました。
(南サンパウロ海台)
4)深海化学合成生態系の存在が示唆されていた南サンパウロ海台の海底地形は、顕著な崖になっていました。
ブラジル沖調査は、海洋研究開発機構、ブラジル地質調査所(CPRM)、サンパウロ大学海洋研究所との共同研究のもとに実施しています。
※なお、本航海に関する研究成果については、論文等にまとまった段階で公表します。
3.今後の予定
5月25日~27日 | サントス(ブラジル)での「よこすか」「しんかい6500」特別公開、 サンパウロ(ブラジル)でのシンポジウム等 |
6月中旬~7月上旬 | カリブ海 英領ケイマン諸島周辺の調査 |
8月上旬 | 日本に一時帰国 |
10月~11月 | トンガ海溝・ケルマディック海溝の調査 |
*海況・作業状況などにより変更になる場合があります。 |
本調査航海の調査海域図(ブラジル沖)