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プレスリリース

2013年 10月 21日
独立行政法人海洋研究開発機構

有人潜水調査船「しんかい6500」世界周航研究航海について(経過報告)
~南太平洋トンガ海溝での調査~

独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という)は、海洋の極限環境に生息・発達する多様な生物群の調査・研究の一環として、平成25年1月から有人潜水調査船「しんかい6500」及び支援母船「よこすか」を用いて、インド洋、大西洋、太平洋の高温熱水域などの特異かつ極限的な海洋環境域に成立する生態系について、地球的規模の調査・研究のための研究航海「航海名称:QUELLE(クヴェレ)2013」を実施しております(平成24年12月13日既報)。

このたび、南太平洋トンガ海溝(※1)における調査が終了しましたので、その実施概要について御報告いたします。

なお、「しんかい6500」は今後、10月末から11月初旬にかけて南太平洋ケルマディック海溝(※2)の調査を実施し、12月上旬に帰国する予定です。

※本航海に関する研究成果については、論文等にまとまった段階で公表します。

1.トンガ海溝における調査目的

当機構では、化学合成機能を有する生物群集など深海やその海底下の極限環境に生息する生物と、それらが生息する極限環境圏に関する総合的な研究に取り組んでいます。その一環として今回、世界で2番目に深いトンガ海溝ホライゾン海淵(10,850m)を中心に、10,000mを超える「超深海」という特異な海洋環境とそこに生息する生物群について実地調査を行い、その実態の把握や生物と生息環境の相互関係、特異な地形の成因を解明していきます。

なお、当該海域において有人潜水船による調査潜航が行われるのは世界で初めてのことです。また、カメラつき採泥システムを用いた映像撮影と採泥、および係留系プロファイリングランダーによる海底表層の酸素プロファイル測定が行われるのも今回が初めてで、1万メートルを超える超深海海溝部ではマリアナ海溝チャレンジャー海淵(JAMSTEC実施、平成25年3月18日既報)に続いて世界で2例目になります。

JAMSTECでは、これまでマリアナ海溝チャレンジャー海淵での調査を繰り返し行っており、超深海にユニークな生物群が生息していることを明らかにしてきましたが、今回得られた調査結果を分析しマリアナ海溝と比較することにより、超深海の環境や生物群が場所によって異なっているのかを検証していきます。

2.実施概要(別添地図参照)

(1)トンガ海溝ホライゾン海淵(水深6,250m~10,800m)

実施期間:10月7日~10月15日

実施内容:

1)トンガ海溝ホライゾン海淵域の地形・地質調査(水深3,000m~10,820m)

  1. 有人潜水調査船「しんかい6500」による潜航調査
  2. 「しんかい6500」潜航による海溝陸側斜面の露頭観察と岩石試料採取に基づく地質調査
  3. 海上における海底地形・重力・地磁気の観測

2)トンガ海溝ホライゾン海淵域の生物環境測定および深度別生物分布調査(水深6,250mおよび10,800m)

  1. 「しんかい6500」潜航による目視観測
  2. カメラつき採泥システムによる映像撮影と採泥
  3. 「しんかい6500」と係留系プロファイリングランダーによる試料採取に基づく近底層生物(海底近くで暮らす魚やエビ等の生物)及び底生生物(海底に固着したり、這い回ったり、海底の堆積物の中で暮らしたりしている生物)の深度別分布調査
  4. カメラつき採泥システムおよび係留系プロファイリングランダーによる、ビデオ撮影、採泥、採水、CTDによる海中温度塩分測定、海底堆積物の溶存酸素プロファイル計測等の現場環境観測

(2)トンガ海溝中北部における地質調査および生物調査(水深6500m~5,500m)

実施期間:10月16日~20日

実施内容:

1)トンガ海溝陸側斜面の地質調査

  1. 海上における海底地形・重力・地磁気の観測
  2. 「しんかい6500」潜航による目視観測と岩石試料採取

3.結果概要:

1)
トンガ海溝、ホライゾン海淵付近の詳細な海底地形図を作成しました。また、世界で最も高速でプレート沈み込みが起こっている場所の地形的な特徴が把握できました。
2)
トンガ海溝、ホライゾン海淵の10,805mおよび6,250m 地点における底生生物採取、表層未攪乱堆積物採泥、底層水採水、酸素プロファイル測定およびハイビジョンカメラ撮影に成功しました。トンガ海溝最深部の映像撮影および海底堆積物に関する観測は世界で初めてのことです。今後、同様の観測を行ったチャレンジャー海淵の結果と比較していきます。
3)
超深海に生息する体長20cmを超える超大型ヨコエビ(Alicella gigantean)を採集しました。南太平洋からの超大型ヨコエビ類の採集は、ケルマディック海溝に続き2例目ですが、トンガ海溝からは初めての成果になります。このほか、カイコウオオソコエビの仲間を始めとして、超深海に生息する生物を数多く視認し、採集しました。
4)
トンガ海溝、陸側斜面の海底地質調査を行いました。トンガ弧の地質とその成因に迫る岩石・地層を採集しました。

4.今後の予定

10月21日~22日
ヌクアロファ(トンガ)での「よこすか」「しんかい6500」特別公開
10月24日~11月2日
ニュージーランド、ケルマディック弧調査
11月3日~4日
オークランド(ニュージーランド)での「よこすか」「しんかい6500」

特別公開等

11月中旬
赤道太平洋周辺の調査
12月上旬
横須賀(日本)帰港

*海況・作業状況などにより変更になる場合があります。

※1トンガ海溝:
トンガ沖にある海底部の窪んだ地形で、最深部ホライゾン海淵の水深は10,850m で、世界第2位(世界最深部はマリアナ海溝チャレンジャー海淵:10,911m)の深さがある。トンガ海溝には太平洋プレートが20数cm / 年の速度で沈み込んでおり、世界最速の沈み込み境界である(南海トラフ付近では約4㎝/年程度)。
※2ケルマディック海溝:
トンガ海溝と同様、海底部の広範囲な溝状の地形であり、最深部は10,047mで、世界第三位である。陸側にはケルマディック弧が海溝に並列し、海底火山活動が活発である。
図1
図1:本調査航海の調査海域図(南太平洋トンガ海溝)
図2

図2:JAMSTECで開発したフリーフォール型カメラつき採泥システム。今回は採水器、CTDも付けている。

図3

図3:デンマーク製の係留系プロファイリングランダー。ランダー(黄色の枠)の中央下部にある銀色の円筒が10μmずつ下がりながら、堆積物中の溶存酸素量を測定する。

図4

図4:トンガ海溝から初めて採集された超巨大ヨコエビ(Alicella gigantea)。全長24cm。ホライゾン海淵の海側斜面(水深6,250m)より採集。

図5

図5:ホライゾン海淵(水深10,850m)の海底画像。カイコウオオソコエビの仲間(Hidrondellea dubia)が群舞し、海底にはセンジュナマコの仲間が動き回っている(赤丸囲み)。

図6

図6:ホライゾン海淵陸側斜面の崖。ヒトデが岩石に付着している。岩石は堆積岩である(水深6,121m)。

図7

図7:大型の赤いエビと設置中のエサトラップ。

図8

図8:海溝海側斜面(水深6,254m)。大型の赤いエビが遊泳している。背景は礫まじりの泥。

図9

図9:カンラン岩(水深 5917m)。比較的新鮮な状態(海底であまり風化を受けていない)。

図10

図10:玄武岩 (水深 6088m)。発泡が見られる。

図11

図11:砂岩 (水深 6150m)。石英が含まれている。

お問い合わせ先:

独立行政法人海洋研究開発機構
(本内容について)
海洋・極限環境生物圏領域 領域長 北里 洋
電話:+81-90-2217-2429 (10月21日~23日:在トンガ、11月1日~4日:在ニュージーランド)
      046-867-9767 (10月25日~31日、11月5日~:在日本)
電子メール:kitazatoh@jamstec.go.jp
(報道について)
広報部 報道課長 菊地 一成 TEL:046-867-9198