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プレスリリース

2013年 11月 1日
独立行政法人海洋研究開発機構

有人潜水調査船「しんかい6500」世界周航研究航海について(経過報告)
~南太平洋ケルマディック海溝での調査~

独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という)は、海洋の極限環境に生息・発達する多様な生物群の調査・研究の一環として、平成25年1月から有人潜水調査船「しんかい6500」及び支援母船「よこすか」を用いて、インド洋、大西洋、太平洋の高温熱水域などの特異かつ極限的な海洋環境域に成立する生態系について、地球的規模の調査・研究のための研究航海「航海名称:QUELLE(クヴェレ)2013」を実施しております(平成24年12月13日既報)。

このたび、南太平洋ケルマディック海溝(※1)における調査が終了しましたので、その実施概要について御報告いたします。

なお、「しんかい6500」は今回で「QUELLE2013」で予定されていたすべての調査を終了し、今後、赤道太平洋周辺での調査を経て12月上旬に帰国する予定です。

※本航海に関する研究成果については、論文等にまとまった段階で公表します。

1.ケルマディック海溝における調査目的

ニュージーランドは南半球にありますが、その海洋構造は日本とよく似ており、数千キロにおよぶ海底大山脈がそびえ立つ場所があります。今回の調査では、海底大山脈が海溝軸を挟んで隣接する場所に生息する生物の調査を、ニュージーランド(国立水質大気研究所:NIWA)と共同で行います。

調査を行った大山脈の一つはルイビル海山列であり、ニュージーランド北東から南西にのび、長さ約4300kmに渡り70以上の海山を含む大山脈です。この地域の海山は、南極の近くで作られてから、約7000万年をかけて最終的にケルマディック海溝へと沈み込むことから、ルイビル海山列は終焉期の海山と言えます。一方で、海溝を越えたすぐ先にはトンガ~ケルマディック島弧があり、活発な火山活動をともなう海山が立ち並びます。ここには、高温の熱水が海底から噴出する場所があり、通常は生息する生物が少ない深海(200m以深)であるにも関わらず、サンゴ礁に匹敵するほどの高密度で様々な生物が生息しています。これらの生物は熱水とともに噴出する硫化水素やメタンなどの有害物質からエネルギーを作るバクテリアに支えられています。

このように隆盛を極めた海山と終焉を迎えた海山が海溝軸を挟んで隣接するという世界でも珍しい特殊な環境下で、それぞれの海山に生息する生物にどのような違いがあり、その違いは何に由来するのかを解明するために、これまで一度も人の目に触れたことがない海底を、有人潜水船「しんかい6500」を使い世界で初めて調査します。具体的には、ハイビジョンカメラや環境を測定する機器によりデータを得るとともに、深海生物の採集も試みます。そして、深海生物の分布データや遺伝情報から、特殊な環境下での生態系のメカニズム解明を目指します。

2.実施概要(別添地図参照)

(1)ルイビル海山列(水深1,200~2,800m)および北部ケルマディック島弧(水深400~800m)

実施期間:10月26日~10月30日

実施内容:

1)ルイビル海山列および北部ケルマディック島弧域の地形・地質調査(水深300m~5,000m)

  1. 有人潜水調査船「しんかい6500」による潜航調査
  2. 深海曳航式カメラシステム(ディープトウ)による潜航調査
  3. 「しんかい6500」潜航による露頭観察と岩石試料の採取
  4. 地質調査
  5. 海上における海底地形・重力・地磁気の観測

2)ルイビル海山列および北部ケルマディック島弧域の生態系と生物多様性に関する調査(水深300m~5,000m)

  1. 「しんかい6500」潜航による目視観測による深度別生物相調査
  2. スラープガン(吸引式の採集器)やマニピュレータおよび柱状採泥器等により採集した生物試料に基づく調査
  3. 水深、水温、塩分、溶存酸素濃度、硫化水素濃度等、生物を取り巻く各種環境要因に関する調査
  4. 深海曳航式カメラシステム(ディープ・トウ)による生物分布調査

3.結果概要:

1)
これまで地形情報が少なかったルイビル海山列西端のオスボーン海山、カノパス海山、および北部ケルマディック島弧のヒネプイア海山にて詳細な海底地形図を作成しました。
2)
ルイビル海山列おいて、世界で初めて海底の観察を行いました。その結果、カイメン類、サンゴ類、エビ類、カニ類、ナマコ、ウニやヒトデの仲間、魚類など多様な生物の存在を確認するとともに、一部の試料採集に成功しました。
3)
北部ケルマディック島弧ヒネプイア海山にて、熱水噴出活動とそれにともなう生物群集を初めて発見することができ、シンカイヒバリガイやアズマガレイなどの生物群集を確認しました。これらの結果は、南北に長くのびるケルマディック島弧の北端で得られたもので、生物群集の連続性や進化を考える上で重要なデータとなります。
4)
地質構造の観察や岩石の採取を行い、北部ケルマディック島弧とルイビル海山列における火山体の比較を行うことができました。

4.今後の予定

11月3日~4日
オークランド(ニュージーランド)での「よこすか」「しんかい6500」特別公開等
11月中旬
赤道太平洋周辺の調査
12月上旬
横須賀(日本)帰港

*海況・作業状況などにより変更になる場合があります。

※1ケルマディック海溝:
南太平洋・ケルマディック諸島の東にある海底部の広範囲な溝状の地形であり、最深部は10,047mで、マリアナ海溝、トンガ海溝に次ぎ世界第三位である。陸側にはケルマディック弧が海溝に並列し、海底火山活動が活発である。
図1
図1 調査海域図。赤丸が今回潜航した海山を示す。
図2

図2 ルイビル海山列および北部ケルマディック島弧水深347~2,250mで観察・採集された多様な生物

A)
ナマコ(板足類の一種)。ルイビル海山列カノパス海山、水深2,022m
B)
ジュウモンジダコの仲間。ルイビル海山列カノパス海山、水深1,336m
C)
ジュウモンジダコの仲間。ルイビル海山列カノパス海山、水深1,409m
D)
カイメン(ホッスガイ科の一種)。ルイビル海山列カノパス海山、水深2,202m
E)
カイメン(ホッスガイ科の一種)。ルイビル海山列カノパス海山、水深1,411m
F)
ウニ(ブンブク)の一種。ルイビル海山列カノパス海山、水深2,244mにて採集、水槽内にて撮影
G)
オオエンコウガニの仲間。北部ケルマディック島弧ヒネプイア海山、水深723m
H)
チュウコシオリエビの仲間。北部ケルマディック島弧ヒネプイア海山、水深436mにて採集、水槽内にて撮影
I)
ショウジョウガイの一種。北部ケルマディック島弧ヒネプイア海山、水深499mにて採集、水槽内にて撮影
J)
アズマガレイの大群。北部ケルマディック島弧ヒネプイア海山、水深347m
K)
アズマガレイの一種。北部ケルマディック島弧ヒネプイア海山、水深347mにて採集、水槽内にて撮影
L)
ウニ(オウサマウニ科の一種)。北部ケルマディック島弧ヒネプイア海山、水深499mにて採集、水槽内にて撮影
M)
ヒネプイア海山で初めて発見された熱水噴出孔。北部ケルマディック島弧ヒネプイア海山、水深369m
N)
シンカイヒバリガイの一種。北部ケルマディック島弧ヒネプイア海山、水深337m

お問い合わせ先:

独立行政法人海洋研究開発機構
(本内容について)
海洋・極限環境生物圏領域 技術研究副主幹 土田 真二
電話:046-867- 9558 (11月6日~)
電子メール :tsuchidas@jamstec.go.jp
(報道について)
広報部 報道課長 菊地 一成 TEL:046-867-9198