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プレスリリース

2014年 4月 4日
独立行政法人海洋研究開発機構

ベクトル津波計によるリアルタイム海底津波監視システムの
実海域での試験観測に成功

1.概要

独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」)では、海洋ダイナモ効果を利用した新しい海底電磁場観測装置(ベクトル津波計)による津波観測の有効性を実証することに成功しました(既報:「東日本大震災で発生した津波が巨大化した原因となった場所を特定」平成25年10月4日発表、及び「海洋ダイナモ効果を利用した新しい海底津波観測手法を立証」平成26年1月8日発表)が、今般この装置を用いたリアルタイム観測システム構築に向けて、実海域において海底に設置したベクトル津波計から、海面に浮かべた自律型海洋プラットフォームであるウェーブグライダーを介して観測データをリアルタイムに陸上まで伝送する試験観測に成功しました。

なお、今月2日(日本時間)にチリで発生した地震に伴い日本の太平洋岸に到達した津波について、本システムは3日早朝にリアルタイムで津波の伝播過程(波源の方向、速度、波高等)を詳細に捉えることに成功しており、その有用性が確認されています。

2.背景

東日本大震災では、明治三陸地震以来の巨大津波が発生し、東北地方の沿岸に甚大な被害をもたらしました。将来の津波災害軽減のためには、日本沿岸に到達する津波の大きさと到達時刻を早期に、かつ精度高く予測することが緊急な課題であることが一般にも認識されています。機構ではこの課題達成にむけて「ベクトル津波計(VTM)」(図1)を開発してきました。このベクトル津波計は、地震の発生に伴う地震動、地殻変動と津波に伴う水位変化を圧力変化として捕らえる海底微差圧計(DPG)と津波伝播による海水の流れによって誘導される電磁場変動を検出する海底電磁気観測装置(OBEM)を組み合わせた装置です。ベクトル津波計によって、津波伝播に伴う水位変化、海水の流れ、津波の伝播速度、伝播方向と、地震に伴う地殻変動とを分離して観測出来るので、震源過程での津波の発生過程や、複雑な地形の場所などの津波伝播の様子を詳細に把握することが可能となり、沿岸での津波予測の信頼性向上に貢献することが期待されます。

海底電磁場変動の観測による津波検知の有効性については、平成25年10月4日に発表した「東日本大震災で発生した津波が巨大化した原因となった場所を特定」では、東日本大震災で発生した津波が巨大化した原因として注目されていた短周期の津波の発生場所を特定することに成功しました。また平成26年1月8日発表の「海洋ダイナモ効果を利用した新しい津波観測手法の立証」では、2010年チリ地震に伴う津波の伝播過程を、海底電磁気観測装置によってアレー観測することに成功しました。これらの解析結果は、海底に設置したベクトル津波計による津波観測が、津波の発生と伝播に関わる情報を正確に検知できることを示しています。

一方で、これらの成果は、津波発生の数ヶ月後に海底観測装置を回収して、記録されたデータを解析することで得られたものです。ベクトル津波計を沿岸での正確な津波予測に役立たせ、将来の津波災害の軽減に貢献するためには、このベクトル津波計による観測データをリアルタイムに陸上まで伝送し、津波を常時監視する体制を作ることが必要となります。

このためJAMSTECでは、ベクトル津波計によるリアルタイム観測システムの開発を進めてきました。ベクトル津波計自体の開発は2012年に開始し、開発されたベクトル津波計による海底観測試験は、2012 年11 月から翌2013年2月までの約3か月間、四国海盆の海底に設置して実施され、2013 年2 月6 日に発生したソロモン諸島の地震(M8)により発生した津波を捉えることに成功しました。これによりベクトル津波計の津波検出精度と津波解析手法の有用性が確認されました。

海底からのデータ伝送に関しては、宮城沖において、音響伝送装置を用いて海底に設置したベクトル津波計と船上間で通信テストを実施し、その実用性を確認しております。

さらに海面から陸上までのデータ伝送のためには、ベクトル津波計の直上の海面に自律型の海上プラットフォームであるウェーブグライダー(図2)を浮かべ、海底から音響通信によって観測データを受け取り、衛星通信により陸上まで伝送することを考案し、ウェーブグライダーの長期運用試験を平成25年9月~12月を同じく宮城沖で実施しました。ウェーブグライダーは、海面の波を推進力として燃料無しで海面を動き続けることが出来る装置ですが、システム構築にはウェーブグライダーが不得意とする、定められた場所にとどまっていることが必要となるため、この試験では、ウェーブグライダーをあらかじめ定められた運航スケジュールによって運航させ、日本の東北沖のような場所で定点維持機能を果たせるかどうかを確認しました。今回の実海域試験は、以上述べたようなベクトル津波計によるリアルタイム観測システムの構築に向けて約2年間にわたって取り組んできた成果に基づいて実施したものです。

3.成果

今回、試験観測を用いたシステムは、図3に示すように、海底に設置したベクトル津波計から海面に浮かべたウェーブグライダーに音響通信によって観測データを伝送し、ウェーブグライダーからは衛星通信によって観測データを陸上まで伝送するシステムです。このシステムにより海底の様々な状況(磁場、電場、傾斜、水圧等)を計測し、そのデータを、平常時は1時間毎に、津波が予想される地震の発生時(津波発生時)には毎分伝送する仕様となっています。

本システムについて、本年3月13日に仙台沖約200キロの海域(水深約3,400m:図4)に海洋調査船「新青丸」を用いて設置し、その実効性確認の試験を実施したところ、これまでに海底に設置したベクトル津波計から信頼性の高いデータをリアルタイムで得ていることが確認されています。

また、運用上運航制御が難しいウェーブグライダーについても、これまでの経験を踏まえた運航方法の有効性を確認されています。一方で海流が強い海域では、必要なときにウェーブライダーが津波計からのデータを受け取ることが可能な範囲にいない可能性があることも分かり、複数のウェーブライダーの運用等も視野に入れて今後検討する必要があります。

さらに、システムの設置は、約4時間という極めて短い時間で設置することができました。このシステムではベクトル津波計を最大で水深6,000mの海底に設置することを想定しており、今回は3,400mというそれよりも浅い場所ではあるものの、システム全体を設置して陸上までのデータ伝送を確認するまでの作業が、4時間程度の時間で可能なことは、本システムの機動性を立証しているといえます。

4.今後の展望

今回の実海域試験で、精度の高い津波計であるベクトル津波計を用いたリアルタイム津波監視システムを構築し、試験観測を実施することができました。本試験は、システムの長期運用の信頼性確認のため、引き続き3か月程度継続して実施し、ここで得られた運用データに基づき、今後実用化に向けた研究開発に取り組んでいきます。

図1

図1 ベクトル津波計

図2

図2 ウェーブグライダー

図2

海面を自律航行するウェーブグライダー

図3

図3 ベクトル津波計リアルタイム観測システムの構成

図4

図4 ウェーブグライダーの設置場所/作業領域。宮城沖沿岸から200km東方
※白円内は、ウェーブグライダーの行動範囲

独立行政法人海洋研究開発機構
(本研究開発について)
地球深部ダイナミクス研究分野
主任研究員 杉岡裕子
上席研究員 浜野洋三
(報道担当)
広報部 報道課長 菊地 一成
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