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プレスリリース

2016年 1月 19日
国立研究開発法人海洋研究開発機構
株式会社AKICO

深海の極限環境にヒントを得たナノ乳化装置の販売を開始
~「超臨界水」によって透明度の高いナノエマルションを簡便に製造~

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」)と株式会社AKICO(代表取締役社長 相澤 智、以下「AKICO」)は、ナノエマルション(※1)を10秒以内で効率よく製造できる技術(MAGIQ:Monodisperse nAnodroplet Generation In Quenched hydrothermal solution、2013年5月14日既報)を用いた乳化装置を共同開発し、平成28年3月より販売を開始する運びとなりました。

本来混ざり合わない水と油をエマルション(微細な油滴を水に分散させたもの)として混合する技術は、食品、医薬品、化粧品、化学、農業、印刷、塗料、インク、石油など、広範な産業分野で使用されている基盤技術です。最近では、油滴を100nm以下にまで超微細化したナノエマルションが注目を集めており、機能性化粧品、機能性食品、ドラッグデリバリー、ナノテクノロジーなどの新たな製品開発に用いられようとしています。しかしながら大きな油滴を繰り返し微細化していく一般的なナノエマルション製造方法では、適切な前処理や微妙な温度調整など、ノウハウの蓄積や試行錯誤が必須とされるため、製品開発に要する時間やコストの削減に向けた技術的なブレークスルーが求められていました。

今回JAMSTECが開発したMAGIQ技術は、深海熱水噴出孔周りの高温・高圧環境で「水と油が自由に混ざり合う」ことにヒントを得て開発されたもので、従来法とは根本的に異なるボトムアップの原理でナノエマルションを製造します。MAGIQを使えば、サイズが揃った超微細油滴を含む高品質なナノエマルションを、わずか10秒で誰でも簡便に製造することが可能です。

ナノエマルション製造装置「SFW-E40S」の販売を契機として、革新的な乳化技術であるMAGIQが、多様な産業分野での様々な製品の研究開発に大きく貢献することが期待されます。なお、販売開始に先立って、平成28年1月27日(水)-29日(金)に東京ビッグサイトで開催される第15回国際ナノテクノロジー総合展・技術会議の海洋研究開発機構ブースにて実機の初披露・デモンストレーションを行います。

ナノエマルション製造装置「SFW-E40S」
ナノエマルション製造装置「SFW-E40S」

1.ナノエマルション製造装置「SFW-E40S」の特長

1)高品質なナノエマルションを製造
深海熱水噴出孔周りの高温高圧環境では、水は超臨界状態と呼ばれる特殊な状態にあり、油と自由に混ざるなど、常温常圧環境の水とは全く異なる性質を示します(超臨界水:図1)。MAGIQは油を超臨界水に溶解させた後に、油と水を再び急激に分離させ、油の分子を互いに集合させることによって、サイズが揃った超微細油滴を含む高品質なナノエマルションを製造することができます(図2)。
2)10秒で簡便にナノ乳化を実現
熱水噴出孔周りの温度環境を再現した流通型のプロセスによって、わずか10秒でナノエマルションを製造可能です。「SFW-E40S」は超臨界水を安全に取り扱えるように設計されており、高温・高圧機器に関する特別な専門知識がなくてもMAGIQを様々な製品開発に活用できます。
3)従来技術では困難だった油剤のナノ乳化も可能
JAMSTECが独自に開発したMAGIQは、大きな油滴を繰り返し引きちぎって小さくしていく一般的な製法とは根本的に異なる原理でナノエマルションを製造するため(図3)、従来技術では困難だった油剤のナノ乳化も可能となります。
4)柔軟なカスタマイズが可能
処理量、処理条件(温度や圧力)、使用する油剤の性質(粘度や融点など)など、製品の使用目的や用途に応じた柔軟なカスタマイズが可能です。
2.販売時期
2016年3月予定
3.製造・販売元
株式会社AKICO  http://www.akico.com/
4.販売予定価格
730万円(標準型)

5.製品仕様

型式 SFW-E40S
外寸法 1300W×750D×1600H(㎜)
電源 200V 3相40A 容量
最高使用温度 450 °C
最高使用圧力 40 MPa
製造量 毎時1 ~ 3L(標準仕様)
混合部材質 SUS、ハステロイ各種

6.製造工程

※1 ナノエマルション
直径が20~200ナノメートルの油滴を水に分散(あるいは水を微細な水滴として油に分散)させたもの。エマルションとは「乳を搾る」を意味するラテン語を語源とする。1ナノメートルは1ミリメートルの100万分の1。

※ 本成果は特許出願中です。
特開2013-39547号、「乳化物の製造方法」
公開日:2013年2月28日
発明者:出口 茂、伊福菜穂
特許権者:国立研究開発法人海洋研究開発機構

図1

図1 深海の熱水噴出孔から吹き出す熱水。場所によっては熱水の温度が400°Cを超える。

図2

図2 (写真左)MAGIQ技術で得られた透明度の高いナノエマルション。透明または半透明。
(写真右)直径数マイクロメートルの油滴からなる通常のエマルション。白濁している。

図3

図3:「トップダウン」と「ボトムアップ」によるエマルションの生成プロセス。
MAGIQ技術では油分子を自己集合させるボトムアップ方式を採用。

(MAGIQ技術について)
国立研究開発法人海洋研究開発機構
海洋生命理工学研究開発センター
研究開発センター長 出口 茂
(製品について)
株式会社AKICO
技術設計部第一課
課長 小林 隆三
(報道担当)
国立研究開発法人海洋研究開発機構
広報部 報道課長 松井 宏泰
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