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プレスリリース

2016年 9月 5日
国立研究開発法人海洋研究開発機構

国際深海科学掘削計画(IODP)第370次研究航海
「室戸沖限界生命圏掘削調査(T-リミット)」の実施について
~海底下深部における生命生息限界とその環境規定要因の解明を目指して~

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」)は、国際深海科学掘削計画(IODP: International Ocean Discovery Program)(※1)の一環として、平成28年9月10日から11月10日までの期間、地球深部探査船「ちきゅう」を用いた「室戸沖限界生命圏掘削調査(T-リミット)」(※2)を実施しますのでお知らせします。

1.日程

平成28年9月10日開始(9月13日静岡県清水港を出港予定)

平成28年11月10日終了(11月11日高知県高知新港に着岸予定)

なお、気象条件や調査の進捗状況等によって変更の場合があります。

2.研究航海の概要

本研究航海では、高知県室戸岬から南東約120kmに位置する南海トラフのプレート沈み込み帯先端部(図1)において、水深約4,760mの海底から約1,200m(基盤岩を掘り込む深度まで)掘削し、コア試料を採取するとともに、孔内温度計を設置します(図2)。また、コア試料の採取には海底面下700~800mのプレート境界断層試料の採取も含みます。

「ちきゅう」を用いたIODP研究航海における初めての試みとして、本研究航海では、船上研究チームと陸上研究チームの2チームを編成し、「ちきゅう」の船上と高知県南国市の高知コアセンター(※3)とで並行してコア試料の分析を行います。本研究航海の科学目的を達成するためには、できるだけ早くクリーンな環境でサンプルの処理・分析を開始することが重要です。そのため、コア試料の一部を「ちきゅう」から高知コアセンターにヘリコプターで輸送し、超高清浄度クリーンルーム、次世代シーケンサー(※4)等の分析機器を用い、高精度の最先端地球科学・生命科学研究を迅速に行います。

3.研究航海の科学目的

海底下には、海水中の生物量に匹敵する量の微生物が生息する「海底下生命圏」が拡がっています。地球内部の広大な生命圏は、炭素をはじめとする元素循環や地球と生命の進化にとって重要な役割を果たしていると考えられています。しかし、極限的な地球内部環境における生命活動の実態や進化プロセス、生命生息環境の限界を規定する環境要因については、未だ解明されていません。

本研究航海の掘削予定地点は、高知県室戸沖の南海トラフ沈み込み帯先端部に位置しており、過去の研究によって、局所的に熱流量が高く、堆積物と基盤岩(玄武岩)の境界付近の温度は、現在の生命温度限界(約120°C)を超える130°C以上にまでに達することが予想されており、海底下生命圏の限界を規定する温度等の環境要因を詳しく調査するのに最適な場所です。

本研究航海により採取したコアを最先端の手法を用いて分析することにより、① 海底下深部の微生物細胞の量・多様性・代謝活性の空間的な分布と、それらの遺伝子の類似性・差異を明らかにすることによって、微生物生態系の環境適応と進化プロセスを理解すること、② 地質学的な脱水・変質プロセスや有機物の熱分解等が活発に行われているプレート沈み込み帯先端部において、海底下生命圏の活動の源である水・エネルギー基質がどれくらい供給され、海底下生命圏の限界を規定しているのかを理解することを目指しています。また、プレート境界断層試料を用いて地震・津波発生メカニズムに関する地質学的な研究についても推進します。

4.研究チーム

共同首席研究者は、稲垣 史生上席研究員(日本・JAMSTEC)、Verena B. Heuer Research Scientist(ドイツ・ブレーメン大学)、諸野 祐樹主任研究員(日本・JAMSTEC)の3名です。稲垣上席研究員とHeuer Research Scientistは船上研究チームのリーダー、諸野主任研究員は本航海の陸上研究チームのリーダーを担います。この他IODP参加国から選考された28名の研究者が参加し、合計31名(8か国)により研究が行なわれます。

  リーダー 参加研究者(リーダー含む)
船上研究チーム 稲垣 史生
Verena B. Heuer
合計25名(8か国)
陸上研究チーム 諸野 祐樹 合計6名(3か国)

5.その他

JAMSTECは本研究航海に関する特設ウェブページを開設しています(http://www.jamstec.go.jp/chikyu/j/exp370/index.html)。このウェブページでは、研究航海の概要や参加研究者の紹介を行うとともに、研究航海の進捗をお伝えするデイリーレポート等を随時更新する予定です。

※1 国際深海科学掘削計画(IODP: International Ocean Discovery Program)
平成25年10月から開始された多国間科学研究協力プロジェクト。日本(地球深部探査船「ちきゅう」)、アメリカ(ジョイデス・レゾリューション号)、ヨーロッパ(特定任務掘削船)がそれぞれ提供する掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、海底下生命圏等の解明を目的とした研究を行う。なお、本プロジェクトは平成15年10月から平成25年まで実施された統合国際深海掘削計画(IODP:Integrated Ocean Drilling Program)から引き継いでいる。

※2 室戸沖限界生命圏掘削調査(T-リミット)
航海名の「T」は温度(Temperature)の意である。

※3 高知コアセンター
国立大学法人高知大学とJAMSTECが共同運営する掘削コア試料の中核的な研究拠点。IODP科学掘削により採取された世界各地のコア試料を保管・管理する「世界三大コア保管施設」の一つ(高知コアセンターの他には、米国・テキサスA&M大学とドイツ・ブレーメン大学に類似のコア保管施設がある)。

※4 次世代シーケンサー
生命の設計図であるDNAに記録されている遺伝子の塩基配列情報を高速に読み出すことのできる装置。従来のDNAシーケンサーに比べて桁違いに多いDNA断片から塩基配列を並列に読み出すことが出来る。これにより、膨大な種類の微生物を含む試料についても、どのような種類の微生物がどれくらいの割合で存在しているかといった情報を速やかに取り出すことができる。

図1

図1 IODP第370次研究航海の掘削予定地点(北緯32度22分、東経134度57分)(高知県室戸岬から南東約120km、高知コアセンターから南東約180km)

図2
図2 孔内温度計の編成概念図
(図中の赤点は温度センサーの位置)
国立研究開発法人海洋研究開発機構
(IODP及び本航海について)
地球深部探査センター 企画調整室長 花田 晶公
(報道担当)
広報部 報道課長 野口 剛
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