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2017年 1月 11日
国立研究開発法人海洋研究開発機構

2011年東北地方太平洋沖地震時に海溝軸で最大となった断層すべりを評価
―海溝軸付近の浅部プレート境界断層すべりの性質を知る手がかり―

1.概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という。)地震津波海域観測研究開発センターの小平秀一上席研究員、冨士原敏也主任技術研究員らは、カナダ・ビクトリア大学、カナダ地質調査所・太平洋地球科学センターと共同で、2011年東北地方太平洋沖地震時に起こった海溝軸付近の断層すべり量分布を、海底地形調査データと数値計算手法を用いて評価しました。

東北地方太平洋沖地震では、非常に大きなすべりがプレート境界断層の浅い部分で起きたことで、巨大津波を引き起こしました。巨大津波の生成メカニズムの理解には、プレート境界断層の浅い部分のすべり量分布の定量的評価が非常に重要ですが、海溝軸付近の観測データの欠如のため、評価は不十分でした。

本研究では、浅い部分のすべり量を定量的に評価するために、地震前後における海溝軸付近の測深差を計算で求め、観測された測深差と比較し評価した結果、海溝軸から約40 kmまでの距離では、断層の平均すべり量は約62 mで、この区間でのすべり量は海溝軸に至るまで比較的緩やかに増加し、海溝軸で最大であることがわかりました。

このすべりの分布は、海溝軸付近の浅部の断層が深部の地震発生帯の断層と同様に、断層すべりに対応して摩擦抵抗が低下してすべりを加速させる性質、もしくは、深部から伝播してくる断層すべりに対して抵抗として働く性質のどちらの性質でもないことを示唆しています。

今回の成果により、2011年の地震時に実際に起こった断層すべり量分布が明らかになったことで、海溝軸付近の浅部の断層の動きの特性について、一層の理解が進むことが期待されます。

この研究成果は、英科学誌「Nature Communications」電子版に2017年1月11日付(日本時間)で掲載される予定です。

タイトル:Large fault slip peaking at trench in the 2011 Tohoku-oki earthquake
著者:Tianhaozhe Sun1, Kelin Wang2,1, Toshiya Fujiwara3, Shuichi Kodaira3, Jiangheng He2

1. School of Earth and Ocean Sciences, University of Victoria, Canada
2. Pacific Geoscience Centre, Geological Survey of Canada, Canada
3. JAMSTEC・地震津波海域観測研究開発センター

2. 背景

マグニチュード9を記録した2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震では、プレート境界に沿った断層のすべりが、日本海溝の海溝軸まで伝播しました。また、非常に大きな断層すべりが海底下の浅い部分で起こったため、海底が大きく変動し、大きな津波を引き起こしました。巨大地震・津波のリスクを正しく見積もるためには、海溝軸付近での断層の動きの特性を定量的に評価することが重要です。

地震発生直後にJAMSTECが所有する深海調査研究船「かいれい」を用いた海底地形調査を実施し、海溝軸近地での観測データとしては唯一、地震前後の海底地形の変化が捉えられています(2011年4月28日及び2011年12月2日既報)。その観測データ等によって、海底地形の変動量を評価しましたが、地震時の海溝軸付近の断層すべり分布の定量的評価は不十分であり、その時点では、水平変動量の見積もりには20 m程度の不確かさが、上下変動量の見積もりには10 m程度の不確かさが含まれることを指摘していました。

そこで、東北地方太平洋沖地震時に最大すべりが起こったとされる宮城沖で観測された海底地形変動量を説明するような海溝軸付近の断層すべり量分布を、数値計算手法を用いて詳細に調べることとしました。

3. 方法

実際に即した形状のプレート境界断層を含む地下構造を、有限要素法を用いてモデル化します(図1)。表層は実際の海底地形にある小さい峰や谷などの起伏は省かれた長波長の地形を模しています。モデル上の断層に沿ってすべり量分布を与えることによって、断層の上盤プレートが変位、内部変形して、それらの影響により海底地形が変化します(図2)。

その計算された海底変動値を地震前に観測された海底地形(図3e)に加えて、地震後の海底地形を模擬し、地震前の観測海底地形との差をとります(図3c)。実際に観測された地震後と地震前の地形差(図3d)との比較のため、海底地形変動が顕著に現れている海溝軸から約40 kmまでの解析区間で、両者の差(図3b)をとります。モデルに与える断層すべり量の大きさと断層すべり量分布を様々に変化させ、残差の偏差が最小となる、つまり、観測された地形変動と最も合う条件(図3a)を探しました。

4. 結果

海溝軸から約40 kmまでの距離の断層の平均すべり量は、約62 mと求まりました(図3a)。この区間での断層すべり量を、海溝軸に向けて緩やかに増加(約5 m)させた時が、観測された海底地形変動データと最も合いました。また、断層すべり量は海溝軸で最大量(約65 m)をとることがわかりました。

さらに、海溝軸から遠い地下深部の地震発生帯からの断層すべり量の増加率をそのまま延ばしたような場合(図4の緑線)や、海溝軸に向けて断層すべり量が減少するような場合(図4の赤線)では、観測された海底地形変動をうまく説明できないことがわかりました。

この結果は、海溝軸付近の浅部の断層が深部の地震発生帯の断層と同様な性質で、地震発生帯から伝播してくる断層すべりに対応して摩擦抵抗が低下してすべりを加速させる性質、もしくは、深部から伝播してくる断層すべりに対して抵抗として働く性質、どちらか一方の性質ではないことを示唆しています。

5. 今後の展望

2011年東北地方太平洋沖地震時に最大すべりが起こったとされる宮城沖近傍では、統合国際深海掘削計画(IODP)のもとで、2012年に地球深部探査船「ちきゅう」を用いてプレート境界断層への掘削、物理検層が行われ、東北地方太平洋沖地震時の断層すべりによる残留摩擦熱の測定、断層試料の回収がなされています。

今回、2011年の地震時に実際に起こった断層すべり量分布が明らかになったことにより、宮城沖での海溝軸付近の浅部の断層の動きの特性について、一層の理解が進むことが期待されます。

ただし、海溝軸付近の浅部断層の特性については地域性があるはずで、今後、巨大地震・津波のリスクを正しく見積もるという上での知見を得るための一般性を見いだすためには、掘削調査なども含め、日本海溝の海溝軸沿いの他の場所でも同様に調べることが必要と考えています。

統合国際深海掘削計画(IODP: Integrated Ocean Drilling Program)
日・米が主導国となり、2003年~2013年までの10年間行われた多国間国際協力プロジェクト。日本が建造・運航する地球深部探査船「ちきゅう」と、米国が運航する掘削船ジョイデスレゾリューション号を主力掘削船とし、欧州が提供する特定任務掘削船を加えた複数の掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、海底下生命圏等の解明を目的とした研究航海を実施した。2013年10月からは、国際深海科学掘削計画(IODP: International Ocean Discovery Program)という新たな枠組みの多国間国際協力プロジェクトに移行している。
図1

図1:計算に用いた球殻有限要素モデル。左下は解析を行った測線(黄線)に沿った断面図。

図2

図2:地震変動による海底地形変動の概念図。実線と点線がそれぞれ地震前、地震後の海底地形を示す。地震変動によって海底がAからBに変位する。海底地形の差はAとCの差になる。地形の細かい起伏(凸凹)のずれによって、地形差に細かい変化量の大小の差異が生じる。解析では、この地形差異の分布をうまく合わせることにより、すべり量分布を求めている。

図3

図3:a 本研究で求められた断層すべり量分布。横軸が海溝軸からの距離(海溝軸が0 kmでそこから左側が東北側)、縦軸は地震時すべり量(m)。b 観測された地震後と地震前の地形変化と計算された地形変化との残差、この残差の平均平方根偏差を判定基準にしている。c は計算の地形変化、緑〜黄〜赤色にかけて海底地形が上昇したことを示している、青〜紫色は下降を示す。解析域(0〜40 km)は、起伏が大きく変位量が読み取りやすい領域として決められた。図中に筋状に見られる変化は、地形の細かい起伏(凸凹)のずれによる変化量の差異(図2参照)。d は観測された地形変化(地震後の地形と地震前の地形との差)。e 観測海底地形(地震前に調査されたもの)。解析域は海溝斜面とよばれる、海溝に向かっての急斜面である。f 地下構造モデルを作るのにあたって参照にした、反射法音波探査によってイメージされた地下構造断面図、縦軸は海面からの深さ(km)。太点線が傾斜角約5度であるプレート境界断層を示す。断層の上側を上盤プレートという。

図4

図4:海溝軸からの距離と地震時すべり量の関係を示しているグラフ。横軸が海溝軸からの距離(海溝軸が0 km)、縦軸は地震時すべり量(m)を示す。青線が本研究による結果。青い影の部分は取り得る結果の範囲を示す。海溝軸に向けてすべり量が増大するモデル(緑線)や減少するモデル(赤線)は、本研究から可能性が低いとされた。灰色の線はこれまでに発表されている断層すべりモデル(45例)。地下深部の断層すべりに関して参照している。

国立研究開発法人海洋研究開発機構
(本研究について)
地震津波海域観測研究開発センター 主任技術研究員 冨士原敏也
(報道担当)
広報部 報道課長 野口 剛
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