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プレスリリース

2017年 4月 28日
国立研究開発法人海洋研究開発機構
国立研究開発法人理化学研究所

深海熱水系は「天然の発電所」
深海熱水噴出孔周辺における自然発生的な発電現象を実証
~電気生態系発見や生命起源解明に新しい糸口~

1.概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という。)海底資源研究開発センターの山本正浩研究員と国立研究開発法人理化学研究所環境資源科学研究センターの中村龍平チームリーダーらの共同グループは、沖縄トラフの深海熱水噴出域において電気化学的な現場測定を行った結果、深海熱水噴出域の海底面で発電現象が自然発生していることを明らかにしました。

深海熱水噴出孔から噴き出す熱水には硫化水素のように電子を放出しやすい(還元的な)物質が多く含まれています。また、この熱水には鉄や銅などの金属イオンも大量に含まれているため、海水中に放出される過程で冷却されて硫化鉱物として沈殿し、周辺に海底熱水鉱床を形成します。研究グループは、海底熱水鉱床の硫化鉱物について現場および実験室において電気化学的な解析をすることで、海底下の熱水から海底の硫化鉱物を介して海底面の海水に向かって電子の受け渡しが発生していること、換言すれば、電流が発生していることを確認しました。この発電力は、熱水噴出孔を中心に少なくとも周辺約百メートル先の鉱物表面で観察されました。つまり、深海熱水噴出域が巨大な天然の燃料電池として機能していて、常に電流が発生していることになります。

これまで、分子の拡散にのみ依存すると考えられていた深海のエネルギー・物質循環が、鉱床中の電流を介しても起こることが明らかになったことで、空間的にもメカニズム的にも考え方を拡張する必要が生じ、今後理解が進むことで様々な分野への応用や展開が期待できます。例えば、海底に電気をエネルギー源にする生態系が拡がっている可能性や、大昔の地球の深海熱水噴出孔において電気の力で生命が誕生した可能性を得たことで、地球外生命の探査方法も大きく変更されることになると期待されます。

本研究結果は、5月10日付けのドイツ化学会誌インターナショナル版「Angewandte Chemie International Edition」オンライン版に掲載されるとともに、今号の主要論文として本掲載誌の表紙(裏)のデザインにも採用されました。

タイトル:Spontaneous and widespread electricity generation in natural deep-sea hydrothermal fields
著者:Masahiro Yamamoto1、Ryuhei Nakamura2、Takafumi Kasaya1, Hidenori Kumagai1、Katsuhiko Suzuki1、Ken Takai1
1. Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology (JAMSTEC)、2. RIKEN Center for Sustainable Resource Science
Doi:10.1002/anie.201701768 and 10.1002/ange.201701768

2.背景

海底熱水噴出孔(図1)では金属イオン(Fe2+, Cu2+, Zn2+など)と電子を放出しやすい(還元的な)硫化水素、水素、メタンなどのガスを大量に含む熱水が放出されており、周囲の海水によって急激に冷やされることで硫化鉱物が沈殿し海底に鉱床を形成します。研究グループは、これまで、この海底熱水鉱床の硫化鉱物が高い導電性を持つことや化学反応の触媒活性を持ち電極として利用できること、さらに熱水と海水を用いて現場で人工的な発電が可能であることを発見してきました(2013年9月3日既報)。これらの事実から、深海熱水噴出孔が天然の燃料電池として機能し発電現象が生じていることが予想されました。この仮説を検証するために、研究グループは沖縄トラフの深海熱水噴出域において、現場電気化学計測と鉱物試料の採取を行い、さらに持ち帰った鉱物試料について実験室で分析を行いました。

3.成果

研究グループは、JAMSTECの海洋調査船「なつしま」「かいよう」と無人探査機「ハイパードルフィン」を用いて、深海熱水噴出域の熱水鉱床表面の酸化還元電位(※1)(電子の奪いやすさを表す指標)の現場計測を行いました。沖縄トラフの伊平屋北ナツフィールドの槍ヶ岳マウンドと名付けられた深海熱水噴出孔には「フランジ」と呼ばれるキノコのような形の硫化鉱物の構造物が形成され、キノコの傘の下には熱水が溜まっています。この傘の上面の酸化還元電位を測定したところ約+49 mV を示し、周囲の海水の酸化還元電位(+466 ±7 mV)に比べて低い値を示しました(図2A)。このことは、硫化鉱物表面が電子を放出しやすい状態になっていることを表しています。

また、同様に、伊平屋北アキフィールドのHDSKチムニーと名付けられた熱水噴出孔(図1)の硫化鉱物表面の酸化還元電位を計測したところ、熱水噴出孔の間近で最も低く(-22 ±33 mV)、孔から数メートルずつ遠ざかるにつれ、+32 ±47 mV 、+138 ±1 mVと鉱物表面の酸化還元電位が上昇していく様子が観察されました(図2B)。熱水の酸化還元電位は-96 ±14 mVでした。このことは、熱水と海水を境界する硫化鉱物の厚みが薄いほど海水側の硫化鉱物表面の電子が放出されやすく、硫化鉱物が厚くなるにつれ電子が放出されにくくなることを示唆しています。

次に、HDSKチムニーを中心に約150×150メートルのエリアの海底面の酸化還元電位の計測を行いました。HDSKチムニーおよび他の熱水噴出孔近傍では低い酸化還元電位(~+0.1 V)が観察されました。加えて、熱水の放出が確認できない海域の鉱物表面でも比較的低い酸化還元電位(約+0.15~+0.30 V)をしばしば示しました(図3)。硫化鉱物は、酸化還元電位が+0.30 Vより低い場合、海水中の酸素に電子を渡す反応が進行することが既に確認されていることから、海底熱水鉱床の広いエリアにおいて海底下から海水中への電子の受け渡しが行われていることが示唆されます。実験室において、採取した硫化鉱物試料の熱水および海水中における電気的な挙動を解析したところ、硫化鉱物は熱水と海水の間で主に導電体として振る舞い、硫化鉱物それ自体の変質による電子移動の作用は小さいことが確かめられました。今回の結果から、活動的な海底熱水噴出孔では、海底下の熱水から海底面への海水への硫化鉱物を介した電子の伝達による電流発生が、広い範囲で自発的に生じていることが実験的に示されました(図4)。

4.今後の展望

今回確認された自然発生的な発電現象は、明らかに周辺のエネルギー・物質循環に影響を与えていると予想できます。特に、微生物生態系や生物-鉱物相互作用に大きな影響を及ぼしていると考えられます。近年、電気エネルギーを吸収したり、さらには電気エネルギーで生育できる微生物の存在を示す報告が増えてきており、微生物の新しい能力として注目を浴びています。今回、深海熱水噴出域が“天然の発電所”として機能していることが明らかになったことから、海底に電気エネルギーを利用する微生物生態系が存在している可能性が出てきました。

また、深海熱水噴出孔は地球上の生命の起源の最有力候補地として知られています。電気は様々な有機化学反応を促進できることから、深海熱水噴出孔での発電現象は、これまで説明しきれなかった生命誕生までの多数の障害を越えられる可能性を持ち、生命誕生の謎を一気に解決できる爆発力を秘めています。今回の発見によって、宇宙外生命探査の有効な手段の一つとして、その天体の発電能力の評価が加えられることが予想されます。

※1:酸化還元電位
物質の電子の受け取りやすさ、あるいは放出しやすさを定量的に評価する尺度。単位はボルト(V)を用い、本文中の数値は全て標準水素電極電位を基準としている。数値が高いほど電子を受け取りやすく、低いほど電子を放出しやすい。

図1

図1 深海熱水噴出孔
沖縄トラフ伊平屋北アキフィールドのHDSKチムニー。水深は1,071メートル。チムニーの高さは約6メートル。

図2

図2 深海熱水噴出孔の硫化鉱物表面の酸化還元電位
A) 槍ヶ岳マウンドのフランジ(伊平屋北ナツフィールド)、B) HDSKチムニー(伊平屋北アキフィールド)。灰色が硫化鉱物を、ピンク色が熱水を表す。

図3

図3 深海熱水噴出孔周辺の酸化還元電位マッピング
海底地形図の中心(原点)にHDSKチムニーが位置する。四角形と丸の色はそれぞれ鉱物表面(露頭)と堆積物中の酸化還元電位を表す。

図4

図4 深海熱水噴出域における自発的な発電現象の概念図
海底下の熱水には硫化水素が大量に含まれ還元剤(電子を放出するもの)として機能する。海底鉱床の主要な成分である硫化鉱物は電極触媒および導電体として機能する。熱水中の硫化水素は硫化鉱物に電子を渡し、この電子は硫化鉱物中を流れ海底表面の海水中に含まれる酸素に渡される。

深海熱水系は「天然の発電所」
深海熱水噴出孔周辺における自然発生的な発電現象を実証

(本研究について)
国立研究開発法人海洋研究開発機構 海底資源研究開発センター 資源成因研究グループ/深海・地殻内生物圏研究分野
研究員 山本 正浩
国立研究開発法人理化学研究所 環境資源科学研究センター 生体機能触媒研究チーム
チームリーダー 中村 龍平 
(報道担当)
国立研究開発法人海洋研究開発機構 広報部 報道課長 野口 剛
国立研究開発法人理化学研究所 広報室 報道担当
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