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プレスリリース

2017年 7月 21日
国立研究開発法人海洋研究開発機構
国立大学法人筑波大学
国立大学法人神戸大学
国立大学法人東京大学

スパースモデリングで豊後水道スロースリップイベントのすべり急変位置を特定
―巨大地震震源域周辺における地殻変動解析の解像度向上に期待―

1.概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦)地震津波海域観測研究開発センターの中田令子特任技術研究員、堀高峰グループリーダー、地球内部物質循環研究分野の桑谷立研究員らは、近年様々な分野に適用されて成果を挙げているスパースモデリング(※1)と呼ばれるデータ解析手法を使って、豊後水道における長期的スロースリップイベント(Long-term slow slip event、以下「L-SSE」という。)の解析を行いました。その結果、L-SSE域の上限および内部にすべり量の急変を見出すとともに、これまでの手法よりもすべり域内部の構造を詳細に推定することができました。また、急変位置は、地震発生帯の下限および深部低周波微動の上限とよく一致することを示しました。

これは、従来なめらかな空間変化しか捉えられないと考えられてきた地殻変動観測データに対する解析で初めて見出された結果であり、今後の地殻変動解析研究の解像度向上にも大きく貢献するものです。

すべり量の急変位置では応力が集中しやすくなることから、その位置を知ることが、プレート境界面上のすべりの時空間変化、それによる次の地震までの応力蓄積・解放過程を適切に推定できることになります。さらには、様々な地震現象の発生メカニズムに関する統一的な理解にもつながります。

なお、この研究はJSPS科研費JP16H01564、JP25120005、JP25120009、JP25120011、JP16K17798、JP16K16108、JP25280090、JP15K20864、JSTさきがけJPMJPR1676からの助成を受けました。

本成果は、英科学誌「Scientific Reports」に7月21日付け(日本時間)で掲載予定です。

タイトル:Discontinuous boundaries of slow slip events beneath the Bungo Channel, southwest Japan
著者:中田令子1 ・日野 英逸2・桑谷 立3,4・吉岡祥一5・岡田 真人6・堀 高峰1
1:海洋研究開発機構 地震津波海域観測研究開発センター
2:筑波大学 システム情報系
3:海洋研究開発機構 地球内部物質循環研究分野
4:科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業(さきがけ)
5:神戸大学 都市安全研究センター/理学研究科
6:東京大学 大学院新領域創成科学研究科

2.背景

豊後水道下にはフィリピン海プレートが沈み込んでいます。その深さ20~40 kmのプレート境界面では、約1年かけてゆっくりとすべるスロー地震(ゆっくり地震)(※2)の一種であり、約5~7年に一度、間欠的に発生するL-SSEと呼ばれる現象が観測されています。このL-SSE領域より浅部側は、1946年南海地震(M8.0)の西端や1968年日向灘地震(M7.5)の震源域(地震発生帯)となっており、将来の南海トラフ地震震源域の西限に関係する重要な場所です。一方L-SSE領域より深部側では、繰り返し間隔・継続期間ともにL-SSEよりも短い「深部低周波微動と短期的スロースリップイベント(episodic tremor and slip、以下「ETS」という。)」と呼ばれるスロー地震が起きています。これら一連の現象は、全て同一のプレート境界面上で発生していると考えられています(図1)。しかし、プレート境界面上のL-SSEやETSの発生域では、通常の地震の発生頻度は高くありません。従って、浅部における大地震の発生メカニズムや準備状況を理解するためには、豊後水道におけるL-SSEの発生領域を正確に把握することが非常に重要です。

L-SSEは、南海トラフ沿いでは豊後水道と東海地方でのみ知られていましたが、近年、日向灘・紀伊水道・四国でも類似した現象が観測されつつあります。さらに、このようなスロー地震現象のいくつかは、日本海溝や北米カスカディアなど、過去にマグニチュード8以上の海溝型地震を経験している沈み込み帯でも起きています。その中で豊後水道周辺は、比較的観測網が充実していることもあり、最も多様な現象が繰り返し確認されている地域です。

豊後水道周辺で発生した3つのL-SSE(1997年、2003年および2010年)は、すでにすべり分布の解析が行われており、3回ともほぼ同じ中心から外側へ向かって緩やかに変化する分布が推定されています。すべり域は、深部低周波微動や地震発生帯まで連続的に広がっているようにも見えました。しかし、従来の手法では、地殻変動観測データの不十分さを補うためにすべり分布のなめらかさを前提として解析していることから、すべり域内部が本当になめらかな分布をしているかは、明らかではありませんでした。

3.成果

そこで本研究グループは、地殻変動観測データの不十分さを補い、知りたい情報を正確に抽出することが可能となるスパースモデリングと呼ばれる手法を適用し、L-SSEの詳細なすべり分布を推定しました。

その結果、0.2m以上すべった領域の浅部側では、すべり量が0mまで急に減少しており、従来考えられていたよりも急な空間変化であることが示されました(図2)。また0.1m以上すべった領域の内部(0.2m以上すべった領域の深部側)でも、すべり量が半分近くまで急に減少する部分があることが明らかになりました。さらに、浅部の急変位置は地震発生帯の下限および350°Cの等温線と、すべり域内部の急変位置は深部低周波微動発生域の上限とよく一致していました(図3図4)。つまり、L-SSEのすべり域は、地震発生帯や深部低周波微動発生域まで緩やかに広がっているのではなく、地震・L-SSE・深部低周波微動における発生領域の空間的なすみわけが、これまでよりも明瞭に見えるようになりました。

また、本結果が解析手法や観測点分布に起因するものではないことを確認するため、従来のなめらかな分布および今回得られたすべりの急な変化を模擬データとして同様に解析したところ、本結果を支持する空間変化をほぼ再現することができました。

本研究は、文部科学省科学研究費補助金・新学術領域研究「スパースモデリングの深化と高次元データ駆動科学の創成」の公募研究課題「スパースモデリングによる地震発生予測のための地殻活動データからの情報抽出」として、地球科学と情報科学の異分野間の学融合共同研究によってなされたもので、分野によらない普遍的なデータ解析の方法論を探求するデータ駆動科学(※3)がもたらした画期的な成果といえます。

4.今後の展望

本成果では、測地学・地震学分野への適用例がまだ少ないスパースモデリングを地殻変動観測データの解析に用いることで、L-SSEにおけるすべり分布の急変や地震・深部低周波微動との発生領域のすみわけを見出すことができました。こうした詳細な空間分布をすべりの力学モデルにより再現することは、L-SSE領域の深部側で発生しているETSから浅部側で起きている地震発生帯に至るまで、異なる時間的特徴を持った様々なすべりの発生メカニズムの系統的な理解につながります。

今後、本研究グループでは、引き続き豊後水道L-SSEの解析を進めるとともに、紀伊水道や東海地方の地殻変動観測データに対しても同手法を適用し、南海トラフ全域の地震発生サイクルシミュレーションを高度化していきます。また、2011年東北地方太平洋沖地震の余効すべりを解析し、同域の応力が集中する場所についても検討を進める予定です。これらを進めることにより、地震・スロー地震の発生メカニズムの解明に寄与することが期待されます。

本研究は、地球物理学・情報科学・岩石学・物理学など様々な背景を持つ研究者同士の密接な協働によって得られた成果です。近年、データ駆動科学と呼ばれる学融合的な新学術分野が注目を集めています。ここでは、通常は別々に研究することしかなかった様々な分野の自然科学者と情報科学者が共同研究を進めています。本研究では、医学や天文学で成果を挙げているスパースモデリングが、そのまま地球科学でも威力を発揮しました。このように、異分野の融合を推し進め、普遍的なデータ解析手法の開発と応用を実践するデータ駆動科学は、今後ますますその重要性を増していくことと考えられます。

※1 スパースモデリング
高次元データから本質的な低次元空間を抽出する数理的手法の総称。自然科学データから未知の科学的知見を抽出する革新的なデータ解析技術として、様々な自然科学分野で注目されつつある。スパースとは「少ない」や「疎」という意味。スパースモデリングでは、データへの適合性と同時に、拘束条件としてスパース性(変数の少なさなど)を取り入れることで、質・量の不足したデータからでも、知りたい情報を正確に抽出することができるため、医学や天文学など様々な観測・計測分野の解析に応用されつつある。スパースモデリングの応用例としては、医学では、核磁気共鳴画像法(MRI)による脳血管撮像時間の大幅短縮技術の開発、天文学では、電波干渉計によるブラックホールの直接撮像技法の開発、地球科学分野では、元素含有量による津波堆積物の高精度識別手法の開発などが挙げられる。最近では、沖合の水圧計データから沿岸の津波高を瞬時に予測する手法の高精度化などにも応用されている。本研究にあたっては、代表的な解析手法の一つである一般化結合正則化法(generalized fuzed lasso)を適用した。

※2 スロー地震(ゆっくり地震)
低周波微動・超低周波地震・スロースリップイベント(ゆっくりすべり)など、通常の地震よりもゆっくりとした断層すべりの総称。低周波微動は、通常の地震よりも低周波数成分の卓越した地震波を放出する現象。一方、スロースリップイベントは、地震波を放出せずに、地下の断層がおよそ一日以上の期間をかけてゆっくりとすべる地殻変動現象である。そのうち、継続期間が数か月以上のものを長期的スロースリップイベントと呼ぶ。

※3 データ駆動科学
データ駆動科学とは、観測・計測データを最大限に活用し科学的知見を導出するために、対象や分野によらない普遍的なデータ解析の方法論を探求する学融合的な分野である。最先端のデータ解析手法を共有することにより、異分野間の学問的交流が促進され、大きな相乗効果が期待される。

図1

図1 豊後水道周辺の概略図。

図2

図2(a) 本研究で得られた2010年のL-SSEによるすべり分布。0.1m以上すべった領域を薄い赤、0.2m以上すべった領域を濃い赤で示している。○はすべりを推定したプレート境界面上の位置を地表に投影したもの。●は解析に使用した地殻変動観測点の位置。
(b) 図2(a)の灰色線ABに沿ったすべり量の分布(赤線)。従来の手法で得られたもの(灰線)。

図3

図3 本研究で得られた2010年L-SSEのすべり分布(赤線)と、他の地震学的知見との空間分布の比較。沈み込むプレート境界面での等温度線(点線)。

図4

図4 図2(b)に、1997年(青線)・2003年(緑線)L-SSEの結果も加えたもの。灰色は1968年の日向灘地震後1か月間の余震の頻度分布、黄色は2010年L-SSE中に発生した深部低周波微動の頻度分布である。ともに図3に示したものと同じである。

(本研究の概要について)
国立研究開発法人海洋研究開発機構
地震津波海域観測研究開発センター 特任技術研究員 中田令子
地震津波海域観測研究開発センター グループリーダー 堀高峰
(スパースモデリングについて)
地球内部物質循環研究分野 研究員 桑谷立
(報道担当)
国立研究開発法人海洋研究開発機構
広報部 報道課長 野口 剛
神戸大学
総務部広報課
東京大学大学院
新領域創成科学研究科総務係
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