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2018年 2月 3日
国立研究開発法人海洋研究開発機構
ハワイ大学
オックスフォード大学
国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)

成層圏赤道準2年周期振動(QBO)の崩壊イベントの再現に成功
―季節予報改良への新たな期待―

1.概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という。)シームレス環境予測研究分野の渡辺真吾分野長、西本絵梨子ポストドクトラル研究員、統合的気候変動予測研究分野の河谷芳雄主任研究員、ハワイ大学のKevin Hamilton教授、オックスフォード大学のScott Osprey博士で構成される国際研究チームは、独自に開発してきた高解像度全球気候モデルを用いて、2015/2016年に生じた成層圏赤道準2年周期振動(Quasi-biennial Oscillation: QBO)の崩壊イベントの再現実験に世界で初めて成功しました。

QBOは赤道下部成層圏(高度約16-30 km、※1)の平均東西風が28か月程度をかけて次第に交代する準周期的な振動現象として知られています。1950年代に赤道域のラジオゾンデ観測が始まってから60年間以上西風の上には東風、東風の上には西風が順に形成され、時間とともに下降してくる様子が延々と繰り返されて来ました。こうした規則正しい振舞いを見せることから、QBOは熱帯や中緯度の季節予測の精度を向上させてくれる重要な要素であるという研究報告が近年増えており、季節予測システムにQBOを含める取組みも行われています。ところが、このサイクルが2015/2016年の冬季に突如として崩壊しました(以下「QBO崩壊イベント」という、図1)。QBOを専門とする研究者も、世界中の気象機関等もこの崩壊を予見できませんでした。

本研究では、「地球シミュレータ」を利用し最新の高解像度全球気候モデルを実行することで、この史上初のQBO崩壊イベントの再現に世界で初めて成功しました。さらに、崩壊の直接の原因の特定に成功し、北半球亜熱帯成層圏の東西風の構造によって屈折しながら伝わった大気波動が、QBOを含む赤道成層圏の厚さ数km程度の狭い高度範囲に集中して作用したことを明らかにしました。

今回の成果は、より精緻なモデルを用いていれば、少なくとも1か月以上前から観測史上初のQBO崩壊イベントを予見できた可能性があるということを示唆します。また、QBO崩壊イベントのように前例のない稀なケースにおいても、モデルによる予測が可能であることが示されたことによって、季節予報を改良するための新しいオプションのひとつとしてQBOを予測可能な季節予測システムの検討が世界の気象機関等において進むことが期待されます。

なお、本研究はJSTベルモントフォーラム、(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(2-1503)、JSPS科研費JP26287117、JP15KK0178、JP17K18816、文部科学省の地球観測技術等調査研究委託事業(統合的気候モデル高度化研究プログラム)「炭素循環・気候感度・ティッピング・エレメント等の解明」の支援を受けて行われたものです。

本成果は、米科学誌「Geophysical Research Letters」に2月3日付け(日本時間)で掲載される予定です。

タイトル:First Successful Hindcasts of the 2016 Disruption of the Stratospheric Quasi-biennial Oscillation
著者:渡辺真吾1、Kevin Hamilton2、Scott Osprey3、河谷芳雄4、西本絵梨子1
1. JAMSTECシームレス環境予測研究分野、2. University of Hawaii、3. University of Oxford、4. JAMSTEC統合的気候変動予測研究分野

2.背景

よりよい天気予報の姿として、現在提供されているものに比べて、1)ずっと精度よく当たること、2)ずっと手前から予報ができること、3)今までにない新しい何かを予報できること、様々な利用者のニーズが存在するとともに、様々な研究開発の取組みが存在します。その基礎にあるのは気象学であり、海洋や生態系や太陽や火山さらには人間活動との相互作用を含めた地球システム科学です。JAMSTECはもちろん天気予報の専門機関ではありませんが、これらの科学分野を牽引する研究開発機関として、海から始まる革新的な観測研究および予測研究を通じて、様々な現象やそれらを包含するシステムの基礎的・統合的理解とその予測に挑戦しています。

気象・気候モデルを用いてある地域の天候を、数週間あるいは季節や年のスケールで前もって予測するためには、その地域の普段の天候を支配する早く変化して長期予測が困難な気象システム(例:日本付近の高・低気圧は数日程度の周期で目まぐるしく変化)だけでなく、ゆっくりと変化しなおかつ長期変化が比較的予測しやすい気象・気候変動現象をまとめてシームレスに予測することによって、それら「ゆっくりシステム」に内在する予測可能性を「早いシステム」に供給できるとよい、という考え方があります。この「ゆっくりシステム」の代表はエルニーニョ現象やインド洋ダイポールモード現象に代表される、大気-海洋結合変動現象です。本研究の対象であるQBOは、地球大気で最長の周期をもつ、「究極のゆっくりシステム」であることが知られており、その周期は平均すると約28か月に及びます。周期には変動が含まれますが、おおよそ1周期分、つまり約2年もの間、赤道下部成層圏の東西風の状態が大雑把に予見できます。そのような状態が、観測が開始されてから60年間以上も絶えず続いてきたことから、季節予測の改良という観点での研究がいろいろと進められてきました。例えばQBOに伴う東西風や温度の変動が、欧州や日本付近の冬季の天候に影響を与え得るという研究例や、熱帯で生じる季節内振動の代表であるマッデン・ジュリアン振動の強弱にも影響を与え得るという研究例があり、他にも様々な経路を通じて各地の天候と影響を及ぼし合っていることが示唆され始めています。ごく近年になって一部の気象機関等では、大気-海洋結合モデルに成層圏を含めてQBOと一緒に予測することによって、季節予報を改良しようという取組みを始めました。「季節や年スケールでの予測精度を向上させる重要な要素である」と注目されてきたQBOですが、2015/2016年の冬季に下降していた西風が突然崩壊して途中に東風が現れるという、誰も予想し得なかった現象が生じました(図1)。

そこで本研究チームでは、QBOを含む成層圏研究に実績のある国産の高解像度気候モデルJAGUAR(※2)を用いてQBO崩壊イベントの再現実験を行いました。

3.成果

本研究では「地球シミュレータ」の能力を最大限活用して、高解像度気候モデルJAGUARを27実験同時に動かすことにより、2016年1月4日から2月1日まで1週間おきに計5回、1実験あたり連続40日間分の再現実験を実施し、QBO崩壊イベントの生じる過程を調べました。図2に、赤道下部成層圏における、QBOの東西風の時間変化を示します。黒線で示された観測値とともに、1月4日および2月1日から少しずつ条件を変えて行った再現実験の結果を、計27本の赤色および水色の線のひとつひとつとして、1週間おきに示しています。QBO崩壊イベントが生じた30-60 hPaの範囲では、それらどれもが黒線で示された観測値とよく一致していることが分かります。この結果は、世界中の気象機関等がイベントを予見できなかったことと対照的であり、一方で、より精緻なモデルを用いていれば、少なくとも1か月以上遡って予見できた可能性があるということを示唆しています。

さらに複数の再現実験結果を統計的に分析した結果、崩壊の直接の原因の特定に成功しました。図3に示すように、北半球亜熱帯成層圏の東西風の構造によって屈折しながら伝わった大気波動(ロスビー波、※3)が、QBOを含む赤道成層圏の厚さ数km程度の狭い高度範囲に集中して作用したことを明らかにしました。この結果は、もしも将来、何らかの原因が重なって2015/2016年と同様の東西風の構造が生じたなら、同様のQBO崩壊イベントが生じる可能性があることや、もっと遡って、2015年の秋~冬にかけて、その構造を発達させた原因を特定することがQBO崩壊イベントの全容を解明するうえで重要であることを示唆します。

4.今後の展望

本研究では高解像度気候モデルJAGUARを用いた再現実験を行うことによって、2015/2016年の冬季に生じた観測史上初のQBO崩壊イベントの再現に世界で初めて成功するとともに、その直接の原因の特定に成功しました。今後は、本研究で成功した40日間よりも前に遡って再現実験を行うことにより、季節予報の時間スケール(3ヶ月程度)でQBO崩壊イベントの再現が可能であるか、またエルニーニョ現象や地球温暖化の寄与がどれくらいあったのか、イベントの全容の解明に向けた研究を進める計画です。同時にJAMSTEC独自の取組みとして、海洋ならびに成層圏を含む大気の観測研究計画や「地球シミュレータ」を含む計算・情報ファシリティとの強力な連携のもとで、成層圏も含んだシームレスな海洋結合・全球雲解像予測モデルの開発を目指します。

国際的には、本研究の成果は、ベルモントフォーラムCRA(国際共同研究)「気候予測可能性と地域間連関:全球でみられるテレコネクションとその役割および階層的大気モデル群による再現」や、世界気候研究計画「成層圏・対流圏過程とその気候への影響」で行われているQBOiと呼ばれる活動に大きなインパクトをもたらすことにより、今回の研究チームも参画しているそれらの研究プログラムを通じて、「QBOが世界各地の天候に影響を与えるメカニズムの解明」といった基礎科学研究の発展や、世界中の気象機関等における季節予報の改良を力強く後押しすることが期待されます。さらに、地球温暖化が進行するなかで生じた観測史上初のQBO崩壊イベントの直接の原因を特定したという観点から、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の科学的知見の集約にも貢献します。

※1 赤道下部成層圏:対流圏と成層圏の境界(対流圏界面)の高度は緯度によって異なるが、赤道周辺では約16kmよりも上が成層圏に相当する。赤道周辺の成層圏を便宜的に上部・下部に区分した際の下部成層圏の高度は約16-30kmである。QBOは約18-30kmで生じている。

※2 JAGUAR:Japanese Atmospheric General circulation model for Upper Atmosphere Research 中層・上層大気の研究のために開発された高解像度全球気候モデル。

※3 ロスビー波:西風の中を相対的に西向きに伝播する惑星規模の波動あるいは渦。回転する惑星の大気や海洋の中に見られる。ここで見られているものは、海面・陸面の温度差や大規模な地形の高低差等に起因して発生し、対流圏から成層圏まで伝わってきたもの。

図1

図1 赤道東西風の時間-高度断面図。赤(青)は西風(東風)。西風と東風が約2年で交代する赤道準2年周期振動(QBO)は、最初に大気上層に現れた後、時間と共に下方伝播する(矢印)。2016年1月に高度22㎞の西風領域に突然東風が現れたのち、西風は上方伝播を始め、30㎞付近の東風は消滅した。これが観測史上初のQBO崩壊現象であり、世界各国の気象機関等で予報・再現できていない。

図2

図2 赤道下部成層圏の東西風鉛直プロファイルを1週間おきに示したもの。少しずつ条件を変えて行った再現実験の結果を色のついた線、観測データを黒線で示す。赤線は1月4日から40日間の再現結果、青線は2月1日からの再現結果を示す。QBO崩壊イベントが生じた30-60 hPa(高度19-25 km)の範囲では、モデル結果が観測値とよく一致していることが分かる。

図3

図3 ロスビー波(※3)が大規模な東西風の影響を受けながら伝播する様子を黄色の太矢印、逆にロスビー波が大規模な東西風に影響を及ぼす様子を赤い三角形で模式的に示す。等値線は大規模な東西風の大きさを、色はロスビー波の屈折しやすさを表すインデックスを示す。寒色系の領域を伝播してきたロスビー波は、暖色系が強まる領域を避けて屈折しながら進む性質があることから、図中に太矢印で示したような経路をたどり、40 hPa(高度22 km)付近の狭い高度範囲に集中し、三角形で示したように南から北に向かって楔を打つ格好で東風を形成・発達させた。このようにしてQBOの西風が上下に割れて間に東風が形成され、QBO崩壊イベントが発生した。

(本研究について)
国立研究開発法人海洋研究開発機構 シームレス環境予測研究分野
分野長 渡辺 真吾
(JSTベルモントフォーラムについて)
国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) 国際部
調査役 久永 幸博
(報道担当)
国立研究開発法人海洋研究開発機構 広報部
報道課長 野口 剛
国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) 広報課
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