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プレスリリース

2018年 2月 26日
国立研究開発法人海洋研究開発機構
国立大学法人北海道教育大学
国立大学法人琉球大学
国立大学法人金沢大学

熱いアセノスフェアの流入が沈み込むプレートに高温をもたらす
―日本海の成因解明につながる、マグマからの証拠を発見―

1.概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦)海洋掘削科学研究開発センターの平井康裕研究生(金沢大学大学院博士後期課程)、田村芳彦上席研究員は、北海道教育大学の岡村聡教授、琉球大学の新城竜一教授らと共同で、伊豆-小笠原諸島西部の海底に広がる現在活動中の背弧海盆に噴出した溶岩の採取・分析を行い、流入してきた熱いアセノスフェア(※1)の異常な高温によって、沈み込んだプレートが溶けていることを明らかにしました。

背弧海盆は、プレートが沈み込んでいる地域において、火山フロント(※2)よりも海溝から離れた位置に形成される海洋底であり、例えば、日本海は約2000万年前に拡大した典型的な背弧海盆です。また、ジーランディアと呼ばれる水没大陸がオーストラリア大陸と分離したことも、大陸間に背弧海盆が形成されたためと考えられており、その存在は地球表層の形成に深く関わっています。これまでにも、背弧海盆の成因がアセノスフェアの流入と関連していることは指摘されてきましたが、現在活動中の背弧海盆からその証拠を発見したのは本研究が初めてです。

この成果は、アセノスフェアの流入が背弧海盆の拡大する原動力となることを示すとともに、日本列島形成史上の未解決問題のひとつである「日本海の成因」を明らかにする上で重要な役割を果たすことが期待されます。

なお本成果は、研究調査費の一部にJSPS科研費JP17H02987を使用しており、「GEOLOGY」に2月24日付け(日本時間)で掲載されました。

タイトル:Breakdown of residual zircon in the Izu arc subducting slab during backarc rifting
著者:平井康裕1, 2、吉田尊智3、岡村聡4、田村芳彦1、坂本泉5、新城竜一6
1. 海洋研究開発機構、2. 金沢大学、3. 北海道仁木町立仁木中学校(旧:北海道教育大学所属)、4. 北海道教育大学、5. 東海大学、6. 琉球大学

2.背景

はるか昔、日本は現在のユーラシア大陸の一部でしたが、約2000万年前に突如として大陸の縁が引き裂かれ、新しい海底が誕生しました(図1)。この新しい海底が日本海であり、この日本海の誕生によって、日本列島は現在の島国となっています。

日本海の成因については多くの研究が行われ、これまでに日本海の形成初期にはプレートの沈み込み角度や、噴出するマグマの成分に変化が起きたことが分かっており、これらのことから、高温のアセノスフェアが日本列島の下に流れ込んだことで地殻が引きちぎられ、日本海を形成したという仮説が提案されています(図1)。しかし、日本海はすでに拡大を停止していることから、これを検証するためには、現在活動中の背弧海盆において高温のアセノスフェアが関与している証拠を得ることが必要とされてきました。

そこで本研究グループは、現在も断層・熱水活動がつづく形成初期段階の背弧海盆であり、伊豆諸島西部の海底に広がる「アクティブリフト帯」と呼ばれる地域に注目しました(図2)。アクティブリフト帯は、青ヶ島リフト、明神リフト及びスミスリフトという3つのリフト(凹地)から構成されています。これらのリフトは、現在進行形で地殻が引きちぎられつつある場所で、今後日本海のように新しい海底を作ると考えられています。

伊豆諸島周辺のようにプレートが沈みこんでいる地域(沈み込み帯)では、沈み込むプレート(以下「スラブ」という)から放出される流体(以下「スラブ由来流体」という)がマントルを溶けやすくすることでマグマを発生させています(図3)。つまり、マグマが噴出して固まった溶岩の成分を分析することで、そのマグマがどのようにしてつくられたのかを知ることができます。そこで本研究では、噴出した溶岩の成分からマントルやスラブの状態を調べることを目的として、東海大学の海洋調査研修船「望星丸」を用いてそれら3つのリフトから溶岩を採取して分析を行いました。

3.成果

採取された溶岩(図4)の分析を行ったところ、アクティブリフト帯には、スミスリフトだけに分布するジルコニウム(Zr)という元素を多く含む溶岩(以下「高Zr玄武岩」という)とそれに乏しい溶岩(以下「低Zr玄武岩」という)の2タイプの溶岩が存在することが分かりました(図2)。この地域では数多くの先行研究が行われていますが、この2タイプの溶岩の存在を見出したのは本研究が初めてです。

2タイプの溶岩に違いをもたらした原因を明らかにするため、溶岩に微量に含まれる成分を比較しました(図5)。その結果、低Zr玄武岩は、マントル由来のジルコニウムしか含まない一方で、高Zr玄武岩はマントル成分に加えてスラブ由来のジルコニウムを含んでいるため、ジルコニウムの含有量が高いことが明らかになりました(図5)。

ジルコニウムは、スラブが非常に高い温度のときのみスラブ由来流体に溶けだすことが知られています。なぜなら、スラブ由来流体にジルコニウムが溶け出すためには、スラブ中に微量に含まれる「ジルコン」という鉱物が分解する必要があるからです。ジルコンが分解するには、スラブが通常考えられているよりも高い温度(900°C以上)で溶ける必要があります。

さらに詳細な検討を行うため、ネオジム(Nd)とハフニウム(Hf)という元素の同位体分析(※3)を行いました。その結果、2タイプの溶岩は、異なるネオジム‐ハフニウム同位体組成を示すことが明らかになりました(図6)。沈み込み帯の溶岩の同位体組成は、マントルの値とスラブ由来流体の値を足し合わせたものになりますが、スラブの温度(スラブ由来流体の温度)によって、生じるマグマの同位体組成は変化します。これは、ハフニウムがジルコニウムと似た性質を持っているため、スラブが非常に高温の場合のみ流体に溶けだすからです。そこで、スラブの温度が高い場合と低い場合を仮定し、生じるマグマの同位体組成を見積もりました。その結果は、スラブの温度が高い場合に、高Zr玄武岩のネオジム‐ハフニウム同位体組成を説明可能であることを示しています(図6)。

つまり、高Zr玄武岩の存在はその下のスラブが高温で溶けていることを示しています。さらに、高Zr玄武岩がスミスリフトのみに分布することは、スミスリフトの下のスラブがアクティブリフト帯で最も高温であることを示唆しています。

また、本研究では、そのような高Zr玄武岩の分布と火山フロント直下の地震波速度構造(※4)に共通点を見出しました(図7)。これらの地域は隣接していることから、アクティブリフト帯に火山フロント直下の地震波速度構造を適用すると、スミスリフト下のマントルウェッジ(※5)に最もS波の速度が遅い部分があり、スラブの上面まで達していることが予想できます(図7)。一方、青ヶ島・明神リフト下のスラブ上面には、S波の遅い部分は認められません。S波は液体が存在する場合や温度が高い場合には速度が遅くなることから、スミスリフト下に存在するS波の遅い部分が深部から局所的に上昇・流入してきた熱いアセノスフェアであると考えると、スミスリフト下のスラブの温度が高いこと、すなわちスミスリフトにしか高Zr玄武岩が分布しないことを説明できます。

これらのことから、本研究グループはスミスリフトの下に熱いアセノスフェアの流入が起こっており、それがスラブに高温をもたらしていると結論付けました(図8)。また、スミスリフトは青ヶ島・明神リフトよりもリフティング(※6)が進行していますが、このことは、スミスリフトの下に流入したアセノスフェアが背弧海盆形成の原動力となっていることを示唆しています。

4.今後の展望

本成果は、熱いアセノスフェアの流入が背弧拡大の原動力となる、という考えを支持するものであり、日本列島形成史における「日本海はどのようにできたのか」という問題を解明する上で重要な役割を果たすことが期待されます。また、海に沈んだ第7の大陸「ジーランディア」は背弧海盆の拡大によってオーストラリア大陸から分裂し、地殻が引き延ばされ沈没したと考えられており、本成果はジーランディア沈没の原因解明にも重要な示唆を与えると考えられます。

※1 アセノスフェア:地殻の下のマントル内に存在する、地震波の伝わる速度が低下して柔らかい層のことをアセノスフェア(アセノ=弱い、スフェア=圏)という。アセノスフェアは、地下100 km前後から300 km前後まで。

※2 火山フロント:日本列島のような沈み込み帯では、火山が海溝と平衡に弧をなして連なっているが、この火山帯のうち最も海溝側の火山を結んだ線。この線よりも海溝側には同時代の火山は存在しない。火山前線とも呼ぶ。

※3 同位体分析:ある1つの元素に関して、異なる質量数の核種をその元素の同位体と言う。例えば、炭素には質量数が12の炭素と13の炭素が存在するが、これは、どちらも炭素の同位体と言う。ある地学試料の同位体の比が分かれば、その地学試料の年代や起源といった地球科学においてとても重要な情報が得られる。このように同位体の比を分析することを同位体分析と言う。

※4 地震波速度構造:地震波が地面の中を伝わる速さから、地球の内部構造を推定する。一般に、地震波が伝わる物質が硬く低温であるほど地震波速度は速くなる。また、地震波はP波(primary wave)とS波(secondary wave)に区分される。

※5 マントルウェッジ:沈み込んでいくプレートと地殻の間に挟まれたマントルの領域のこと。形がくさび(wedge)に似ていることに由来する。

※6 リフティング:地殻が引っ張りの力による断層(正断層)で破壊され、凹地を形成する運動のこと。背弧海盆の形成過程では、本格的な海洋底の拡大に先んじてリフティングが起こると考えられている。

図1

図1 日本海がアセノスフェアの流入によって拡大したとするモデル。日本弧の下に発生したアセノスフェアの流入は、プレート沈み込み角度の増大や、海溝の移動を引き起こした。それらの事象に伴って、日本海周辺に引っ張りの力(引張場)が発生したと考えられている。

図2

図2 本研究の調査地域とサンプル採取地点。本研究地域のアクティブリフト帯は、北から青ヶ島リフト、明神リフト及びスミスリフトで構成されている。サンプル採取地点には先行研究による採取地点も含まれている。

図3

図3 沈み込み帯でマグマが発生するメカニズム。沈み込むプレート(スラブ)からマントルへ放出される水はマントル物質を溶けやすくする。その結果、マントル物質が部分的に溶けて、マグマが発生する。そのため、沈み込み帯のマグマにはマントル由来成分とスラブ由来成分の2つの成分が含まれている。

図4

図4 本研究で分析されたアクティブリフト帯の溶岩。高Zr玄武岩に分類される。スミスリフトの北部で採取された。

図5

図5 アクティブリフト帯の玄武岩に微量に(100万分の1パーセント程度)含まれる成分を中央海嶺の玄武岩と比較した図。中央海嶺の玄武岩成分は灰色で示す。中央海嶺には沈み込むプレートが存在しないため、中央海嶺の玄武岩と比較することによって、スラブ由来成分がどの程度含まれているのかを見積もることができる。高Zr玄武岩は、スラブ由来のジルコニウム(Zr)とハフニウム(Hf;ジルコニウムと似た性質をもつ元素)を含んでいる。

図6

図6 アクティブリフト帯の玄武岩に含まれるネオジムとハフニウムの同位体組成。マントルとスラブ由来流体の間の線は、両者の組成の混合線であるが、スラブの温度(スラブ由来流体の温度)によって混合線のトレンドが変わる。混合線のトレンドが変化するのは、スラブが高温の場合にはスラブ中のジルコンという鉱物が分解し、スラブ由来流体の成分が変化するためである。2タイプの玄武岩は異なるネオジム-ハフニウム同位体組成をもっているが、スラブ由来流体の温度が異なっていたと考えると両者の違いを説明できる。

図7

図7 Obanaらが2010年に公表した伊豆弧火山フロント直下の地震波(S波)速度構造に加筆したもの。この地震波速度構造を隣接するアクティブリフト帯に適用すると、顕著にS波の遅い部分はスミスリフトの直下に位置していると推定できる。またそのとき、高Zr玄武岩が採取された範囲はS波の速度が遅い部分がスラブ上面まで達している範囲と一致する。S波は液体が存在する場合や温度が高い場合には速度が遅くなることから、S波速度異常が高温のアセノスフェアであると考えると、高Zr玄武岩の化学組成を説明できる。

図8

図8 本研究成果の概念図。スミスリフトのみから採取された高Zr玄武岩は、沈み込む太平洋プレートが高温であることを示す。スミスリフトの下にS波の遅い部分が存在することは、高温のアセノスフェアが流入することによって、沈み込む太平洋プレートが高温になっていることを示唆する。

国立研究開発法人海洋研究開発機構
(本研究について)
海洋掘削科学研究開発センター 上席研究員 田村芳彦
(報道担当)
広報部 報道課長 野口 剛
北海道教育大学
総務部総務課総務・広報グループ 松村
金沢大学
総務部広報室広報係 井村 彩沙
琉球大学
総務部広報室 室長代理 幸野 友子
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