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プレスリリース

2018年 3月 7日
国立研究開発法人海洋研究開発機構

国際深海科学掘削計画(IODP)第375次研究航海の開始について
~海底掘削で迫るゆっくり地震の発生の謎~

国際深海科学掘削計画(IODP: International Ocean Discovery Program)(※1)の一環として、「ヒクランギ沈み込み帯の掘削と孔内観測:掘削と観測でスロースリップの謎を解け!」(別紙参照)を実施するため、米国が提供する科学掘削船ジョイデス・レゾリューション号(※2)の研究航海が3月8日から開始されます。

本研究航海では、ニュージーランド北島沖のヒクランギ沈み込み帯(図1)において、ゆっくり地震(スロー地震)の一種であるスロースリップ(※3)の発生域周辺の4箇所を海底下200~1,500mまで掘削し、海底下の堆積物や基盤岩、海溝付近の断層物質を採取し詳しく調べる予定です。さらに掘削孔内へ観測機器を設置して、今後発生するスロースリップを震源域近傍で観測します。観測から得られる地球物理学・化学的な記録と、掘削から得られる地質学的情報を統合して解釈することで、未だ謎に包まれているスロースリップの発生メカニズムの解明に取り組みます。

この研究航海には日本、アメリカ、ヨーロッパ、ニュージーランド、ブラジル、中国及び韓国から計31名の研究者が乗船し、うち日本からは4名が参加予定です。

※1 国際深海科学掘削計画(IODP: International Ocean Discovery Program)

平成25年(2013年)10月から開始された多国間科学研究協力プロジェクト。日本(地球深部探査船「ちきゅう」)、アメリカ(ジョイデス・レゾリューション号)、ヨーロッパ(特定任務掘削船)がそれぞれ提供する掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした研究を推進する。


JOIDES Resolution ©IODP

※2 ジョイデス・レゾリューション号

IODPの科学掘削に米国が提供する掘削船。日本が提供する地球深部探査船「ちきゅう」と比べて浅部の掘削を多数行う役割を担う。

※3 スロースリップ(ゆっくりすべり)

通常の地震に比べて遅い断層すべり速度で歪(ひずみ)を解放するゆっくり地震(スロー地震)の一種。ゆっくり地震は、その規模(または継続期間)によって、スロースリップ(マグニチュード(M)5以上)、超低周波地震(M3~4クラス)、低周波地震・微動(M2クラス以下)と呼ばれ、スロースリップの場合、その継続時間は数日から1年以上に及ぶ。

別紙

ヒクランギ沈み込み帯の掘削と孔内観測:掘削と観測でスロースリップの謎を解け!

Hikurangi Subduction Margin

Hikurangi Subduction Margin Coring and Observatories: unlocking the secrets of slow
slip through drilling to sample and monitor the forearc and subducting plate

1.日程(現地時間)

  第375次研究航海

平成30年3月8日
研究航海開始(首席研究者が乗船)
平成30年3月9日
日本からの研究者がニュージーランドのリトルトンにて乗船(数日の準備の後出港)
ニュージーランド北島沖において掘削
平成30年5月5日
ニュージーランドのオークランドに入港(研究航海終了)

なお、航海準備状況、気象条件や調査の進捗状況等によって変更の場合があります。

2.日本から参加する研究者(氏名50音順)

氏名 所属/役職 担当研究分野
伊藤 喜宏 京都大学防災研究所/准教授 岩石物理特性/孔内観測
野田 篤 産業技術総合研究所/主任研究員 堆積学
橋本 善孝 高知大学/教授 堆積学
Annika Greve 海洋研究開発機構/ポストドクトラル研究員 古地磁気学

3.研究の背景・目的

スロースリップとは、ゆっくり地震の一種であり、プレート運動の相対速度(〜数cm/年)より速く、地震波を放出するすべり速度(約1m/秒)より遅い速度で、通常数週間から数ヶ月程度かけて断層が一時的にゆっくりとずれ動く現象です。これらの現象は近年世界中で整備が進められたGNSS(Global Navigation Satellite System)などによる地殻変動観測網により、特にニュージーランド、南海トラフ、カスケーディアや日本海溝など巨大地震発生域において発見されています。スロースリップは、巨大地震を含む通常の地震の「速いすべり速度」の断層運動と、断層が「極めて遅い一定のすべり速度」で動きつづける「クリープ現象」の「あいだ」の現象であり、両者をつなぐ重要な現象として注目されています。しかしながら、その発生メカニズムや巨大地震との関係は未だ明らかではなく、多くの謎に包まれています。

巨大地震発生域である沈み込み帯のスロースリップに関する研究は、その発生メカニズムの理解のみならず、東北地方太平洋沖地震のような超巨大地震との関連も含めて注目されています。しかしながら、スロースリップ発生域の摩擦特性や地質学的構造に関する理解が不足しているため、スロースリップの発生メカニズムの根本的な理解には至っていません。この問題の解決に向けて、本研究航海ではスロースリップ発生域の掘削を行い、スロースリップの断層物質の取得と掘削孔への観測機器の設置を行います。

ニュージーランド北島のヒクランギ沈み込み帯北部ではこれまでに、ニュージーランド国内の陸上地殻変動観測網によって、スロースリップの活動履歴が10年以上に渡って詳細に調べられています。その結果、約2年間隔で繰り返しスロースリップが発生していることが明らかにされています。さらに、近年の海底地震・測地観測からスロースリップのすべり域が海溝軸近傍のごく浅いところまで到達していることも知られています。このため、ヒクランギ沈み込み帯はスロースリップ発生域を比較的容易に直接掘削できる地域の一つとして注目されています。

このような状況の中、本研究航海はIODPの一環としてヒクランギ沈み込み帯のスロースリップ発生域の掘削に取り組みます。スロースリップ発生域周辺の4箇所で、海底から200~1,500mの深度までの掘削を行います。掘削により海底下から堆積物、基盤岩及び海溝付近の断層物質を採取した後、船上で岩石の物性や組成、地質学的構造を詳しく調べます。また掘削孔に観測機器を設置し、今後発生するスロースリップを震源近傍で観測し、スロースリップ発生に伴う地球物理学・化学及び水理学的な変化を調べます。これらの結果を統合して、スロースリップの発生メカニズムの「謎」の解明に取り組みます。

この海域においては日本側独自の取り組みとして、京都大学、東北大学及び東京大学により実施されている海底地震計・圧力計を用いた海底地震・地殻変動観測があります。スロースリップ発生域の下端部(陸側の深さ下限)はニュージーランド陸上GNSS及び地震観測網が直上に存在するため、その広がりを高い精度で推定できます。一方、スロースリップの上端部(海側の深さ上限)の広がりを精度良く推定することは困難です。これは、上端部が陸から離れたヒクランギトラフ付近にあるため沿岸部の地殻変動観測点のみから推定することが困難なためです。スロースリップ発生域の上端部を詳しく調べるためには、トラフ周辺の海底観測が不可欠です。日本の研究者らは、特にスロースリップ発生域の上端部のすべりの特徴及び長期的な活動履歴を詳しく調べる目的で、2013年から掘削地点の周囲に海底観測機器を設置し、現在も観測を継続しています。現在は同海域に5台の海底圧力計が設置されています。本研究航海の成果は、この日本独自の取り組みにおいても活用されることが期待されています。

【参考】
IODP第375次研究航海のウェブサイト
http://iodp.tamu.edu/scienceops/expeditions/hikurangi_subduction_margin.html

Scientific Prospectus
http://publications.iodp.org/scientific_prospectus/375

図1
図1 本研究航海の掘削サイトの位置

表1 本研究航海の掘削サイト・孔の一覧(掘削順)

サイト・孔名 水深 目標掘削深度
HSM-18A 3,168m 700m
HSM-13B 3,508m 1,500m
HSM-01A 994m 650m
HSM-08A 2,908m 200m

(航海準備状況、気象条件や調査の進捗状況等によって掘削サイトを変更する場合があります。)

*図1はIODPウェブサイトより引用したものを改変

IODP JRSO・Expeditions・Hikurangi Subduction Margin

http://iodp.tamu.edu/scienceops/expeditions/hikurangi_subduction_margin.html

【参考】IODP Copyright Statement

http://iodp.tamu.edu/about/copyright.html

国立研究開発法人海洋研究開発機構
(IODP及び本航海の科学計画について)
地球深部探査センター 科学支援部長 江口 暢久 
(報道担当)
広報部 報道課長 野口 剛
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