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プレスリリース

2019年 3月1日
国立研究開発法人海洋研究開発機構

地球深部探査船「ちきゅう」による国際深海科学掘削計画(IODP)第358次研究航海
「南海トラフ地震発生帯掘削計画:プレート境界断層に向けた超深度掘削」における
C0002地点での掘削の終了と今後の予定について

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦)は、国際深海科学掘削計画(IODP:International Ocean Discovery Program)(※1)の一環として、昨年10月7日より、地球深部探査船「ちきゅう」によるIODP第358次研究航海「南海トラフ地震発生帯掘削計画(※2):プレート境界断層に向けた超深度掘削」を実施しています(平成30年9月27日既報)。この度、C0002地点(図1)での掘削を終了し、予備サイトに移動することとしましたので、お知らせします。

本研究航海は、紀伊半島沖熊野灘に位置するC0002地点の掘削孔を、海底下の地質や物性の変化を連続的に計測しながら掘り進め、地層を伝わる弾性波速度が高速になる層(巨大地震を引き起こすひずみエネルギーの一部が蓄積されていると考えられる領域)及びプレート境界断層(巨大地震発生時の震源断層)を目指すこと等により、南海トラフにおける巨大地震の発生メカニズムを解明することを目的としています。

C0002地点は、付加体という地層の激しい変形(褶曲)や断裂(断層)を伴う複雑な地質構造場にあります。本研究航海では、国内外の研究者及び技術者と議論を重ね、最善と考える掘削アプローチ(考えうる万全の準備のもと、これまでに掘削した孔を活かし、最深地点から枝掘りにより掘削を継続する計画)を採用しましたが、本地点の地質構造は予測していた以上に掘削が困難なものであり、この度、プレート境界断層より浅い深度で本地点における掘削を終了しました。

本地点では、不安定な孔内状況に対処しつつ掘削に取り組み、掘削同時検層(※3)による地層物性データの取得及びカッティングス(※4)の採取を行いながら、科学掘削としては世界最深の掘削深度記録を更新し、海底下3,262.5m(水深1,939m)まで到達しました(平成30年12月7日)。また、海洋科学掘削としては世界最深の海底下深度である2,836.5 mから2,848.5 mの区間で計約2.5 mのコア試料(柱状の地質試料)を採取しました。今後、これらのデータ及び試料を用いた研究により、巨大地震・津波の発生メカニズムの理解に貢献することが期待されます。

「ちきゅう」では、現在、ライザー掘削(※5)のため海底に設置した噴出防止装置(BOP)、ライザーパイプ等の揚収を行っており、これら作業を終了し次第、紀伊半島沖熊野灘の他の地点においてライザーレス掘削を行う予定です(別紙)。本ライザーレス掘削は、本研究航海の予備プランとして予め検討していたもので、「ちきゅう」による掘削とその長期孔内観測データにより近年存在が明らかになった海溝軸付近でのスロー地震(※6)と巨大地震(高速滑り)の関係等を解明することを目的とし、「南海トラフ地震発生帯掘削計画」でこれまでに得られた科学成果を補完・補強するために実施します。

※1
国際深海科学掘削計画(IODP):2013年10月から開始された多国間科学研究協力プロジェクト。日本(地球深部探査船「ちきゅう」)、アメリカ(ジョイデス・レゾリューション)、ヨーロッパ(特定任務掘削船)がそれぞれ提供する掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした研究を行っている。
※2
南海トラフ地震発生帯掘削計画:南海トラフにおける地震・津波発生メカニズムを解明することを目的とする研究計画。2007年に開始。プレート沈み込み帯の浅部から深部までの複数地点で掘削を行い、地質試料の採取・分析、掘削孔を用いた岩石物性・状態の現場計測(検層)及び地殻変動等の観測(モニタリング)により、断層の地震性滑りを決定づける物理化学条件等を明らかにすることを目指す。
※3
掘削同時検層:ドリルパイプの先端近くにセンサーを搭載し、掘削と同時に孔内で各種計測を行うこと。
※4
カッティングス:ドリルビットによる掘進に伴い生じる岩石の破片。ライザー掘削ではカッティングスを船上にて回収する。
※5
ライザー掘削:海底に設置した噴出防止装置(BOP)と船上とをライザーパイプでつなぎ、その中にドリルパイプを降ろして掘削する方法。船上からドリルパイプを通して、掘削孔内に特殊な掘削流体(泥水(でいすい))を送り込み、ライザーパイプを通して船上まで循環させながら掘進する。一方、ライザーレス掘削は、ライザーパイプを用いず、海底にドリルパイプを直接降ろして掘削する方法。
※6
スロー地震:低周波微動、超低周波地震、スロースリップ等に代表される、通常の地震よりゆっくりとした断層滑りの総称。「南海トラフ地震発生帯掘削計画」にて設置された長期孔内観測システム(LTBMS: Long Term Borehole Monitoring System、※7)により浅部スロースリップの発生が初めて明らかになる(平成29年6月16日既報)など近年研究が急速に進んでいる。スロー地震の発生は、巨大地震発生帯におけるひずみの蓄積過程と密接に関連していると考えられ、その発生メカニズムは新たな研究課題となっている。
※7
長期孔内観測システム: 海底下の地震・地殻変動の高感度かつ高精度な観測等を目的として、掘削孔内に設置する長期の観測システム。温度計・歪計・広帯域地震計・傾斜計・強震計・圧力計といった複数のセンサーから構成される。これまでに「南海トラフ地震発生帯掘削計画」のもと「ちきゅう」により南海トラフ前弧域の3か所(設置順にC0002地点、C00010地点、C0006地点)に設置されている。設置後、地震・津波観測監視システム(DONET:Dense Ocean floor Network system for Earthquakes and Tsunamis)の海底ケーブルと接続され、陸上に常時リアルタイムで観測データが伝送されている。
図1

図1 紀伊半島沖のIODP「南海トラフ地震発生帯掘削計画」による掘削孔位置図
超深度掘削はC0002地点(図内C0002F孔)にてライザー掘削により実施

別紙

国際深海科学掘削計画(IODP)第358次研究航海
今後の予定について

    

1. 日程

平成31年3月5日 C0002地点から移動開始予定

平成31年3月31日(最長の場合) 清水港に着岸予定

※着岸予定日を平成31年3月21日から最長で3月31日まで延期します。
  着岸日は気象海象、掘削作業の進捗状況等により変更します。

 

2. 目的及び実施内容概要

IODP第358次研究航海の予備プランとして、紀伊半島沖熊野灘における掘削地点(図2)において、「南海トラフ地震発生帯掘削計画」でこれまでに得られた科学成果を補完・補強するライザーレス掘削を行うため、下記2つのプランを実施予定です(海象気象等により変更あり)。

(1)プラン1: 巨大地震(高速滑り)と「スロー地震」の関係

近年、巨大地震発生前後の地殻変動現象として、スロー地震の観測及び研究が活発に行われるようになっています。南海トラフの海溝軸付近では、これまでにIODP第316次研究航海において得られたコア試料により、巨大地震・津波に伴う高速滑りの痕跡が発見されています(平成23年4月28日既報)。また、IODP第380次研究航海において設置された長期孔内観測システムにより(平成30年2月8日既報)、地殻変動の高感度かつ高精度なリアルタイム観測が行われています。

本研究航海では、スロー地震に関する近年の研究進展を踏まえ、これまでの科学成果を補完・補強するため、南海トラフの海溝軸付近に位置するNT1-03C地点において、プレート沈み込み帯先端部の断層帯及びその上盤の地層物性データの取得及びコア試料の採取(海底下1,000m程度まで)を行います。得られたデータ及び試料により、プレート沈み込み帯先端部の挙動(高速滑りとスロー地震が両方発生する場の性質等)が明らかになることで、プレート境界断層の深部における巨大地震・津波の発生メカニズムが類推できると期待されます。

(2)プラン2: 南海トラフ地震発生帯ができるまでの地質構造発達史

これまでの「南海トラフ地震発生帯掘削計画」の科学成果により、南海トラフにおける付加体の形成は後期中新世(600万年前)頃に開始したと推定されています。しかし、その詳細な地質構造発達史は明らかになっていません。

本研究航海では、熊野海盆北縁KB-01C地点においてコア試料の採取(海底下600m程度まで)を行うことにより、南海トラフにおける付加体の形成開始時期を詳細に検証します。地震を引き起こすひずみエネルギーを岩石が蓄積できる条件のひとつは硬いことですが、付加体は海底の堆積物がプレートの沈み込みの際に剥ぎ取られて形成されるものであり、元は柔らかい堆積物です。この堆積物が圧密、破壊、変形といった物理過程、熱と圧力による化学反応等を経て硬い岩石(堆積岩や変成岩)となることで、ひずみエネルギーを蓄積できる性質に変化すると考えられています。南海トラフ付加体の形成開始が600万年前頃である場合、南海トラフにおいては極めて短い時間で堆積物が硬い岩石に変化したことが考えられ、高速度層(巨大地震を引き起こすひずみエネルギーの一部が蓄積されていると考えられる領域)が形成された物理・化学プロセスの解明につながります。

3. 研究チーム

引き続き共同首席研究者は以下の9名(アルファベット順)が担い、本研究航海を通して、このほかIODP参加国から選考された研究者38名を含め、合計47名(8ヵ国)の研究者が参加します。

  廣瀬 丈洋(海洋研究開発機構 高知コア研究所)
  Matt Ikari(ブレーメン大学 海洋環境科学センター(MARUM))
  金川 久一(千葉大学)
  木村 学(東京海洋大学)
  木下 正高(東京大学 地震研究所)
  北島 弘子(テキサスA&M大学)
  Demian Saffer(ペンシルバニア州立大学)
  Harold Tobin(ワシントン大学)
  山口 飛鳥(東京大学 大気海洋研究所)
図2

図2 掘削予定地点
プラン1:NT1-03C(北緯33度02.0分、東経136度47.4分)(水深3,847m)
プラン2:KB-01C(北緯33度24.1分、東経136度20.2分)(水深2,010m)
【参考】
C0007地点では、IODP第316次研究航海において得られたコア試料により、巨大地震に伴う高速滑りの痕跡が発見されている。また、C0006地点には、IODP第380次航海において長期孔内観測システムが設置されている。

国立研究開発法人海洋研究開発機構
(IODP及び本航海について)
地球深部探査センター 企画調整室長 矢野 健彦
(報道担当)
広報部 報道課長 野口 剛
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