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プレスリリース

2020年 2月 13日
国立研究開発法人海洋研究開発機構

ナノスケール結晶構造の違いからサンゴモの系統分類が可能に

1. 発表のポイント

沿岸生態系で重要な役割を果たすサンゴモの形態分類は、塩基配列による系統分類と大きく異なることが問題になっていた。
サンゴモが作る炭酸カルシウムのナノスケール結晶構造の違いを加味して形態分類を行うと、塩基配列による系統分類とよく一致することを見出した。
形態分類において一般的に注目される大きな構造だけでなく、細胞レベルの微細構造が進化系統を反映していることを示す。
本成果は、地球温暖化や海洋酸性化などが及ぼす沿岸海洋生態系への環境影響評価の基礎データ取得へも貢献するものと期待される。

2.概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 松永 是)海洋機能利用部門生物地球化学プログラムのGerald Auerヤングリサーチフェロー及びオーストリア・グラッツ大学のWerner E. Piller教授は、サンゴモ(図1)の形態分類形質として、細胞壁周囲に形成される炭酸カルシウムの微細結晶構造(図2)が有用であることを発見しました。

サンゴモはサンゴ礁や沿岸の生態系で非常に重要な分類群であるにも関わらず、DNAの塩基配列による系統分類と形態に基づく系統分類が一致せず、分類や分布などの基礎研究があまり進んでいませんでした。

そこで本研究では、世界各地から採取した15種のサンゴモ(図3)の骨格微細構造を走査型電子顕微鏡で観察し、分子系統樹との比較を行いました。その結果、骨格表面の微細結晶構造には多様な形態があり(図4)、その違いが塩基配列による系統分類とよく一致することがわかりました(図5)。

今後、外部から観察可能な微細構造に着目した研究を進めることで、サンゴモの分類や分布域の研究が進み、海洋酸性化がサンゴ礁生態系に与える影響などを正確に評価できるようになると期待されます。また、微小な結晶構造のような、これまで分類形質としてはあまり着目されてこなかった形質について他の生物分類群でも解析が進めば、系統を反映する形態形質について理解が進む可能性があります。

本成果は、「Science Advances」に2月13日付け(日本時間)で掲載される予定です。

タイトル:Nanocrystals as phenotypic expression of genotypes—An example in coralline red algae
著者:Gerald Auer1,2、Werner E. Piller2
1. 海洋研究開発機構、2. University of Graz, Austria

3.背景

サンゴモは世界中の海洋沿岸に広く分布する紅藻植物です。岩、貝殻や人工物などの硬い基盤の上にピンク色や赤色の塊状にみることができ(図1)、時には、海底一面を覆いつくすほどに繁茂します。サンゴモが造る炭酸カルシウムの骨格は、稚魚や稚ガニなどが捕食者から身を隠すのに絶好の隠れ家を提供します。また、サンゴ礁では、サンゴモがサンゴ同士をつなぐ「のり」のような働きをし、サンゴ礁の安定化やその後の成長にも役立っています。このように、サンゴモはサンゴ礁をはじめ浅海の生態系において多様な生息地を作り出す「生態系エンジニア」として重要な役割を果たしています。

また、サンゴモが炭酸カルシウムの骨格を作り出す方法は、細胞壁の外側に多糖類の微小繊維を作ってそこに炭酸カルシウムを沈着させるという独特のものです(図2)。炭酸カルシウムの骨格を持つ生物は、海洋酸性化の影響を受けやすいとされており、独自の骨格形成メカニズムを持つサンゴモが酸性化に対してどのように応答し、生態系が変化しうるのかを理解することは非常に重要です。

しかしながら、サンゴモは他の生物に比べてそれほど研究されてきませんでした。その大きな理由は、塩基配列による分子系統分類、骨格の外部構造による形態分類、軟体部の構造による形態分類、それぞれが異なる分類体系を示し、形態的に種の同定が困難であったからです。形態的に同じグループとされているサンゴモがまったく別の系統であったり、反対に、同じ系統のサンゴモが、大きく異なる形態を示すこともありました。

本研究では、サンゴモの独自の骨格形成プロセスに着目し、骨格の外部形態ではなく、骨格を作る際にできる微小な結晶形態が、サンゴモ内での系統の違いによる骨格の作り方を反映しているのではないかと考え、走査型電子顕微鏡を用いて多様なサンゴモの骨格微細構造を観察、検討し、分子系統分類との比較を行いました。

4.成果

沖縄県瀬底島を含む11地点から15種のサンゴモを採取し(図3)、骨格微細構造を観察しました。その結果、数百ナノメートルサイズの結晶の形態に、粒状、ブロック状、棒状、ひし形、ひし形の連結型、という異なる形態がありました(図45)。生殖器の違いによる大分類に加え、これら骨格表面の結晶構造の違いを塩基配列による系統分類(Bittner et al. 2011)と比較したところ、両者がよく一致することがわかりました(図5)。このことは、サンゴモの系統により炭酸カルシウムの骨格の作り方が微妙に異なり、それが結晶構造の違いとして表れていることを示します。また、結晶構造の観察は、複雑な形態計測アプローチを用いたりしなくても走査型電子顕微鏡を用いて表面を観察するだけで容易に行えることから、サンゴモの形態分類に非常に有効です。

5.今後の展望

サンゴモの簡便な分類形質を見つけたことにより、今後は沿岸域の生態系の基盤をなすサンゴモの正確な分布域をより効果的に把握することができるようになります。これにより、温暖化や酸性化の影響が表れている、もしくは表れやすい海域に現在どのような種が生息し、今後どのような種に変わっていくのかなどの予測を行うことができるようになります。環境変動に対するサンゴモの応答を知ることは、沿岸海洋生態系全体への影響を知るうえで不可欠であり、より正確な環境影響評価につながるでしょう。

生物の形態分類は、個体の外部形態、内部構造などから主に行われていますが、本研究の成果は、生物が作り出す骨格の微細構造レベルの観察でも重要な分類形質を見つけ出すことができることを示します。特に、分子系統と形態分類との間にギャップがあるような分類群では、このような微細構造の観察により、系統の違いを反映する重要な形質を見つけ出すことができるかもしれません。

図1

図1.サンゴモの例。a)b)アメリカ合衆国フロリダから採取したrhodolithと呼ばれるサンゴモ。c)沖縄県瀬底島から採取した、サンゴモ(左側の赤っぽく見えるもの)やその他の藻類に覆われた岩。

図2

図2.サンゴモの上皮細胞周辺の走査型電子顕微鏡写真と、その構造の模式図。炭酸カルシウムに囲まれた空間はもともとサンゴモの細胞質が入っていた場所。上方(サンゴモの外側)に向かって細胞が成長する。

図3

図3.サンゴモを採取した地点。星印の中の数字は、その地点で解析したサンゴモの種類数を示す。Werner E. Piller教授が1980-90年代に採取したコレクションをもとに解析を行った。

図4

図4.サンゴモの表面の走査型電子顕微鏡写真。白三角の矢印の先に、数百ナノメートルサイズの微小結晶(左:ひし形、右:棒状)がみられる。

図4

図5.生殖器の形態、細胞壁のタイプ、そして微小結晶構造の違いを加味して作成した形態によるサンゴモの系統分類と、DNAの塩基配列に基づくサンゴモの系統分類の比較。

国立研究開発法人海洋研究開発機構
(本研究について)
【英語】
海洋機能利用部門 生物地球化学プログラム ヤングリサーチフェロー Gerald Auer
【日本語】
超先鋭研究開発部門 超先鋭研究プログラム 主任研究員 野牧秀隆
(報道担当)
海洋科学技術戦略部 広報課
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